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2014年8月20日

5734:臨界期の時期を制御する分子たち(杉山清佳先生)を拝聴しました

特別企画シンポジウム「眼優位可塑性:分子から個体までを多角的に理解する」に関する私的な聴講メモです。(抄録も読み、手を加えましたが、聞き間違いがありましたらご容赦ください。)

オーガナイザー:俣賀宣子、宮本浩行(理化学研究所 BSI)
俣賀宣子:眼優位可塑性を明らかにするヒューベルとウィーゼルのモデル(オキユラー・ドミナンス・コラム)は1960年代に猫を実験動物として示された。
1996年になってマウスも使えるという報告が出た。マウスは小さなスペースでも実験できるなどの利点があった。
こうしてこの関連の研究が進んだのだが本日はマウスレベルの発表3題と、ヒトを対象とした臨床からのアプローチ一題を聞く。

1) 分子レベルからのアプローチ 臨界期の時期を制御する分子たち。杉山清佳・候旭濱(新潟大)

臨界期の時期を制御する分子たち Otx2

センソリー(視覚、聴覚)、言語、高次認識機能のそれぞれに臨界期が存在する。視覚経験を阻害する何らかのインシデントがあれば弱視が生じる;そして臨界期のうちに治療すれば視力は回復する。
臨界期の発生には抑制系のGABAが大切だということが明らかになり、GAD65(1998)の存在や、胎生期に脳を作るホメオタンパク質Otx2(2008)の存在が示された。
その際にパルバルブミン細胞が注目された。転写因子であるOtx2(これをノックアウトすれば無脳児になる)は視覚経験とともに視覚野の特定の介在細胞(パルバルブミン細胞)にとりこまれるのである。
そもそもOtx2は,網膜のバイポーラ―セルなどにある。そして外側膝状体にもある。そして先に述べたように脳視覚領にもある。Otx2ホメオドメインは、投射先の細胞にシナプスを超えて入ってゆくのかもしれない。調べてみるとOtx2は視覚の経験依存的に、先の構造物に入ってゆくことが分かる。そして早期にOtx2を入れたら臨界期が早まる。つまりOtx2が流れてゆき臨界期をプロモートするのだ。Otx2は介在ニューロンの周囲にコンドロイチン硫酸プロテオグリカンを豊富に含む細胞外基質ペリ・ニューロナル・ネットの構築を促す。一方で、コンドロイチン硫酸とOtx2の結合が、このホメオタンパク質の特異的な細胞内取り込みに必要である。細胞外基質の成熟は臨界期の終わりを導くことが示唆されているが、コンドロイチン硫酸が減少する糖転移酵素のT1ノックアウトを作ると、これでは弱視にはならないことが分かる。Otx2はコンドロイチン硫酸の糖鎖に付くが、最終的にはアグリカンにつく。その相互作用が臨界期の始まりと終わりの双方を誘導し、抑制性ニューロンの完成で臨界期は終わる。

Otx2を含め、臨界期を誘導する遺伝子はパルバルブミンを発現する介在ニューロン(PV細胞)の機能発達に寄与することが示されてきた。Otx2タンパク質や抑制性の機能を高める薬剤(ジアゼパム:ガバ作動薬)を未熟な視覚野に投与すると、臨界期が早期に活性化される。一方で大人の視覚野に抑制性の機能を弱める薬剤を投与すると、一度終了した臨界期は再度活性化される。すなわち、臨界期の始まりと終わりの双方に抑制性介在ニューロンが関与しており、臨界期の活性化に関して双方向性の役割を果たすことが推測される。介在性ニューロンの作用が幼い脳と大人の脳で正反対の作用を持つのはなぜであろうか。
その疑問の答えが、Otx2とコンドロイチン硫酸の変異マウスの解析からわかってきた。これらの変異マウスでは、抑制性を高める薬剤の投与により、臨界期の始まりが誘導されるが、誘導された臨界期はそのままでは終わらずに大人まで続いてしまう。再度の薬剤投与により、ようやく臨界期を終了させることができる。すなわち、Otx2とコンドロイチン硫酸は介在ニューロンの機能発達に必要であり、臨界期の始まりと終わりは抑制機能の発達の過程で起こることが示唆される。そのために、Otx2やコンドロイチン硫酸を大人の脳から除去すると、抑制機能の発達がリセットされて、大人においても臨界期が再活性化されると考えられる。当初、臨界期の始まりと終わりの決定は、別々の分子構築によって制御されると考えられていたが、近年の研究から、両社が密接に関連することが示唆されている。
Otx2とコンドロイチン硫酸(CS)の相互作用が臨界期の始まりと終わりを制御する。これは、網膜がまずでき上ったことをOtx2で中枢に伝えているのだろう。

清澤のコメント:ゆっくりと静かにですけれど弱視の発生機序に対する人類の理解は一層進化しているようです。1996年(実験はさらにその数年前)に眼球摘出のモデルでフランスとの共同研究を行い(文献1)、2005年には眼瞼縫合で糖代謝を見ていた(文献2)のですけれど、私はあとを追いかけるばかりで、今後そこまで話が進化するという洞察はありませんでした。ヘンシュ貴雄先生がGAD65の話を提示されたのを見て心から驚いたのですけれど、そのころよりもさらに理解は変わってきていたのですね。本日鈴木幸久先生が紹介した話の前半部分である臨床データも2005年ごろのものです(文献3)。
 研究にあたっては、自分で考えたり文献を読んで調べることも必要ですけれど、素直に専門家の意見を聞くほうが間違いや無駄は少ないと思います。すでに研究の前線は離れていますが、今後も弱視の発生機序に関する説明には注目してついてゆきたいと思います。

1)Neurosci Res. 1996 Nov;26(3):215-24.Unilateral eyeball enucleation differentially alters AMPA-, NMDA- and kainate glutamate receptor binding in the newborn rat brain. Kiyosawa M1, Dauphin F, Kawasaki T, Rioux P, Tokoro T, MacKenzie ET, Baron JC.

2)Jpn J Ophthalmol. 2005 Jan-Feb;49(1):6-11.Glucose metabolism in the visual structures of rat monocularly deprived by eyelid suture after postnatal eye opening.Wang WF1, Kiyosawa M, Ishiwata K, Mochizuki M.

3)Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2005 Jun;243(6):576-82. Epub 2005 Jan 14.
Differential activation of cerebral blood flow by stimulating amblyopic and fellow eye.Mizoguchi S1, Suzuki Y, Kiyosawa M, Mochizuki M, Ishii K.

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