お問い合わせ

03-5677-3930初診受付

ブログ

2012年9月7日

3621 代表的なミトコンドリア病のレーベル病(Leber’s hereditary optic neuropathy)

cn201209_MED3621 代表的なミトコンドリア病のレーベル病(Leber’s hereditary optic neuropathy)

自前の眼科に関する話題が枯渇していて、ちょっとなーと思っておりましたところ、以下の記事が出版されてその本が届けられました。神経内科の医師などが読むための記事ですがこの疾患にご興味のある方の役には立ちそうですので、ここに採録します。

レーベル病に関する最新のコンセプトを江本博文先生が調べてまとめてくださり、それが臨床神経という雑誌の最新号に掲載されました。その原稿です。

ーー引用開始ーーー
中外医学社 Clinical Neuroscience vol. 30, No9
ミトコンドリア病 update

C. 代表的なミトコンドリア病

5. レーベル病    

江本博文1, 2 江本有子3 清澤源弘2
1 都立広尾病院眼科
2 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学
3 江本眼科

はじめに
レーベル病:レーベル遺伝性視神経症(Leber’s hereditary optic neuropathy: LHON)は、通常、20代前後の男性に急性、もしくは亜急性の片眼の視力低下で発症し、数週~数ヶ月後に僚眼にも発症する視神経症である。基本的に他の神経症状は合併しないが、視力低下は高度で両眼とも0.1以下となることが多く、1年以内に両眼視神経萎縮となる。1871年にドイツの眼科医Leberが記載し[1]、当初は視神経炎と考えられていたが、その後、LHONの家系が報告されるようになり、約100年後の1988年にはWallaceらが、ミトコンドリアDNAの11778番塩基のpoint mutationを発見した[2]。近年の遺伝学的研究の発展で病態が解明されつつあるが、依然として不明な点も多く、まだ有効な治療法がない。

臨床所見
LHONに関連する遺伝子異常は10万人あたり11.82人に見られるが、LHON患者は10万人あたり3.22人程度である[3]。保因者全てが発症するわけではなく、男性の発症率は20-60%、女性は4-32%である。40%程度には家族歴を認めない。男性に多く見られ、欧米・本邦とも、男女比は9:1程度である。15-35歳で発症することが多いが、発症年齢は幅広く、2-80歳にみられる。発症した保因者の95%は50歳以前の発症である[4]。視力低下は急性、もしくは亜急性で、数ヶ月にわたって視力が低下する。疼痛は伴わない。片眼発症の場合は、数週~数ヵ月後に僚眼に発症することが殆どである(1年以内に97%)。両眼同時に発症する例もある。最終視力は、光覚なし~1.0まで様々であるが、両眼0.1以下となることが殆どである。色覚も早期に低下する。瞳孔の対光反応は、他の視神経症に比べて比較的保たれるのが特徴である。視野欠損は、中心暗点(図1)[5]、傍中心暗点であるが、視交叉障害で見られるような両耳側半盲を呈した症例の報告もある。眼底所見として、視神経乳頭周囲の毛細血管拡張や、乳頭腫脹を認めるがフルオレセイン蛍光眼底造影で蛍光色素の漏出を認めないこと(乳頭偽腫脹)が特徴的であるが、眼底が正常であることも珍しくなく(36-42%)、これらの所見は、時間と共に消失する。最終的には、乳頭黄斑線維束に対応して視神経萎縮が明瞭となる。急性期には視神経乳頭が充血のためか蒼白に見えず、瞳孔機能も保たれていると、心因性視覚障害と誤診されるものもある。原因不明の両眼視神経症では、発症年齢、性別、家族歴、眼底所見に関わらず、LHONを念頭におかなければならない。稀に視力が改善することもあるが、予後はpoint mutationのタイプによって異なる(表1)[6]。中心暗点が徐々に改善する症例や、中心暗点内に島状の回復を呈するものがある。視覚改善に対しては、視力より視野検査の方が検出しやすい。また、本邦で90%以上を占める11778変異では視力予後が最も悪い。視力低下再燃は稀である。

視神経以外の合併症
殆どの症例では視覚障害が唯一の所見であるが、心電図異常としてWPW症候群、LGL症候群など、心筋伝導障害を呈するもの(9%)、QT延長を呈するものがある。また、骨格筋異常や、稀ではあるが、腱反射異常、軽度の小脳失調、振戦、運動障害疾患、ミオクローヌス、痙性、てんかん、感覚異常、難聴、精神障害などの報告もある。このような神経学的異常を呈する家系もあり、Leber’s plusと呼ばれている。臨床的には多発性硬化症と区別できない症例もある。即ち、LHONの遺伝子異常を認め、LHON様の視覚障害を呈し、多発性硬化症の髄液・MRI所見を呈する。LHONで視力が回復した症例などは、特発性視神経炎や多発性硬化症とされている可能性がある。

病理
発症早期の病理は報告がないため、視神経障害の初期像・部位は不明である。両眼視神経萎縮となった視力低下数年後の病理では、乳頭黄斑線維が対称的に傷害され、視神経線維の95-99%に傷害が見られる。特徴的所見として、網膜神経節細胞と軸索、内顆粒層が選択的に消失する。外層には殆ど障害が見られず、網膜内に炎症細胞浸潤を認めないことなどから、網膜神経節細胞のアポトーシスが一次的な原因と推測されている。

遺伝子異常
ミトコンドリアDNAの11778、3460、14484番塩基の点変異は、ミトコンドリア呼吸鎖complex Iのサブユニットをコードする遺伝子内に存在し、LHONの発症に直接関連するprimary mutationとされ、正常な健常者には見られない。血液を含む体内のミトコンドリアを含む組織では、PCR法で、これらの変異を検出することができる。一方、発症に二次的に関与するとされるsecondary mutationは、正常人にも存在するが、LHON患者に有意に多くみられる変異で、単独では発症に至らないとされている。3308, 3394, 3398, 3472, 3505, 3547, 3635, 3734, 4136, 4171, 4216, 4640, 4917, 5244, 7444, 9438, 9804, 9101, 10237, 10663, 11253, 13513, 13528, 13708, 13730, 14482, 14495, 14498, 14510, 14568, 15257, 15257, 15812など、多数が報告されている。LHONの遺伝子検査としては、まず、11778、3460、14484のprimary mutationを検索し、これらがnegativeで、かつ臨床的にLHONが強く疑われる場合は、上記に示したような、secondary mutationを検索する。

発現因子
LHONの発症は、遺伝子異常のみでは説明がつかない、環境因子が関連していると考えられる事象がいくつかある(表2)[7]。病因には諸説あるが、ミトコンドリアDNAの変異がある上に、何らかの環境因子が加わって、反応性酸素分子種(reactive oxygen species: ROS)が過剰に産生されて、網膜神経節細胞のアポトーシスを惹き起こし、発症に至ると考えられている(図2)。飲酒・喫煙との関連も指摘されているため、臨床では、患者に禁酒・禁煙の指導を行う。

治療
イデベノン(CoQ10誘導体)、ビタミンB12、ビタミンCが用いられるが、画期的な治療法はない。遺伝子治療も検討されており、今後が期待される。

文献
1. Leber TH. Ueber hereditare und congenitalangelegte Shenervenleiden. Graefes Arch Ophthalmol 1871;17:249-91.
2. Wallace DC,Singh G, Lott MG, et al. Mitochondrial DNA mutation associated with Leber’s hereditary optic neuropathy. Science 1988;242:1427-30.
3. Newman NJ. Hereditary optic neuropathies: From the mitochondria to the optic nerve. Am J Ophthalmol 2005;140:517-23.
4. Yu-Wai-Man P, Griffiths PG, Hudson, G et al. Inherited mitochondrial optic neuropathies. J Med Genet 2009;46:145-58.
5. 江本博文、清澤源弘、藤野貞。神経眼科 臨床のために 第3版。医学書院; 2011.
6. 小口芳久。レーベル遺伝性視神経症の過去、現在、未来。日眼会誌2001;105:809-27.
7. 中村誠。レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望。日眼会誌2005;109:189-96.

図表(以下の画像は準備中です)

図1 ゴールドマン視野検査(文献5の40ページ、図3)
江本博文、清澤源弘、藤野貞。神経眼科 臨床のために 第3版。医学書院 2011.
レジェンド:両眼中心視野欠損。青く塗られた部分が見えない。

表1 LHON変異型別による臨床所見の特徴(文献6:小口:表4)
小口芳久。レーベル遺伝性視神経症の過去、現在、未来。日眼会誌2001;105:809-27.

表2 LHONに環境因子が関連していると思われる理由(文献7:中村:表2)
中村誠。レーベル遺伝性視神経症の発症分子メカニズムの展望。日眼会誌2005;109:189-96.

図2 LHONの各ステージにおける視神経障害の仮説(文献6:小口図17)
小口芳久。レーベル遺伝性視神経症の過去、現在、未来。日眼会誌2001;105:809-27.

Categorised in: 未分類