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2015年3月17日

6372: 眼感染症マニュアル:書評 清澤源弘(週刊医学界新聞)

無題書評を頼まれて書いたものが週刊医学界新聞(3117号2015.3.16発行)5ページに掲載されました。

「眼科臨床エキスパート」眼感染症診療マニュアル 吉村長久ほか:シリーズ編集
薄井紀夫、後藤浩 編

 眼感染症診療マニュアルという本がこのたび上梓されました。内容は422ページと読み応えのある厚さのある本に仕上がっています。編集は薄井紀夫先生と後藤浩先生の東京医科大学のコンビです。
実際に本を手にしてみますと、眼感染症をテーマに診療に取り組んでおられる先生方41人のお名前が執筆者として記載されています。ひょっとしたら眼感染症の専門家のお名前はすべて使われてしまっており、感染症には専門外の私などの所に書評のお鉢が回ってきたのかもしれません。
まず編集者の薄井紀夫先生は総説として眼感染症の診療概論を述べています。その記載が重要です。医療スタッフを介した二次感染を防ぐには「標準予防策」が必要で、とりわけ擦式アルコール製剤を用いた手指衛生の正しい習慣化が義務であるといっています。確かにそうでしょう。また、眼科における3つの重要な事象として、流行性角結膜炎の院内感染、術前滅菌法、ポピドニョードの術中点眼法をあげています。昔は、入院患者に流行性角結膜炎が出た場合病棟閉鎖という最終的な手が使えたのですが、現在では病棟のベッドが他科と共用になっていますから、病棟閉鎖という手も使いにくくなっていると思います。
また著者は白内障などの眼内手術に対して術前術後の抗菌薬の無前提な使用よりもイソジン液を希釈した0.25%ポピドンヨード液の術中点眼を推奨しています。このところ私は眼内手術からは離れてしまっていますが、今の世の基本は抗生剤の増量ではなく、このヨード剤のお術中点眼に変わっていると理解しています。今後、硝子体内注射を外来で行うような部分に手を広げる場合には、その知識が使えそうです。
さらに、診断原則として、ゴールは病因微生物の同定であるとしています。そしてまずは感染症を疑うことが大切で、漫然と様子を見てはいけないとしていました。アカントアメーバ感染症を角膜ヘルペスと誤る、真菌性角膜炎を細菌感染と誤る、クラミジア結膜炎をアデノウイルス感染と誤るなどは確かに起こしやすい誤診の例でしょう。そこで著者は診断時に病因微生物を想定し、微生物名を冠した推定診断をまず行ってみることを薦めています。確かに、なんだかわからぬがクラビットというのと、そこまで考えて処方を決め、またその薬剤への反応と分離された株を突き合わせる癖をつけることで、明日からの診断力には格段に差がつくことでしょう。此の章の最後に著者は身の程として、己の丈、己の限界、己のなすべきことを考えよとしています。いささか哲学的ではありますが、聞いてみるべき言葉でしょう。
さて、この本全体を見回してみれば、それなりに今風に多くのカラー図版を加えた構成になっています。それは実際に患者さんを前にして調べるには大変な助けになります。第2章からの疾患各論は涙器、結膜、角膜、ブドウ膜、眼内炎、術後感染症などなどに細分されており、その各章は20から40ページほどです。ですから、診療マニュアルというその名の通りに、或いは重篤な患者さんを入院させてから急いで開いて読んでも十分に間に合う量の記述であると思います。
 表紙はおとなしいムック様の本ですが、内容は具体的で、軽い本ではなさそうです。わからない感染症例が来たら、まずこの本に頼ろうと心を定めて、机の上にそっと用意しておくのには格好の本だと思います。

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