お問い合わせ

03-5677-3930初診受付

ブログ

2015年9月30日

7028: 科学コミュニケーションを考える 社会への説明責任を果たし, 理解と支持を得ながら研究を行う;という記事

n3142_04
【鼎談】科学コミュニケーションを考える 社会への説明責任を果たし, 理解と支持を得ながら研究を行う;という記事が週刊医学界新聞 第3142号 2015年09月21日に出ています。抄出してみます。

標葉 隆馬氏 成城大学文芸学部
専任講師 髙橋 政代氏 理化学研究所
プロジェクトリーダー 八代 嘉美氏 京都大学 iPS細胞研究所

◎科学者と社会の間で,科学にかかわる情報をやりとりすることを「科学コミュニケーション」と呼ぶ。科学技術への誤った理解により,過剰な期待や批判が生まれてきた。
研究者が関与する医療技術の社会全体での位置付けと責任を認識し,患者の理解と現実のギャップを解決していくことが求められる。

髙橋 研究者・医療者は,適切な情報発信をし,かつそれが報道機関を通して社会全体に正しく伝わるように努力せねばならない。 報道関係者との勉強会を開催したり,学会中に報道関係者からの質問の場をつくったり,開かれた場でのディスカッションを行った。

髙橋 2001年,虹彩細胞への遺伝子導入による視細胞様の細胞の作製と網膜への生着が成功した際,報道の後に患者さんがドッと来た。しかし,まだその段階ではないと伝えねばならなかった。 結果として患者さんに第二の絶望を与えてしまった。

八代 確立した治療と勘違いして臨床研究に参加する「セラピューティック・ミスコンセプション(therapeutic misconception)」も,大きな倫理的問題

◎将来起こり得る課題を先んじて議論し,発信する

八代 過剰な期待だけでなく,誤解による批判というかたちでも生じ得る。
標葉 議論の偏りや理解の乖離が生じるのは報道機関だけが問題なのではない。重要なことは,「将来起こり得るさまざまな課題に関しては,倫理的・社会的な問題を含めて研究者たちの中であらかじめ議論し,早い段階で発信する」こと。

 具体的な例として,GMには研究者側の対応によりその後の社会の流れが異なった二つの事例がある。一つは,研究者が自治を発揮できたともいえる事例,1975年に開催された「アシロマ会議」。「新しい技術を実際に応用する前に,まずはルールをつくろう」とGM技術を開発した研究者自身が中心となって行われた。一方,対応が後手に回ってしまった事例が,2005年に施行された「北海道遺伝子組換え作物の栽培等による交雑等の防止に関する条例」。

 たしかに1997-2002年前後に不安やリスクを強調した報道が多数なされたことは事実ですが,その前の長い期間は,記事数は少ないながら期待感にあふれた書き方をされていた(図)。

図 日本の新聞における遺伝子組換え報道数の動向1)
1997-2002年にかけてGM食品のリスク・不安を強調した報道多数。その後,北海道条例の話にシフトしつつ記事数減少へ。

髙橋 再生医療分野では,情報発信をタイムリーに行う。インターネットを通してすぐに情報発信ができる便利な時代。 国外でも,ヒトiPS細胞が発表された2年後の2008年には,国際幹細胞学会が「ISSCR 幹細胞の臨床応用に関するガイドライン」を発表している。

髙橋 記者も,10年前とは知識レベルが違う。いまでは要点だけ伝えればよい。情報に接する機会が多いため,iPS細胞については一般の理解も進んでいる。

八代 私が2012年に行った研究の,「あと何年くらいでiPS細胞が臨床応用できると考えますか?」という質問への回答を見ても,研究者と一般の方々の間で認識のずれはほとんどない。山中伸弥先生(京大教授)がノーベル生理学・医学賞を受賞する直前の調査でしたが,「今すぐに応用できる」と思う人はほぼいませんでした。

◎科学者自らが“正しい”情報を発信する

八代 社会全体の理解力が上がってくると,報道媒体を通す前の,われわれが発信する情報の正確さについてもあらためて考えねばならない。

 イギリスの20数大学のプレスリリースと新聞報道を比較した研究によると,成果が誇張された報道の内,8割はプレスリリースの段階で既に誇張されていた。発信者側が大げさに言っている場合には,社会での認識も引っ張られる可能性が高い。ベンチャー企業が先導している研究の場合,資金集に成果を強調しすぎる場合もあるよう。

八代 どのように伝えるかのバランスが難しい。誇張されすぎたり誤解された情報が広まると,透明性に欠ける,いわゆる“医療まがい”の行為がはびこる温床にもなりかねない。 訴訟を恐れてコメントしないのはいけない。さも科学的であるように装われた理論の場合,一般の方は誤りであることに気付けず,納得してしまうこともある。

髙橋 “恣意的”ではなく“正しい”情報提供を。 自ら科学コミュニケーションを行っていく意識が必要。

◎「個人」ではなく「組織」「政策」レベルの取り組みを

標葉 研究者による科学コミュニケーション活動が推進されている。若手世代を中心にその重要性は浸透しているが,課題もある。

八代 現状では「そんなことをやっている暇があるなら,研究に専念しなさい」と言われてしまうこともある。

標葉 学会などの領域単位での活動への移行に加え,政策的な支援や制度化も必要。適切に評価を行った上で,研究者一人ひとりの負担を軽減できるシステムをつくる必要があえう。

髙橋 私は今年,再生医療学会の広報委員長に就任した。今までは個人で行ってきたメディアの勉強会などを,学会として行っていきたい。

八代 再生医療学会では,文科省のリスクコミュニケーションのモデル形成事業も実施。推進派と慎重派の専門家同士の対話を公開で行うなど,透明性も高める。

 科学コミュニケーションは,医療を含む科学全体が社会の信頼を得ていく上で不可欠なもの。再生医療分野だけでなく,全ての研究者たちが取り組んでいかねばならない。

Categorised in: 未分類