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2013年11月15日

4900 糖尿病に伴う神経眼科的所見とは

糖尿病性の眼球運動障害についてお調べの方には此の記事が参考になるかもしれません。本日(2013,11,14)千葉市で行われた「第4回千葉市糖尿病内科眼科の会」で私がお話した特別講演①「糖尿病に伴う神経眼科的所見」の講演内容を、スライド順に加筆したものです。散逸しない内にと思ってスライドの文字部分を此処に掲載してみました。

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スライド1,
糖尿病に伴う神経眼科的所見 清澤眼科医院  院長 清澤源弘
IMG_0928[1]清澤眼科医院の立地は南砂町駅前で、その裏にはこのマクドナルドの店舗があります。

スライド2,
2年で神経眼科疾患約700例 そのうち眼球運動異常は93例 このうち高血糖例は12例:
採血検査を必要とした眼筋麻痺症例は93例であり、そのうちで
動眼神経麻痺 19例 うち高血糖 3例
滑車神経麻痺 46例 うち高血糖 5例
外転神経麻痺 28例 うち高血糖 4例
ヘスチャートを使って調べると滑車神経麻痺が多いという結果。

スライド3,
糖尿病ニウロパチー分類(Brown):
第1群:遠位性で左右対称な分布を示すポリニウロパチー。頻度が高い。アキレス腱反射の消失や手袋足袋型の知識低下。眼科では瞳孔異常=自律神経障害。
第2群:近位に認められる運動ニウロパチー、Diabetic amyotrophy。腰や大腿の進行性脱力。眼科領域との関連は薄い。
第3群:局所病巣性および多病巣性ニウロパチー。脳神経ニウロパチーに属する。眼科領域では糖尿病性眼筋麻痺。(=動眼神経麻痺、滑車神経麻痺、外転神経麻痺)。糖尿病性視神経症および視神経萎縮も。

スライド4,
図1

スライド5,
糖尿病性ニウロパチーを臨床医が診断するために有用であると思われる各々の特徴に言及しながら、
1、糖尿病性外眼筋麻痺、
2、糖尿病性視神経障害、
3、糖尿病性瞳孔異常
の順に述べる。

スライド6,
Ⅰ 糖尿病性外眼筋麻痺 定義:
インスリン依存性糖尿病(Ⅰ型)およびインスリン非依存性糖尿病(Ⅱ型)、それに耐糖能障害のみられる患者に眼筋麻酔を生じ、他の鑑別すべき原疾患の認められない状態。
具体的には:動眼神経麻痺、滑車神経麻痺および外転神経麻痺を含む

スライド7,
糖尿病性外眼筋麻痺 概論;
頻度は受診糖尿病患者全体の0.7~1%。
本症発症を初発症状として耐糖能異常が発見されることも多い。
糖尿病性動眼神経麻痺は動眼神経麻痺全体の約19%を占め、最もポピュラー。従来欧米からの報告が多かったが、本邦でも稀ではない。

スライド8,
動眼神経麻痺:(当院の実際と教科書の報告の総和における原因別の分類)

スライド9,
滑車神経麻痺:(当院の実際と教科書の報告の総和における原因別の分類)

スライド10,
外転神経麻痺::(当院の実際と教科書の報告の総和における原因別の分類)

スライド11,
糖尿病性外眼筋麻痺の特徴 1
突発性の眼筋麻痺が発症し、複視や眼瞼下垂を訴える。
年齢は40歳台から70歳台に広く分布(60歳台が44%と最多)。
神経麻痺の頻度は、動眼神経麻痺56%、外転神経麻痺11%。
疼痛(患側眼窩部痛)43%が多く、動脈瘤を疑うほどの例もある。

スライド12,
糖尿病性外眼筋麻痺の特徴 2
瞳孔運動はほぼ残存。瞳孔運動障害があっても不完全(後交通動脈瘤と異なる点)。
外眼筋麻痺も不完全なことが多い。一部の支配筋が完全に動いたまま残ることがある。
眼瞼下垂も多くは軽い。
複数の眼球運動神経に再発をみることがある。勝井らの統計では151例中25例。

スライド13,
麻痺の合併例
全外眼筋麻痺、動眼神経と滑車神経の麻痺、動眼神経と外転神経麻痺の合併例あり。
副鼻腔、海綿静脈洞の感染症を慎重に除外糖尿病では感染症が起こりやすい。
糖尿病の存在は他疾患の存在を否定しない。
症例提示
糖尿病性外眼筋麻痺の予後は良好。2ヵ月以内に48.6%、4ヵ月以内には91.4%が回復。

スライド14,
症例 1 74歳 男性 糖尿病性動眼神経麻痺
ヘス(右動眼神経麻痺)

スライド15,
眼底(正常)神経画像(陳旧性視床出血、動脈瘤3㎜、どちらもこの症例では偶発的な合併ではあるけれど。)

スライド16,
異常神経支配は伴わない
回復時に、異常神経支配は伴わない。もし眼球内転時の眼瞼挙上などの異常再生を認めるならば、脳動脈瘤や外傷、新生物を疑う。
血糖は、発症時200㎎/㎗以下の症例が7割。糖尿病罹病期間、糖尿病治療期間、糖尿病のコントロール状態および網膜の糖尿病性変化の重症度は眼筋麻痺発症と相関しない。
但し、四肢ニウロパチー等の合併は65%を占める。

スライド17,
異常神経支配aberrant regenerationは無い
圧迫で見られるaberrant regeneration
右方視時に左眼が開く:これがあれば糖尿病性動眼神経麻痺ではない

スライド18,
糖尿病性外眼筋麻痺の原因 1
病理報告は数例のみ:血管性障害。
局在性の脱髄病巣。軸索の変性はわずか。ミエリン再形成が、異常神経支配を伴わない動眼神経麻酔の回復の原因。
瞳孔運動を司る神経線維が神経幹の外周に分布することは瞳孔運動の保たれる原因。

スライド19,
糖尿病性外眼筋麻痺の原因 2
神経内の小動脈の閉塞に伴う虚血が、海綿静脈洞内やクモ膜下腔の部分において動眼神経の脱髄を引き起こす。
動眼神経は、クモ膜下腔で後大脳動脈の枝、眼動脈の枝および硬膜下垂体動脈幹の各枝により血液供給を受ける。これらの境界域が分水界となり虚血障害を起こし易い。

スライド20,
症例2 54歳 男性
40歳時高血糖。50歳、右眼動眼神経麻痺診断、3ヵ月で軽快。1年後左眼の動眼神経麻痺、約1ヵ月で軽快。
54歳、左眼の視力低下で網膜硝子体出血発見。矯正視力右1.0、左0.1。左眼硝子体出血。入院後インスリンで血糖コントロール。硝子体手術。
糖尿病性外眼筋麻痺を経験しながら糖尿病加療不充分。増殖性網膜症へ進行した例。糖尿病性外眼筋麻痺は早期に寛解してしまうことが多い。

スライド21,
Ⅱ 糖尿病性視神経障害
糖尿病に伴い視神経が侵され視力低下を起こす。様々な概念を含み予後も様々。3群に分ける。必ずしも糖尿病性網膜症を合併しない。
1、遺伝性視神経萎縮
 常染色体劣性遺伝で若年性糖尿病と合併し両眼性進行性の視力障害を来す。難聴、尿崩症の合併も知られる(ウォルフラム症候群、WFS1)

スライド22,
2、視神経炎ないし乳頭腫張(diabetic papillopathy):
糖尿病に伴う視神経ないし乳頭の炎症。虚血性視神経症に比し予後が良い。臨床上その鑑別を早期に付けることは実際上困難。

スライド23,
3. 虚血性視神経症 (ischemic optic neuropathy):
前部虚血性視神経症は後毛様動脈の閉塞であり、突発性の視力ないし視野欠損に乳頭浮腫を合併する。蛍光眼底撮影で乳頭血管充盈の遅延。
後部虚血性視神経症はより後部に虚血が起きるもの。共に視力、視野の改善傾向は乏しい。

スライド24,
Ⅲ 糖尿病性瞳孔異常
糖尿病における瞳孔異常は、Argyll Robertson様瞳孔と呼ばれる。
①縮瞳、②対光反応の消失または減弱、③近見、輻湊反応に際しての縮瞳は正常、④散瞳が弱い、⑤両眼性であるが左右の瞳孔不同や瞳孔脱円を示す、⑥虹彩萎縮が認められる。
 赤外線瞳孔計で糖尿病患者の対光反応を定量。瞳孔運動のパラメータと患者の諸要素との単相関を求めて瞳孔異常の成因を考察。

スライド25,
糖尿病における瞳孔異常 対象方法
暗室にて暗順応の後、瞳孔運動を測定。40歳未満の若年群(正常22眼、糖尿病28眼)と40歳以上の高齢群(正常32眼、糖尿病106眼)。
患者の瞳孔に影響を与える可能性のある要素として罹病期間、治療法、網膜症の有無、末梢運動神経伝達速度、深呼吸ないし起立時の心拍変動係数を求め検討項目とした

スライド26,
結果
糖尿病患者の瞳孔運動の特徴(p<0.01)は、
①瞳孔面積の減少、
②最大散瞳速度の低下(以上、若年群および高齢群)、
③縮瞳量の減少(若年群)、
④潜時の延長、
⑤散瞳時間の延長(以上高齢群)。
これはいわゆるslow shallow responseである。

スライド27,
患者の諸要素の影響
罹病期間:縮瞳量の減少、最大縮瞳速度の低下、最大散瞳速度の減少(p<0.01)。最大縮瞳加速度の減少(p<0.01)。
治療法:縮瞳量に相関(p<0.01,高齢群)。
上下肢運動および上肢知覚神経伝達速度(末梢神経障害):ほとんど瞳孔運動と相関しない。
深呼吸負荷時の心拍変動係数(副交感神経障害)は、瞳孔面積減少、潜伏時間延長、0.5縮瞳時間延長と相関(p<0.05)。
起立負荷による心拍変動係数(交感、副交感両神経系の異常):瞳孔面積減少、最大散瞳速度低下、最大加速度低下に相関(p<0.05)した。

スライド28,
糖尿病性瞳孔異常の発生機序
瞳孔の縮瞳が副交感系の支配を、また散瞳が交感神経系の支配を受けるので、瞳孔運動異常を自律神経の異常としてとらえる。
しかし、糖尿病では瞳孔筋の委縮や虹彩上の血管新生での虹彩の運動能力自体の異常も伴うため、説明は困難。
説明は単一病変ではつけ難く、虹彩病変に伴う瞳孔括約筋や瞳孔散瞳筋の障害および末梢副交感神経系や、末梢交感神経障害が混在。

スライド29,
おわりに
眼科領域でみられる糖尿病性ニウロパチーも様々なものの総称であり、単一の原因で論ずることはできない。しかし、外眼筋麻酔と虚血性視神経症は血管障害説が、また瞳孔異常を来す自律神経障害は代謝異常説が、よりよくその成因を説明する。今後の基礎的ないし臨床的研究により、糖尿病に伴うニウロパチーに対する理解が深まり、よりよい治療法が出てくることが期待される。

スライド30,
お土産1:糖尿病性眼筋麻痺の特徴
・急性発症、50歳以上の高齢者に多い
・一側の動眼神経、外転神経麻酔が多い
・瞳孔機能は保たれる傾向にある
・約半数例で発症から眼窩内や眼周辺に痛みを伴う
・DMの罹患期間、コントロール状態、眼底所見と相関しない
・DM発見の契機となることがある
・四肢の多発ニューロパチーを合併している頻度が高い
・予後は比較的良好で3~4ヶ月以内にほぼ自然に回復

スライド31,
お土産2:糖尿病性眼筋麻痺の主な鑑別疾患
・脳動脈瘤:内頚動脈、後交通動脈分岐部
・脳幹梗塞・腫瘍
・内側縦束症候群(MLF症候群)
・Fisher症候群、Bickerstaff型脳幹脳炎
・Tolsa-Hunt症候群、眼窩内病変
・海綿静脈洞血栓症
・重症筋無力症
・甲状腺中毒性ミオパチー
・髄膜炎、癌性髄膜炎
・その他
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清澤のコメント:
IMG_0925[1]今回の当医院でのデータを纏めてくれた当医院の職員の集合写真です。謝辞に変えて。

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