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2014年9月30日

5860 心因性視覚障害の診断

心因性視覚障害の診断
清澤眼科医院・東京医科歯科大学眼科 清澤源弘 

(日本の眼科:黄色のページへの寄稿原稿です。)

1、 心因性視覚障害とは、
視覚障害とは視機能が日常生活で不自由な程に弱いことで、その原因に精神的ストレスが関与しているものを心因性視覚障害と呼ぶ。心因性視力障害には、ヒステリー性視覚喪失、非生理的視覚喪失、非器質性視覚喪失など多くの類語がある。(1、元の引用総説、2江本)欧米の用語でこれに対応するのはfunctional visual loss(機能的視覚障害)である。非器質性とは、器質的障害がその視覚障害の主因ではないことを示唆する。また、心因性視覚障害は時に眼球運動など運動系の障害も示す。成人に多く、契機が推定できる転換型と、自発的苦痛がなくて8-12歳頃の女子に多く、学校検診などで見つかる非転換型とを分ける。 (2、気賀沢)

2、 臨床症状:
心因性視覚障害と器質性障害の訴えに差はない。外傷に続発することもあるし、法務的問題を伴うこともある。患者は片眼または両眼の視力低下を訴える。 軽度障害もあれば、完全な失明のこともある。症状が強く、片眼なら心因性視覚障害の診断はつけ易い。一方、軽症で両眼性なら、診断は難しい。眼球運動系の訴えでは複視と視線追従の困難を訴える。眼瞼下垂や瞬目過多を訴えることもある。二次的利得を感じさせないことも多く、訴えが嘘とは思えないこともある。先入観を持った判断は誤診を招くので、判断には根拠が必要である。

3、知覚性の心因性視覚障害の診断
最も有用な診断器具はゴールドマン視野計で、視野狭窄には2型がある。その一つは狭窄した視野で、検出されるイソプターの螺旋化と交差は、手動視野計のアーチファクトである。検査者が視標を周回させれば螺旋状パターンを生成し、任意の方向から視標を持ち込めばイソプターは交差する。自動視野計では、単に狭窄した視野となる。
もう一つは、トンネル視野で、異なる距離で見える視野の直径が変わらない。視力低下があっても正常視野のことがある。指数弁といいながらI1eが見えるなら心因性視覚障害か詐病である。自動視野計だけが可能なら、黄斑閾値に留意するとよい。片眼の心因性視覚障害には両眼開放視野が有用だが、隠れて良い目をつむる患者もいる。両眼開放視野は、良い眼の結果と同等以上であるはずである。
このほかの片眼視力低下を試す方法にクロスシリンダーの利用がある。正負の乱視レンズ2枚を同軸で載せておき、その1つを90度回転させる。その結果、視界はぼけるはずである。4プリズム基底下方テストでは普通なら不快な垂直複視を感ずるはずで、交替固視を示すなら両目は見えている。立体視があることと、正常な瞳孔反応も心因性視覚障害の診断に有効である。視運動性眼振も心因性視覚障害では正常である。(江本)
自己受容性感覚を見る指指試験は、伸ばした左手の指に右手の指で触れさせるもので、盲人でも可能。 石原仮性同色表では0.05の視力があればコントロール表は読めるはずで、不可なら心因性視覚障害を疑う。

4、運動性の心因性視覚障害の診断
輻輳痙攣は運動性の心因性視覚障害でみられる。視線の追従が困難で、断続的複視を訴える。外転神経麻痺に似るが輻輳痙攣時には縮瞳する。輻輳痙攣は通常は機能的障害だが、中脳背側病変の除外も必要である。随意眼振は、患者の意思で始める迅速な水平往復眼球運動で、数秒の短い発作を見せる。心因性視覚障害では注視不全麻痺を模倣するものもいる。近距離で外斜視を示すが、片眼遮蔽で本を読む。機能的眼瞼下垂の多くは夕刻と疲労時に増悪を訴える。機能性障害なら眼瞼は瞳孔を塞がない。心因性視覚障害では機能的に眼瞼痙攣様顔貌を示すことがあるが、原発性眼瞼痙攣ではより持続的な閉瞼を示す。

5、 治療に向けたアプローチ
心因性視覚障害の管理には器質的疾患を最初に判断することが大切で、器質的疾患があれば、その治療を優先する。患者との対話では、心因性視覚障害の正確な説明を含め、真面目に受けとめる必要を強調する。神経心理学的評価をする臨床心理士の活用も有用である。標準検査のほか神経画像検査、網膜電図も症例を見て行う。局所的網膜機能不全の診断には多局所ERGが必要かもしれない。
心因性視覚障害患者につけられる精神科的な診断名は転換性障害である。転換性障害は潜在意識の矛盾により失明が現れると説明される。対照的に、詐病または虚偽性障害では意識的かつ随意的に症状が表現される。

文献
1、 気賀沢一輝: 心因性視覚障害の診断と治療. 心身医学 52 (7): 654-660, 2012
2、 小野田、小野木、清澤:心因性視覚障害への臨床心理学的介入の試み、臨床眼科 2014
3、 心因性視覚障害psychogenic visual disturbance、神経眼科臨床のために 第3版 p132、江本博文、清澤源弘、藤野貞、医学書院、東京、2011
4、 使った英語の総説

(先日ゲラを構成したので2014年12月31日でリリースとします。)

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