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2012年6月17日

3403 眼瞼けいれん診療ガイドラインの概略::日本の眼科7号、(特集原稿案)

3403 眼瞼けいれん診療ガイドラインの概略::日本の眼科7号、(特集原稿案)
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眼瞼けいれん診療ガイドラインの概略

(注:これは、日本神経眼科学会が提示した眼瞼けいれん診療ガイドラインを基に日本の眼科の特集号に投稿している未完成の原稿案です。編集委員の先生と若倉先生からの助言とを取り入れて、本日ゲラgally proofを直しました。)

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学         清澤源弘

要訳
 本態性眼瞼けいれんは眼輪筋の収縮で不随意的な閉瞼が生ずる疾患である。日本神経眼科学会は眼瞼けいれん診療ガイドラインを答申した。このガイドラインに依れば、ボツリヌス毒素製剤の局所注射は現在のところ最も有効な治療法であり、その他の治療法は補助的な意味を持つ。しかし、毒素製剤であることや高額の医療費を要することに対し拒否反応を示す患者も存在する。その様な患者も含めて、この診療ガイドラインが眼瞼けいれんの治療を有効かつ安全に行うのに役立つことが望まれる。

はじめに
 本態性眼瞼けいれんは眼輪筋の過度な収縮により不随意的な閉瞼が生ずる疾患であり、患者の視覚の質、生活の質を大きく損なう。ボツリヌスA型毒素の注射療法は現在最も有効性の高い治療法である。眼瞼けいれん患者の治療を有効かつ安全に行うため日本神経眼科学会は眼瞼けいれん診療ガイドラインを答申した(1)。その記載は大変詳しいものなので、この記述にそった眼瞼痙攣の診断と治療の概略の解説を試みる。

第1章、定義,病因,疫学
Ⅰ 眼瞼けいれんの定義と概念
本態性眼瞼けいれんとは,眼輪筋の過度の収縮により不随意的な閉瞼が生ずる疾患で,他の神経学的,眼科学的異常が原因となっていないものである(2).筋肉が不随意に持続収縮し,捻れや歪みが生ずる局所ジストニアに属する.瞬目の制御異常がその本態と考えると理解しやすい.眼瞼けいれんには本態性の他,薬物性,症候性もある (3) .

Ⅱ 本症の病因
1.視床,大脳基底核,中脳または脳幹の病変
視床,広義の基底核,補足運動野,視覚野,前部帯状回を含む神経回路内の伝達異常がある(4).
2.Parkinson 病と同様の機序の関与
Ⅲ 疫学
大半は 40 歳以降に発症し,男女 比 は約 1:2と女 性 に 多 い (2、5).若年発症者では,抗不安薬などの薬物歴がみられることが多い(3.6).

第 2 章 診断の要点
Ⅰ 問診
1.自覚症状
1) 瞬目増多,眼瞼の軽度けいれん.2) 開瞼困難、3) 羞明感、4) 眼瞼下垂、5) 目の不快感・異物感、6) 目の乾燥感、7) 流涙、8) 頭痛,耳鳴,肩凝り,抑うつ,焦燥感。
2.既往歴
1) ドライアイ、2) 自律神経失調症,うつ病、3) Parkinson病
3.薬物服用歴
1) 向精神薬;ベンゾジアゼピン系clonazepam(リボトリール®),チエノジアゼピン系etizolam(デパス®)などの長期連用歴。(3) .
2) 睡眠導入薬では、習慣性のある睡眠薬,睡眠導入剤の長期服用歴.
Ⅱ 他覚症状
1.視診
1) 開瞼困難:しばしば開瞼失行症を合併.2) 瞬目増多.3) 顔面皺、4) 眉毛下降、5) 他の顔面筋の不随意攣縮
2.知覚トリック
患者は眉毛の外側を押さえることにより,開瞼が可能となることがある.

Ⅲ 誘発試験  (7)
眼瞼けいれんでは随意瞬目に不随意瞬目が不規則に混入したり,開瞼動作時に眼周囲筋に不随意運動が混入する.
1.速瞬テスト:10秒間に30回以上の随意瞬目を行うよう促す。
2.軽瞬テスト:軽い随意瞬目を促す。
3.強瞬テスト:眼瞼を強く閉じ,その後開瞼させる。

Ⅳ 診断上の注意点
1.誘因:日光,ストレス,風,騒音,照明,開瞼,運動,読書など。好ましくない人と接すると悪化する。
2.けいれんの自覚:本症の患者は,発症時には羞明,瞬目過多,開瞼持続不能,眼または眼周囲の違和感などを自覚する。
3.ドライアイとの相関:ドライアイ所見は訴えの頑強さに対応しない.Schirmer 試験,涙液層破壊時間,角結膜所見から64% がドライアイ確定または疑いとなる。しかしドライアイに対する治療はほとんど奏功しない (7).

Ⅴ 疾患の経過
Jankovic らの患者の 75% は発症後に症状は徐々に悪化し,13% は改善し,症状が不変なものは 10% であった。長期にわたる自然寛解はまれ。
Ⅵ 特殊検査
1.筋電図検査:筋電図で三型に分ける。
2.画像検査:ポジトロン CT による脳糖代謝測定は診断の参考になる(8)。functional MRI でも作業負荷により大脳基底核などの賦活がみられる.
3.ビデオ眼振計:瞬目運動や閉瞼時間解析を行う動きもある .
第 3 章 重症度分類
Ⅰ Jankovic 評価スケール
最初に重症度を定めたもので(9).治験ではこのスケールで治療効果が判定された.
Ⅱ 眼瞼ジストニアの程度分類
瞬目異常に着目し,瞬目負荷試験の結果を加味した分類(2)。
Ⅲ 日常生活機能障害度分類  (ジストニア研究班)
痙性斜頸の評価法に準じた程度分類。

第 4 章 鑑別診断
Ⅰ 眼瞼にけいれんを来す疾患
1. 眼瞼ミオキミア:片側眼瞼がピクピクと動く状態(7).健常者でも起き.数週間で治まる.
2.片側顔面けいれん:脳幹で顔面神経根部が脳底血管と接触し,顔面神経の異常興奮が生じる。MRI 画像所見がみられる .
Ⅱ 開瞼困難を来す疾患
1.開瞼失行症:上眼瞼が随意的に開瞼できない。手指でいったん開瞼すれば,開瞼持続は可能.眼瞼けいれんとの合併も多い 。
2.眼瞼下垂:先天性,加齢性,麻痺性,筋無力性がある.

Ⅲ 羞明を訴える疾患
1.ドライアイ:涙液および角結膜上皮の慢性疾患で,眼不快感や視機能異常を伴うもの。多様な症状が出現する。眼瞼けいれんに高率に合併する。羞明や瞬目過多が強い場合は注意.
2.前部ぶどう膜炎:自覚症状は三叉神経刺激による痛みや充血,羞明,流涙と視力低下。
3.後囊下白内障:混濁の程度と不釣り合いな強い視力障害が起き、まぶしさに敏感.
4.眼表面の刺激:角膜刺激で瞬目反射が起こる.反射は両側性である.
第5章 治療法
眼瞼けいれんに対する治療法として保険適用は,ボツリヌス毒素製剤の局所注射のみであり、第一選択はボツリヌス療法である (10 )。しかし,毒素製剤であること,継続的に高額の医療費を要することに対し拒否反応を示す患者も存在する。
Ⅱ 遮光眼鏡およびクラッチ眼鏡
1.遮光眼鏡:FL-41 レンズなどで眼瞼けいれんが改善できる.
2.クラッチ眼鏡:眼瞼けいれんと合併しやすい,開瞼失行症ではクラッチ眼鏡が有効.
II 内服療法
1. 抗けいれん薬:1) clonazepam(リボトリール®)本剤の使用には反対意見もある。2)carbamazepine(テグレトール®)。3) sodium valproate(デパケン®)
2.抗コリン薬:1) trihexyphenidyl(アーテン®) 。
3.抗 不 安 薬:1) diazepam(セルシン®)、2) clotiazepam(リーゼ®)、3) etizolam(デパス®)、4) brotizolam(レンドルミン®)。
clotiazepam や etizolam などチエノジアゼピン系薬剤は多用されており,眼瞼けいれんの発症要因としても指摘されている。
4.抗痙縮薬:1) bacrofen(ギャバロン®)。
5.選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI):1) paroxetine(パキシル®)、2) fluvoxamine maleate(デプロメール®)

III ボツリヌス療法 (ボツリヌス毒素療法)
1. 作用機序
ボツリヌス毒素はボツリヌス菌によって産生される神経毒素で,運動神経終末の膜蛋白質 SV 2 と,ガングリオシドのうち GT1b とを受容体とする .SV 2 はアセチルコリンを放出した後のシナプス小胞膜上にあり,ここに結合したボツリヌス毒素はシナプス小胞のエンドサイトーシスとともに細胞内に入る.細胞質内へボツリヌス毒素の軽鎖が挿入されると,カルシウム依存性のアセチルコリン放出にかかわる可溶性 N-エチルマレイミド感受性因子付着蛋白質受容体のうち,A 型毒素ではシナプトソーム関連蛋白質 25を標的に酵素的に切断・破壊して,シナプス小胞と細胞膜の膜融合が起こらなくなり,神経伝達物質の放出が阻害される.その結果として神経筋伝達が遮断され,筋肉の麻痺が生じる.この毒素の受容体への結合は永久的ではなく,神経筋接合部の再開通が生じるので,3〜4 か月後には筋力の回復がみられる.麻痺と回復を繰り返す治療を長期間行っても組織変化は問題にならない.
2.眼瞼けいれんへの使用
ボツリヌス毒素は眼科医 Alan Scott により斜視で初めて臨床応用され、その後,米国で 1989 年に承認.ボツリヌス毒素は眼瞼けいれんの治療法の第一選択として用いられる。我が国では 1996 年に眼瞼けいれんの治療薬として初めて承認された。その後,片側顔面けいれん,痙性斜頸,小児脳性麻痺患者の下肢痙縮に伴う尖足,痙縮と適応拡大が行われた。
3.製剤
承認されているものはボトックス®注用50 単位とボトックス®注用 100 単位。Dysport®,Xeomin®などボトックス®以外の製剤は用いられない。 白色の乾燥製剤で生理食塩水に溶解したとき,無色〜微黄色澄明の液となる。使用直前に日本薬局方生理食塩液で溶解して使用する 。
4.治療の実際
両眼瞼周囲に 細い注射針で皮下の眼輪筋,皺眉筋などに注射する.成人には 初回には 1.25〜2.5 単位/部位を,1 眼あたり眼輪筋 6 部位の筋肉内に注射する.効果は通常 3〜4 か月間持続するが,症状再発の場合には再投与する。2 か月以内の再投与は避ける。閉瞼不全,眼瞼下垂などの副作用が現れた場合には,再投与時の用量を適宜減量する .
5.副作用
1) 主な副作用の頻度;全身性副作用は非常にまれ.本邦での使用成績調査では,6,445 例中 652 例(10.12%)に臨床検査値異常を含む副作用が報告された。眼瞼下垂2.1%,兎眼・閉瞼不全 2.1%,流涙 1.0%,複視(頻度不明)で,いずれも可逆的。眼窩部眼輪筋を避け,瞼板前部に投与すると,眼瞼下垂のリスクが減り治療効果も上がる。
2) 重大な副作用とその対策:① 眼(0.4%);重篤な角膜露出,持続性角膜上皮欠損,角膜潰瘍,角膜穿孔、兎眼,閉瞼不全などが現れた場合には保湿。② 呼吸障害(0.1%);投与部近位への拡散により現れることがあるので,投与後 1,2 週間は嚥下障害,声質の変化,呼吸困難に留意。③ その他,血清病,けいれん発作;けいれん発作素因のある患者には特に注意.
3) 投与上の注意点:① 呼吸困難,脱力感などはきわめてまれだが,遠隔筋への作用の可能性がある.この場合は直ちに受診させる。② 抗体産生;高用量で繰り返し投与した後に,抗体が産生され耐性が生じる可能性があるが、我が国での眼瞼けいれんへの使用では抗体産生の報告はない.③ 眼球の保護:眼球傷害に注意。④ 複視;ボツリヌス毒素製剤を眼瞼深部へ投与すると外眼筋に作用し、一時的に複視が現れることがある。⑤ 閉瞼不全:低用量でも軽度の閉瞼不全が一時的にはほぼ全例でみられるので,保湿などに注意。⑥ 投与筋以外の遠隔筋に対する影響:痙性斜頸など高用量の投与で,投与筋以外の遠隔筋への副作用の報告がある.ごくまれであるが,嚥下障害,肺炎などに伴う死亡例も報告されている.⑦ 脱力感,筋力低下,めまい,視力低下:高用量の投与では,上記諸症状が現れることがある。⑧ 投与開始量:できるだけ少量から投与を開始することが望ましい.
6.禁忌
1)全身性の神経筋接合部の障害患者。2)妊婦または妊娠している可能性のある婦人および授乳婦。3)本剤への過敏症・アレルギーの既往歴がある患者
7.慎重投与
1) 筋弛緩剤および筋弛緩作用を有する薬剤を投与中の患者、2) 慢性の呼吸器障害のある患者、3) 重篤な筋力低下あるいは萎縮がある患者、4) 閉塞隅角緑内障のある患者またはその素因のある患者、5) 高齢者:高齢者は生理機能が低下しているので,慎重に投与.
8.併用注意薬剤
筋弛緩剤および筋弛緩作用を有する薬剤
9.長期投与
) メタアナリシス:比較的安全.長期間ボツリヌス療法を行った2,361 人に対する分析で,副作用頻度は,ボツリヌス毒素投与群 25%,対照群 15%で,すべて軽―中等度の副作用で重篤なものはなし。
2) 長期投与による変化:平均 15 年間ボツリヌス毒素を投与した患者を検討した報告では,初回投与時と長期投与後の投与時とを比較すると,投与単位は増加し,最大効果の持続期間が延長。副作用に関しては,投与量が増加したにもかかわらず,むしろ減少した。
3) 長期投与上の問題点
投与部位,近接部位の筋の化学的除神経と,中和抗体出現による耐性が予想されたが,影響はないと考えられる。
IV 外科的治療
1.術式
眼瞼皮膚切除,眼輪筋切除術,Müller 筋縫縮術,前頭筋吊上げ術,皺眉筋切除術,顔面神経切断術およびこれらの併用などの手技がある.いずれの手術の術後でも一時的には改善することが多いが,多くの例で長期的には眼瞼けいれんの再燃がみられ,ボツリヌス療法を併用せざるを得ない.最も奏功率が高いのは広範囲眼輪筋切除術であり,顔面神経切断術では超選択的顔面神経切断術が行われる。
2.合併症
1) 眼輪筋切除術:術後の腫脹,血腫や,前額部の疼痛.前額部の知覚鈍磨,閉瞼機能低下,慢性的な眼窩周囲のリンパ浮腫,兎眼性角膜炎,眼瞼外反症など。部分的切除術では重篤な合併症は生じない。また全切除術を行っても術後に高頻度でボツリヌス毒素注射が必要。(10) .
2) 前頭筋吊上げ術:出血,感染,兎眼性角膜炎,縫合部の肉芽腫形成など.手術成績を良好とする報告もある。
3) 皺眉筋切除術:眼窩上神経麻痺を生じることがある。

おわりに
日本神経眼科学会が新たに答申した眼瞼けいれん治療ガイドラインに従い、眼瞼けいれんの診断と治療を短く纏めた。こんなことが書いてあるのかとご笑覧戴ければ幸いであるが、その実施に当たっては原文を今一度ご参照いただきたい。必ずや今まで気が付かなかった診断や治療のコツに気がつかれる所が有るであろう。

文献
1)眼瞼けいれん診療ガイドライン、日眼会誌115:617-628,
2011
2) 若倉雅登:眼瞼けいれんと顔面けいれん. 日眼会誌109:667-684, 2005.
3) Wakakura M, Tsubouchi T, Inouye J:Etizolam and benzodiazepine induced blepahrospasm. J Neurol Neurosurg Psychiatry 75:506-507, 2004.
4)Suzuki Y, Mizoguchi S, Kiyosawa M,, et al:Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with essential blepharospasm. J Neurol 254:890-896, 2007.
5)三村 治, 鈴木 温, 木村亜紀子:本態性眼瞼痙攣の臨床. 神経眼科 20:15-21, 2003.
6)山本紘子:薬物性ジストニーと眼瞼痙攣. 神経眼科20:43-48, 2003.
7)若倉雅登:眼瞼痙攣の診断法(ドライアイとの関連も含めて). 三村 治(編):眼科疾患のボツリヌス治療. 診断と治療社, 東京, 15-32, 2009.
8)清澤源弘, 鈴木幸久, 石井賢二:眼瞼痙攣の誘因と原因. 神経眼科 20:22-29, 2003.
9)Jankovic J, Havins WE, Wilkins RB:Blinking and blepharospasm. Mechanism, diagnosis, and management. JAMA 248:3160-3164, 1982. 
10)木村亜紀子, 三村治:BTX 治療の長期予後. 三村 治(編):眼科疾患のボツリヌス治療. 診断と治療社, 東京, 79-93, 2009.

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