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2013年1月6日

3953 『ひとの目、驚異の進化』マーク・チャンギージー著への養老孟司先生の書評です 色覚の進化

4772695311今週の本棚:養老孟司・評 『ひとの目、驚異の進化』=マーク・チャンギージー著
毎日新聞 2013年01月06日 東京朝刊の記事です。暫くするとニュースは消えるので、要点のみ此処に採録させていただきます。もちろん原文(⇒リンク)もお読みください。 (インターシフト・1995円)wikipediaで色覚に関する項目を少し補完しておきます。
ーーー要点ーーー
 ◇「見ること」の常識を変えて「自ら」を知る

この本はヒトが「見る」ことについて、四つの特徴を挙げる。その四つが「見ること」についての常識を変えてしまう。

 まず色。著者の結論は、ヒトの色覚はまさに顔色を読むように進化した、というものである。さまざまな証拠から、顔色を見るためと考えた方がいい。

 ヒトの網膜には、三種の波長を捉えるように分化した錐状体(すいじょうたい:清澤注:眼科では錐体coneと呼びます)という神経細胞がある。S、M、L(清澤注:下図参照)と名付けられている。三原色と思ってもいい。このそれぞれがどの程度反応するかで、物の色が決まる。不思議なのは、この三種の細胞が可視範囲の光を均等に割るのではなく、MとLが近くて、Sが遠いのである。このMとLの位置は、じつはヒトの顔色がいちばん変化する領域と一致している。

 顔色はどう変化するのかというと、酸化ヘモグロビンの多少、血液量の多少による。前者では顔色は赤と緑の軸に沿って変わり、後者では青と黄の軸に沿って変わる。こうした顔色の変化は、相手の感情の状態や、子どもの具合の良し悪(あ)しを判断するにも重要である。そう思えば、色覚が顔色を見るために進化したのは不思議ではないともいえる。

 二番目は両眼視についてである。ふつう両眼視は立体視にとって重要だと考えられてきた。著者の意見は違う。目の前に葉っぱのような邪魔ものがあって、その向こうにあるものを透かして見るとき、左右の目はじつは違う像を見るが、それを合成して、見ているものがなにかを判断できるようにする、つまり透視のためだというのである。

 第三はいわゆる錯視である。心理学は錯視の多様な例を集積してきた。でもそれはじつは錯視ではない。三次元空間で動いているという状況だとすると、ものは錯視のように見えなければならない。知覚には時間がかかるから、もし「正しく」現在を認知しようとしたら、われわれは過去しか認知できない。実際には脳は予測された未来を知覚する。

 第四は文字である。文字は自然のなかの形を示している。ヒトは文字を見るとき、自然を見ているのである。

 見ることに関心がある人だけでなく、「自らを知りたい」人に、ぜひ読んでもらいたい本である。われわれは年中「見ている」が、いったいなにをどう見ているのだろうか。(柴田裕之(やすし)訳)
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清澤のコメント;
1)、赤緑と青黄を酸化ヘモグロビン率と皮膚の毛細血管の拡張具合に結びつけて論じますか?なるほど。2)両眼視はむしろ立体視より左右眼の補完に有効というわけですね。3)錯視は未来を見るためですか?確かにイリュージョンは常に視覚の面白いテーマです。4)象形文字というのは漢字の話では?この疑問を解くには原典を一度読むしかないか?

追記:
ウィキペディアの以下の記載はこの色覚に関する記事を読むのには有用かもしれません。読むと、人間が一旦失った3色型色覚を再度獲得したのは僅か3000万年前にすぎないのですね。それなら、家族的な集団の発生と3色型色覚の再獲得の時期はオーダーとしても合うかもしれません。
Cone-response

ヒトの色覚
ヒトの網膜には長波長(黄色周辺)に反応する赤錐体、中波長(黄緑周辺)に反応する緑錐体、短波長(青周辺)に反応する青錐体の三種類があり、それぞれの錐体細胞は特定の範囲の波長に最も反応するタンパク質(オプシンタンパク質)を含む。これらが可視光線を受け、信号が視神経を経由して大脳の視覚連合野に入り、ここで3種の錐体からの情報の相対比や位置を分析して色を知覚している。例えば、黄色より長波長の光に対しては、赤錐体にのみ感度があり、緑・青錐体には感度がないという「赤」の視覚パターンを生じる。また、赤錐体には青錐体より短波長側に第二の反応ピークがあるため、青より短波長の光に対しては、赤・青錐体に感度があり、緑錐体には感度がないという「紫」の視覚パターンを生じる。ヒトが感じる光が三種類のみであるため、ヒトにとっての光の三原色も同じように赤・緑・青となる(3色型色覚)。

脊椎動物の進化と錐体細胞の遺伝:
脊椎動物の色覚は、網膜の中にどのタイプの錐体細胞を持つかによって決まる。魚類、両生類、爬虫類、鳥類には4タイプの錐体細胞を持つものが多い(4色型色覚)。一方、霊長類以外のほとんどの哺乳類は錐体細胞を2タイプしか持たない(2色型色覚)。初期の哺乳類は主に夜行性であったため、色覚は生存に必須ではなかった。結果、4タイプのうち2タイプの錐体細胞を失った。

ヒトを含む旧世界の霊長類(狭鼻下目)の祖先は、約3000万年前、X染色体に新たな長波長タイプの錐体視物質の遺伝子が出現し、X染色体を2本持つメスのみの一部が3色型色覚を有するようになり、さらにヘテロ接合体のメスにおいて相同組換えによる遺伝子重複の変異を起こして同一のX染色体上に2タイプの錐体視物質の遺伝子が保持されることとなりX染色体を1本しか持たないオスも3色型色覚を有するようになった。

これによって、第3の錐体細胞が「再生」された。3色型色覚はビタミンCを多く含む色鮮やかな果実等の発見と生存の維持に有利だったと考えられる。

ヒトの祖先が狩猟生活をするようになり3色型色覚の優位性が低くなり、2色型色覚の淘汰圧が下がったと考えられる。色盲の出現頻度は狭鼻下目のカニクイザルで0.4%、チンパンジーで1.7%である。

ヒトは上記のような初期哺乳類と霊長目狭鼻下目の祖先のX染色体の遺伝子変異を受け継いでいるため、L錐体のみを保持したX染色体に関連する赤緑色盲が伴性劣性遺伝をする。男性ではX染色体の赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいると色盲が発現し、女性では2本のX染色体とも赤緑色盲の遺伝子を受け継いでいる場合に赤緑色盲が発現する。なお、日本人では男性の4.50%、女性の0.165%が先天赤緑色覚異常で、白人男性では約8%が先天赤緑色覚異常であるとされる。

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