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2015年12月1日

7145:わかりやすい臨床講座 神経眼科と頭痛 清澤源弘:日本の眼科;記事採録

わかりやすい臨床講座 神経眼科と頭痛
清澤源弘

 (清澤のコメント:日本の眼科11月号に私への依頼原稿が掲載になりました。一般の眼科医の方々のお勉強用の記事です。)


はじめに:
頭痛は眼科で見られる神経症状の中でも最も多い症状の一つであり、しばしば眼窩深部痛や眼球の痛みにも通じている。
これらの痛みは、通常器質的な異常のない一次性頭痛(機能性頭痛)と器質性な異常が原因で起こる2次性頭痛(症候性頭痛)に分けられる。
本稿では、神経眼科診療に関連する頭痛をまとめる。前の記事に国際頭痛分類における眼科関連疾患と、片頭痛が特に取り上げられているので、その部分の記述は短くして、本稿では実際の診療で出会うことがあり、頭痛の診療で鑑別疾患に含めて考えて戴きたい疾患も紹介する。
頭痛は、機能性頭痛と症候性頭痛を分けて考える1),2)。機能性頭痛には1)片頭痛、2)緊張型頭痛、3)群発頭痛、(慢性発作性片側頭痛)そして4)その他の非器質性頭痛が含まれる。また症候性頭痛には、ざっと上げるだけでも、くも膜下出血、動脈解離、脳出血、高血圧脳症、静脈洞血栓症、慢性硬膜下出血、脳腫瘍、低髄液圧症候群、髄膜炎、脳炎、脳膿瘍、硬膜下膿瘍、側頭動脈炎、急性緑内障、副鼻腔炎などが含まれている。

Ⅰ、一次性頭痛、(機能性頭痛)
1、 片頭痛
片頭痛には前兆のあるものと前兆が無いものがある。
前兆の無いものでは痛みの性質は拍動性であって、痛みの部位は通常片側性であるが時には両側性である。痛みの持続時間は4から72時間程度で、その発作回数は月に3から5回程度である。好発年齢は10から20歳代にあって、女性の方が男性よりも多い。随伴症状として悪心、嘔吐、倦怠感そして羞明を伴う。
閃輝暗点は、視覚的な前兆のある片頭痛で見られる特徴的な幻視で、この視覚的な予兆を閃輝暗点と呼ぶ(図1)。やがて通常の片頭痛に進展することも多い。性質、部位、持続時間、発作頻度、好発年齢及び性別などの特徴は前兆の無い片頭痛と同様である。随伴症状として閃輝暗点、悪心、嘔吐、羞明があげられる。片頭痛の治療薬にはエルゴタミンとカフェインの配合剤などが用いられる。発作の予防にはカルシウム拮抗薬なども用いられる。片頭痛の診断は症状の聴取に基づき行われ、必要性を勘案してMRIなどの画像診断を加えて症候性頭痛を除外する。
 
図1:閃輝暗点:ぎざぎざのものがちらちらと光って見え、中心部分は暗点となる。

視野の中心から始まり、ぎざぎざの光がらせん状に広がってやがてその中央は見えなくなるが、しばらく休むうちに視野は回復する。
2、緊張型頭痛:緊張型頭痛は、頭を締め付けられるような鈍痛をその特徴とし、部位は両側性で、前額部、後頭部および項部を含むことがある。持続時間は30分から7日程度と様々で、発作頻度は月に15回以下程度である。後発年齢は不定で、男女差もない。筋弛緩薬などが用いられる。 
3、群発頭痛:群発頭痛は拍動性でえぐられるような激しい頭痛である。その痛みの部位は片側の眼窩部であり、持続時間は15分から3時間程度。発作のおきやすい夜間などに頻発する。後発年齢は20-60歳代で男性に多い。発作時には流涙、鼻汁、鼻閉およびホルネル兆候を示すこともある。予防的にカルシウム拮抗薬や抗セロトニン薬が処方される。
4、三叉神経痛:60歳以上の女性に多く、片側の三叉神経Ⅱ枝あるいはⅢ枝領域の皮膚に電撃的なあるいは灼熱的な疼痛を感じる。触れると痛みが触発されるトリガーゾーンと呼ばれる部位を持つ。三叉神経が脳幹に入る部位で上小脳動脈に圧迫されていることが多く、神経画像で確認することができる。5%程度では多発性硬化症の髄内病変がこの原因になることがある。治療にはカルママゼピンなどが用いられる。外科的血管減圧術も検討される2)。
6)セネストパチーの頭痛・眼痛
体感幻覚(セネストパチーcenesthopathy)は身体各部における異常感覚を奇異でグロテスクな表現で執拗に訴え、それを説明しうる客観的身体所見を欠く病的状態であり、体感症または体感異常症と訳される。神経眼科を訪れる患者には慢性の眼痛や頭痛を執拗に訴えるものがあり、ドライアイや眼周辺部の炎症など痛みの原因になる病態が除外できる場合にはこの疾患も考える必要がある。白内障などの手術をきっかけに痛みの訴えが発症する場合もあり、その場合には患者と眼科術者とを悩ませることになる。その多くは慢性に経過し治療抵抗性である。体感症状のみが主症状となる狭義の単一症候的概念と、統合失調症、うつ病、器質性精神障害などに伴う一症候群としてとらえられる広義の概念とに分けるのが一般的であるが、疾病学的な位置づけはいまだ定まっていない。これまでは抗鬱薬と抗精神病薬を中心に行われてきたセネストパチーの治療に対してリチウムをはじめとする気分安定薬を十分量用いることの可能性を論じた報告もある。眼科での対応が困難な場合には精神科の併進を求めることが必要な場合もあろう3)。
7)眼瞼けいれんに伴う眼痛と頭痛。
眼瞼けいれんは、目の周りの筋肉が収縮して目を開けにくくなり瞬きがうまくできなくなる疾患である。眼の疲労でおこる良性のれん縮である眼瞼ミオキミアと違って、眼瞼けいれんでは通常は細かい瞼のぴくぴくした動きは無い。現在この疾患は、筋が不随意に収縮する局所ジストニアの一部、特に頭頚部のジストニアの一つの型として分類されている。目の周りの不随意運動だけであれば眼瞼けいれん、そしてそれが口周囲から頸部まで広がればMeige症候群と呼ばれる。
眼瞼けいれんには1)運動症状:瞼が開きにくくなったり、瞬きがうまくできなかったりする。2)感覚症状:目の不快感とまぶしさ、目がしょぼしょぼして閉じている方が楽だという。風が当たると辛く、また、何とも言えず目が不快で、眼球や目の奥に痛みを感じ、頭痛と表現する場合もある。3)うつ症状:気分的に落ち込みがちになる。外に出たくなくなり、ひとと会うのも嫌になる。といった大きく分けて3つの症状が有るので、感覚症状としての眼および眼窩部の疼痛は頭痛として表現される場合もある。
治療前に眼瞼けいれんを疑うためには以下の10項目を聞いてみるとよい。それは、瞬きが多い、電柱などにぶつかる、まぶしい、外出を控える、目をつむっていたがる。運転を断念した、目が乾く、手で瞼を開くことがある。人込みでぶつかる、片目をつむるであり、3つ以上があれば眼瞼けいれんを疑ってボトックスの眼周囲への注射などの治療を考慮するか、或いはボトックス治療に習熟した眼科医への紹介を検討するのが良い4)。(図2)

図2.眼周囲へのボトックス注射の実際。

Ⅱ、症候性頭痛(二次性頭痛):

1、 血管に関連する頭痛
激しい伴う痛みを伴う動眼神経麻痺を見たら、内頚動脈と後交通動脈分岐部の破裂しかけた動脈瘤(IC-PC動脈瘤)をまず疑わねばならない(図3)。

図3:IC-PC動脈瘤に伴う動眼神経麻痺例、
左眼球運動は上下転、内転ともに制限があり、外方に偏位している。左瞳孔は散大していた。この症例は動脈瘤処置後に当医を受診したが、初診時の重篤な動眼神経麻痺は数か月でほとんど回復した。動脈瘤破裂時の頭痛は激烈であったが、脳外科で早急に処置がなされていた。

脳動脈瘤では脳血管の分岐部で血管が血圧変動に伴って変形を繰り返す影響で、中膜が破損して血管壁の一部が拡張膨隆する。動脈瘤ではその直径が増大して動脈壁に伸展性の力が加わるとそれを感じて強い頭痛を生じる。数日来「目の奥の強い痛み」を訴えるというような場合には、MRIをオーダーするよりも先にその日に脳外科医に患者を渡した方が安全かもしれない。動脈瘤が破裂してくも膜下出血を生ずれば「金槌で撃たれたような」と表現される激しい痛みを生じる。ただし、スクリーニング目的で撮影されるMRIではその数パーセントに無症候性の脳動脈瘤が隠れていて、直径5ミリを境にそれよりも小さいものは脳外科に見せても継続的な観察を指導される場合が多い。

2、 頸動脈解離症
動脈硬化の強い内頚動脈では動脈壁の解離を生じて痛みを訴えることがある。診断はMRIで行えるが、このばあいにも脳梗塞発症の恐れがあるので脳外科に対応を依頼する必要がある。

3、 副鼻腔炎および副鼻腔貯留性嚢胞
目の周りの鈍痛が持続するという場合、MRIを撮影してみると副鼻腔に液体が貯留していて、場合に因ってはその嚢胞が眼窩内まで拡大している場合もある。原発性の場合もあるが、小児時に副鼻腔炎手術の既往を持っていて、のちに術後副鼻腔嚢胞を生じている場合が多い。画像診断で副鼻腔疾患が疑われれば、手術ができる耳鼻科の診療施設に治療を依頼する。副鼻腔の疾患では腫瘍の場合もあるし、感染症であっても真菌が原因である場合もあるので、むやみにステロイド薬を投与してはいけない。

4、 帯状疱疹
頭部に出る三叉神経では第一枝に出るものが多い。患部の疼痛は強く、頭痛と表現されることはまれではない。皮膚に水泡が出てその分布が額の左右に偏っていればその診断は比較的容易と思われるが、水泡発生前では水泡が見つからないこともあるから、頭痛を見たらこの疾患も疑ってみる必要がある。小児の時に罹患した水痘ウイルスが三叉神経節に潜伏していて、免疫の減弱などに伴って再活性化されて発症するものである。治療には抗ウイルス薬の内服が必要であり、早急に皮膚科医への紹介を要す。眼科でも抗ウイルス薬の眼軟膏を処方し併用を勧める。

5、巨細胞性血管炎:高齢者で微熱と易疲労感があり、顎跛行などの訴えがある。場合によっては片側に虚血性視神経を発症する。これが動脈炎性虚血性視神経症である。視神経の循環障害があれば疑いやすいが、単に頭痛を訴えて受診する場合にもこの疾患は考えるべきである。その疾患であれば、赤沈亢進などの炎症所見が血液検査でみられる。

6、肥厚性髄膜炎
頭痛が続き脳の画像診断で髄膜の肥厚がみられる場合にはこの疾患を疑う。一般には非特異的な炎症であり、血液検査ではアレルギー性血管炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群などが疑われる採血結果を示すこともあるが、実際に髄膜の組織診断までを行えることは少ない。ステロイドのパルス投与ないしは内服が一般には有効である。

7、トローザハント症候群
これは有痛性眼筋麻痺の別名であって、炎症が三叉神経と動眼神経を同時に侵すものである。この疾患の炎症も非特異的なものである。画像診断を丁寧に行い、ステロイド投与で治療的に診断するが、時に悪性リンパ腫が隠れている場合もあるので、それを疑って治療する場合には血液腫瘍内科にも併診を求めるのが良いだろう。

おわりに:
頭痛は神経眼科を受診する人の中でも多くの患者が訴える症状である。患者の訴えをよく聞き、最もあてはまるであろうと思われる疾患を考えながら、検査を進める。そして治療を試みながら問題の解決を目指す。疾患によっては脳外科、神経内科、耳鼻科など周辺領域の診療科の協力を求めなくてはならないことも多い。

文献

1)大高弘稔、総編集山口徹、北原光夫、他 今日の治療指針、突然の頭痛――緊急検査と応急処置、私はこう治療している。11-12、医学書院、東京、2012。
2)向野和雄、神経眼科、第5章 三叉神経系、涙液分泌の症候・検査法。Ⅲ 頭痛、250-256、金原出版、東京、1997.
3)上田諭、丸谷俊之、大久保善朗、初老期のセネストパチーと躁的要素、気分安定薬の有効性。 精神神経学雑誌115:127-138、2013
4)清澤源弘、江本博文、若倉雅登、目がしょぼしょぼしたら、眼瞼けいれん?片側顔面痙攣?正しい理解と最新の治療、メディカルパブリケーションズ、東京、2009

Categorised in: 未分類