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2012年9月22日

3654 神経眼科的検査(ビジュアル脳神経外科5から (メジカルビュー社)

ビジュアル脳神経外科5 メジカルビュー社が完成し、私たちの原稿の載った献本が届きました。出版は10月28日だそうです。(原稿は昨年10月に提出しています。)

眼科医が他科の医師やパラメディカルに神経眼科の内容を一時間程度で話そうとすればこの程度の内容になることでしょう。
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神経眼科的検査
東京医科歯科大学眼科  江本博文 清澤源弘

 視路は眼球から後頭葉に至るまで広範囲にわたっており、また、眼球運動に関わる脳神経は脳幹に集中している。このため、脳外科疾患で視野欠損、複視などの神経眼科的な症状を呈する症例は珍しくない。神経眼科的症状を大別すると、視力・視野に関する視覚入力系の障害、眼球運動障害に関する視覚出力系の障害、瞳孔の障害等に分けることができる。本稿では、視力、色覚、視野、眼球運動、瞳孔の基礎的な評価方法について解説する。

視力の記載
視力の記載方法にもいろいろバリエーションがあるが、代表的なものを下記に示す。いうまでもなく、眼症状の評価や、視力が低下した患者の経過・リハビリを考える上でも重要である。

  RV = 0.4(1.2 x S -1.50 D = C -1.00 D Ax 60)
  LV = 0.3(0.8 x S +0.75 D = C -1.50 D Ax 180)      

RV(ラテン語でVd)は右眼視力を示し、LV(ラテン語でVs)は左眼視力を示す。右眼視力の一番左にある「0.4」が裸眼視力で,括弧内の「1.2」が矯正視力である.
S(spherical)は球面レンズを示し、すぐ右に「-1.5D」など、球面レンズ度数が表示される.
D(diopter)はレンズ度数の単位である.球面レンズ度数がマイナスの場合は近視で、プラスの場合は遠視である.この例の場合は、右眼は「-1.5D」の近視、左眼は「+1.0D」の遠視である。いずれも,絶対値が大きいほど、近視、あるいは遠視の度数が強いということになる.
C(cylindrical)は円柱レンズを示し、すぐ右に「-1.0D」など、乱視の度数が表示される.
Ax(axis)は乱視軸の角度を示す.

CHECK Point
眼科でいう通常の「視力」は,近視、遠視、乱視を矯正した後の「矯正視力」を指す.裸眼視力は用いない。従って、単純化して、RV = (1.2)、LV = (0.8)など、括弧内に表示することも多い。矯正視力が1.0以下である場合は異常である。
 視力低下が高度な場合は,以下のような表現方法がある。
・指数弁:検者の指を見せ,指の数を判別できた場合は、CF(counting finger),あるいはn.d.(numerus digitorum)と書く。
・手動弁:指の数がわからないが,手の動きがわかった場合はHM(hand motion),あるいはm.m.(motus manus)と書く。
・光覚弁:
手の動きはわからないが,光の明暗はわかる場合、s.l.(+)(sensus luminis)と書く。
・光覚なし:光の明暗がわからない場合は、s.l. (-) と書く。

色覚
 視神経障害では、他の疾患に比べて色覚低下が顕著であることが多い.いくつかの色覚検査があるが、石原式検査表 Ishihara color platesが国際的に広く用いられており、簡便である.

視野検査
 病変部位を特定する上で有用である(図1)。まず、視野欠損が片眼性か、両眼性かを見る。眼球~視神経の障害では病側片眼性の視野障害で、視交叉後病変では様々な両眼の同側半視野の障害を呈する。両眼性であれば欠損部位、形などを見て比較する。視交叉後病変では、後頭葉有線領に近づくほど半盲の形がcongruous(視野欠損の部位・形が左右対称的で一致、類似)となる。
 脳腫瘍術後では、数ヶ月にわたって視野が改善してくることが多い。逆に腫瘍が増大してくると緩徐進行性の視野障害を呈する。視野検査は経過をみる上でも重要である。

図1視路障害部位とその視野欠損
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 眼球~視神経の障害では、病側片眼性の視野障害を呈する。視交叉部の障害では、接合部暗点(junctional scotoma)、両耳側半盲(bitemporal hemianopia)等を、視交叉後病変では同名半盲(homonymous hemianopia:両眼の同側半視野の障害)を呈する。半盲では、垂直正中線を境に視野欠損が生じる。視交叉後病変では、後頭葉有線領に近づくほど半盲の形がcongruous(視野欠損の部位・形が左右対称的で一致)となる。両眼性の視野欠損は必ずしも脳疾患ではなく、両側性の片眼性視野欠損(眼球~視神経の障害)の場合も考えておく。

 視野検査は、主として周辺視野を含む全視野を検査する動的視野検査(ゴールドマン視野計)と、中心視野30度以内の視野検査である自動静的視野検査(ハンフリー視野検査(30-2))がある。

■動的視野検査:ゴールドマン視野計 (Goldmann perimetry: GP)
 暗室内の半円形のドーム内で、検者が様々な大きさ・輝度の光を周辺視野から中心に向かって動かし,患者に見えているか確認しながら作図していく.検査には片眼15分程度かかる。

図2:ゴールドマン視野計:正常例。
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 視野は地図の等高線のように囲まれた範囲である。正常視野の広さは、上方60度、下方70~75度、鼻側60度、耳側100~110度である。視神経乳頭にあたる部分は網膜視細胞がなく、マリオット盲点となる。正常人に見られるマリオット盲点は、中心から15度耳側に位置する。縦長の楕円形に塗りつぶされた場所がその盲点blind spotである(図2)。

図3 中心暗点central scotoma
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症例(1)(図3)
 32歳女性、右視神経炎。数日前から眼球運動時痛・右眼の視力低下を自覚し、右眼矯正視力:1.5→s.l.(+)と低下し、眼科を受診した。右RAPD陽性で右視神経炎と診断された。右眼視野中心部に暗点を認める。左眼は正常で、片眼性の視野障害である。

図4 両耳側半盲
症例(2)(図4)
 42歳女性、下垂体腺腫。人や物にぶつかることが多くなり眼科受診、両耳側半盲を指摘され、下垂体腺腫と診断された。両眼鼻側(内側)は地図の等高線のように視野が存在するが、耳側(外側)には全くなく、視野が欠損している。MRIでは下垂体腺腫が視交叉を圧迫していた。

図5 接合部暗点
症例(3)(図5)
 50歳男性、下垂体腺腫。左眼視力低下を主訴に眼科受診。左眼では中心暗点、右眼では上耳側に垂直経線に境された視野欠損(右上の等高線が陥入している部分)を認めている。MRIでは視交叉直前の左視神経から視交叉に及ぶ下垂体腫瘍を認めた。

図6 pie in the sky
 38歳男性、左側頭葉前部外傷後。Meyer’s loop*の障害のため、特徴的な同名上1/4盲homonymous superior quadrantanopiaを呈している。視野欠損部の形が、空に浮かぶパイのひとかけらの形になっている。(図7参照)

*:Meyer’s loop(メーヤーループ):外側膝状体からの線維で、下部視放線として側脳室下角を巡る視路)

■自動静的視野検査:
 ハンフリー視野検査(30-2)Humphrey visual field: HVF
 コンピューターでプログラムされた検査法で視野を測定する。動かない(静的)視標を用い,明るさを変えて感度分布を表示する.静的視野検査ではGPでみられる視野の中心30度部分を拡大して検査することができるので、中心視野異常の検索に良い.暗室で行い、片眼10分程度かかる。視交叉以後の障害では垂直正中線を境界とする視野欠損を呈するが、自動静的視野検査ではより詳細に評価できる。

図7 pie in the sky
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症例(5)(図7)
 図6と同一症例。左側頭葉前部外傷後。視野欠損の領域は、黒いドットで示されている。垂直正中線での視野欠損の境界が明瞭である。

図8 同名半盲
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症例(6)(図8)
 発作性心房細動による、後頭葉塞栓症。図7と同様に視交叉後病変であり、垂直正中線での視野欠損の境界が明瞭である。しかし、図7の側頭葉の視路障害に比べ、後頭葉の視路障害では左右の視野欠損の形態はcongrousとなっている。

眼球運動検査
 複視には単眼複視と両眼複視がある。眼球運動障害に関連があるのは両眼複視である。両眼複視では片眼ではだぶらず、両眼で見た時のみ二重に見える。両眼複視でも、内斜視や開散麻痺等、眼球運動は正常だが、両眼融像*に障害がある場合もある。一方、単眼複視では、片眼で見ても両眼で見ても二重に見える。この場合、片眼の眼科疾患であることが多い。
 両眼複視では、第一眼位(正面の両眼の位置関係)、単眼運動(左右眼、片眼ずつで物を見る時の眼球運動)、両眼共同運動(両眼で同時に物を見る時の眼球運動)を評価する。

*両眼融像:右眼で見た像と左眼で見た像を1つに合わせる作用:両眼の位置を調整する。
*第一眼位:正面の両眼の位置関係
*単眼運動:左右眼、片眼ずつで物を見る時の眼球運動。
*両眼共同運動:両眼で同時に物を見る時の眼球運動。

■第一眼位(primary eye position)
 正面を見た時の両眼の位置。正常では左右眼とも正面を向く。ペンライトで左右眼が、ずれていないか確認する。ペンライトを33cm離れたところに持ち、両眼に光をあて、角膜にうつる光の位置を見る。内斜視、外斜視、上下斜視をチェックする。外転神経麻痺が強いと麻痺眼では内直筋優位となって内転し、第一眼位で内斜視を呈する。

■単眼運動(duction)
 片眼を手で遮蔽し、指などの視標を用いて上下、内外転を確認する。図9のように各外眼筋の眼球運動の状態を記載する。

図9 眼球運動
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■両眼共同運動(version)
 両眼を開けたままで、指などの視標を用いて上下、内外転を確認する。単眼運動と両眼共同運動が一致しない場合もある。例えば右核間麻痺(右MLF症候群)では、単眼運動で右眼は内転できないが、両眼共同運動で輻湊(寄り目)させると、右眼が内転可能となる。

■ヘスチャート(Hess chart)
眼球が動く範囲を図示する検査である。赤い四角形の上下鼻側の辺は、眼球が、それぞれ上下内外転時に動く範囲を示す。真ん中の黒い正方形は正常眼球が動く範囲を示している。左右眼で面積に差があれば、面積が小さい方は眼球運動が低下していることになる。
 左右眼とも患者の眼球運動を示す赤い四角形が、中心の黒い正方形と一致し、左右眼で差が見られない(図10)

(出版物に残らなかった詳細な記載:被検者に赤と緑のフィルターがついた眼鏡をかけてもらい、緑色の矢印のライトを持ってもらって、壁に赤い光を見せて見つめさせる。それから赤い光を各方向に動かして眼で追ってもらい、緑の矢印で指してもらって作図する。でき上がったチャートに記された赤い四角形は眼球が動く範囲を示し、面積が小さい方は眼球運動が低下していることを示す.枠の1目盛は5°.目安として,5°=約10△(プリズムジオプター).1△は,プリズムレンズを通過した光が1m先で1cm屈曲する度数である.実際の斜視角は,交代プリズム遮閉試験や大型弱視鏡検査等で定量する.)

図10 ヘスチャート:正常例。
左右とも中心の正方形と一致し、左右差が見られない。

図11 動眼神経麻痺

症例(7)(図11)
 62歳男性。脳動脈瘤による左動眼神経麻痺。頭痛・複視の訴えあり眼科受診。左眼眼瞼下垂、散瞳、内・上下転障害を認めた。本例のヘスチャートでは、赤で囲まれた面積=眼球が動く範囲は、左眼(健側)では右眼(患側)より小さい。本例では本例では左眼の赤い四角形の辺が、正常を示す黒い正方形の鼻側・上下の各辺まで届かず、内・上下転障害を示している。

図12 外転神経麻痺
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症例(8)(図12)
 54歳女性。左外転神経麻痺。3ヶ月前に複視が出現、近医で数ヶ月で治るといわれたが、複視が増悪したため来院。髄膜種を認めた。本例では赤い四角形の耳側の辺が、正常を示す黒い正方形の耳側の辺まで届かず、外転障害を示している。

図13 滑車神経麻痺
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症例(9)(図13)
 70歳男性。左滑車神経麻痺。窓が斜めにずれて見えるとのことで来院。滑車神経麻痺では、患側の上斜視*を呈する。本例では左眼の赤い四角形が上耳側に偏位し、左上斜視を呈している。滑車神経麻痺では外方回旋の成分も入るが、ヘスチャートでは回旋の評価はできない。

*上斜視:左眼が右より上にずれている場合を「左上斜視」、右眼が左眼より上にずれている場合を「右上斜視」という。

瞳孔検査
瞳孔不同(anisocoria)を見ると、いうまでもなく重篤な状態を考えなければならない。瞳孔の大きさは自律神経、加齢、薬剤、光、近見、虹彩癒着などの影響を受ける。瞳孔所見の記載例を表1に示す。

表1 瞳孔所見:正常例。
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また、瞳孔所見だけでなく、眼瞼下垂(Horner症候群,動眼神経麻痺),眼球運動(動眼神経麻痺)、神経学的所見(自律神経障害を合併する神経疾患群)等も確認が必要である。
生理的瞳孔不同として0.5mmの差は正常範囲で、正常者の20%にみられる.瞳孔の左右差が0.5mm程度で、自覚症状がなく,瞳孔の反応が良く,眼瞼下垂,眼球運動異常等、神経症状を合併しない場合は,生理的瞳孔不同の可能性が高い.

■瞳孔反応異常
 視神経障害の有無は相対性求心性瞳孔障害( Relative Afferent Pupillary Defect:RAPD)を確認する。RAPDのチェックには、swinging flashlight testを行い、対光反応の左右差を比較する。この方法で検査できるのは、視交叉より前方の視神経の対光反応求心路障害であり,瞳孔反応遠心路には障害がないことが前提となる。

■Swinging flashlight test
(1)2mくらい離れた目標を見るよう患者に指示する。
(2)ペンライトで真下から左右眼に交互に数回光を当て,直接反応の起こり方とその戻りをみる。
(3)光を当てる時間は左右均等,1~2秒間で,片眼に光を1秒ほど当てた後は、さっと素早く他眼に移し,また1~2秒間光を当てて,また反対側に光を移す.これを左右交互に繰り返す。光を当てる時間は1秒間が良い.長くなると,生理的瞳孔動揺が混入してしまう。
(4)光が瞳孔に当たると縮瞳するが、逆に散瞳すればRAPD陽性で、その眼の網膜に異常がなければ視神経障害である.光を当てられて散瞳するのは,その眼の視覚入力の感度が低下しているからである。

図14 swinging flashlight test
xx(神経眼科 臨床のために 第3版、P319より引用)

症例(10)(図14)
43歳女性。左眼窩内腫瘍で、左圧迫性視神経症の患者。
a;光を当てる前の状態。
b;右眼に光を当てた時は縮瞳する。
c;左眼に光を移すと、光を当てているにもかかわらず散瞳する。
d;また光を右眼に戻すと縮瞳が見られた。左RAPD陽性の所見である.

■黒内障性瞳孔強直
黒内障性瞳孔強直 amaurotic pupillary rigidityは、視神経交叉より末梢(網膜,視神経等)の障害で,視覚喪失の徴候である.この場合、患眼に光を当てても直接反応がなく,健眼の間接反応もない.健眼に光を当てると直接反応があって,患眼の間接反応も見られる.瞳孔の近見反応は正常に見られる。

[文献]
江本博文、清澤源弘ほか:神経眼科 臨床のために 第3版 医学書院、2011

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