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2014年3月9日

5239 あやし うらめし あな かなし  浅田次郎 を読みました。

978-4-08-745033-0

あやし うらめし あな かなし  浅田次郎

短編集の初頭が「赤い絆」

「背にしたガラス窓には氷が張っているのに、伯母は地味な紬一枚で羽織も着てはいなかった。」窓ガラスに氷が張っているなんて、今の子供にはわかるのだろうか?

さて、この物語の終節、片親の主人公がこの物語るが語られる嘗て心中が有った部屋で眠っているとき、足音を忍ばせて入ってきたのは、心中の片割れの女だったのか?母だったのか?それとも離縁され子供を奪われ郷に戻されたその伯母だったのか?と言う部分はとても印象的でした。、
ーーさわりーー
 その男女の客は月のない真冬の山道を、抱き合いながら登りつめてきたのだと伯母は言った。
 枕を並べて耳を欹てる子供らは、寝物語の初めのひとことで怖れをなし、悲鳴を上げて蒲団に潜りこんだ。
 静かに聴けないのなら続きはよしにするよ、と伯母は清らで厳しい貴顕の声で言った。私たちはたがいをたしなめ合いながら、黒羅紗を縫いつけた夜具の縁に顔を出した。
 伯母は八畳の客間にみっしりと敷かれた蒲団の枕元に、面白くもおかしくもない顔で座っていた。背にしたガラス窓には氷が張っているのに、伯母は地味な紬一枚で羽織も着てはいなかった。私の母とは親子ほども齢の離れた姉だった。
「こんばんは、と呼ばれて私が出て行ったの。まだ九つか十か、あなたらぐらいのころだった。まさかそんな夜更けにお客さんだとは思わなかったから」
 私は伯母の肩ごしに豁ける夜空を見た。標高三千尺、眺望絶佳が売りの山頂の宿である。杉の巨木に押し上げられるような冬の星空だった。
「夜分あいすみません、お部屋はございますか、と男の人が訊いたの。ひとめ見て尋常じゃあないと思った。ケーブルカーのない時代に、冬の夜道を登ってくるのも妙だけれど、二人の手首が女の帯揚でくくられていたから。あの真赤な紐の色は、今でもよく覚えている。私は怖くなっておじいちゃんを呼びに行った」
 おじいちゃん、という人が私の祖父であるのか、曾祖父であるのかはわからなかった。いずれにせよ山上の神社で神官を務める故人が、玄関の式台で夜更けの客を迎えた。旅宿の看板を掲げてはいるが、本来は講中の信徒を泊める宿坊であるから、客に対しては必ず羽織袴で向き合うのが当主の常であった。
 中略

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