お問い合わせ

03-5677-3930初診受付

ブログ

2019年11月2日

11255:思いやりは人間の英知から:若倉雅登先生随筆から

思いやりは人間の英知から

私の提言、苦言、放言 第161回

井上眼科病院名誉院長 若倉 雅登

清澤のコメント:先日台風で流れた眼瞼・顔面けいれん友の会の例会は本日午後に開かれます。会場はいつものコーワ新薬の講堂。水曜日に出版された、若倉先生、荒川さん、清澤の記事の出た週刊朝日のコピー(←リンク)を配布すべく準備しています。さて今回の「若倉先生、私の提言、、」の一部を引用します。眼球使用困難症(≒眼球使用困難症候群)。今回も若倉先生の患者さんに対する共感あふれた記事です。ぜひ原著雑誌(眼科ケア)をお買い求めください。

――抜粋―――

前号で「医療の前提に思いやりが必要なら、道は遠い」(←リンク)という文章を書いた。書いていて、ごくごく当たり前のことに気付いた。思いやりが必要なのは医療だけでなく、我々の生きている社会なのではないかと。

人間も生き物だから、生存競争をする。それは「自分勝手になる」ということでもある。自分勝手とは「自分の身を守る」「断分だけ得をする」「自分さえよければ満足する「本能の赴くままに生きる」ということだ。その先には「自分の好みでないもの」「自分の利にならないもの」を力で強引に除こうする姿が見え隠れする。自分が疎外されないために、その力の仲間になったり、なったふりをしたりする人も出てくる。意見や利害の近い人たちが徒党を組めば、集団的な排他力学が働く。そうなると、仲間になることを潔しとしない者や、そうする力さえ湧かない弱者は絶望し、孤立し、引きこもり、果では生きるのをやめてしまうかもしれない。これを野放しにすれば、社会は誠に未成熟な、いびつな姿になる。大げさでなく、戦争が起こりやすくなる土壌を作っていくといい得るかもしれない。

そこに救世主として登場すべきなのは、天が人間にしか与えなかつた「英知」であろう。まずは、強者だけがはびこる仕組みを除き、誰もが「ハツピー」になるように、秩序やルールを作ることが先決だ。そこでは個人個人の考えを持ち寄って、近代的、民主的な合意が形成されるプロセスが枢要である。それでもなお、心身のハンデイ、個人では乗り越えられないさまざまな場面での力不足、災害など、環境因子や何らかの不運によって、社会的、経済的格差が生じるのは避けようがない。ここにこそ、人間としての想像力や思いやる心が注がれなければならないと思う。

現行の法律では視覚障害として認めてもらうことが難しい視覚障害がいろいろあることは、この連載でも何度か話題にした。最近、提唱している「眼球使用困難症候群」はその好例である。これには眼瞼けいれんを筆頭に、中枢性羞明症候群、眼部慢性疼痛、調節輻湊開散系のダイナミクスの障害、さまざまな眼位・眼球運動障害や学習障害など、いろいろな形が存在する。発症の契機となる原因も、頭頸部外傷、神経系薬物、脳内器質的疾患、化学物質や病原体など、推定できる場合もあるが、まったく不明な場合も少なくない。骨折した、変形したなど、外見や画像検査などで直ちに病変が明らかになるものと違い、こうした異常は第三者には認識も理解もされにくい。

筆者は第三者にその人たちの生活上の障害が理解されやすいように、「眼球使用困難症候群」というくくりを考え出して命名した。この名称なら、眼球や祝神経に異常はなく、外見上も障害を持っていることがわからないケースでも、この人はその健常な眼球を自在に利用できない障害があるのかと具体的に不都合の様子を想像できる。ちなみに、国や医療関係者、一般人にも、想像力をかきたててもらう前提には、まずそれが注目されなければならない。「眼球使用困難症候群」という、学術的疾患名としてはいささか新奇というか、いささか奇抜な、あるいは常識外れとも思える名称にして、日に留まることも意識したのだ。

「眼球使用困難症候群」という用語は、私は個人的にとても気に入っている。たとえば「重症な眼瞼けいれん」とか「高度の差明を伴う高次脳機能障害」などといえば、若干、医学用語らしくなるが、やはり実態はわかりにくい。メカニズムが十分にわかつていないならわかったふりをするような専門用語もどきを使用するのは、患者に寄り添っているとはいえまい。

千葉大学の山本修一氏を班長として、視力や視野では評価できない視覚障害について、法律改正をも視野に入れた実態の検討が、厚生労働省の研究班として調査研究が現在行われている。その山本氏から、「眼球使用困難症候群とは何だ?」という質問を昨年いただいた。それに回答すべく、私的なワーキンググループを組織して、全国から「眼球使用困難症候群」の代表症例を取集し、検討した。間もなく、その結果を学術誌に投稿する。

Categorised in: 未分類