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2012年6月3日

3317 晩発性Stargardt病の臨床および遺伝的特徴;

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スターガルト病と言う疾患があってそれが最近、眼科医の特に研究者の間では興味を引いているのですが、臨床医としては今一つ腑に落ちない疾患です。この疾患が医師に疑われたということで連絡を下さった患者さんが居たのですが、その疾患のどこが私にとって「腑に落ちない」のかをご説明しましょう。

私とは別の素人の方の日本語ページ(其処にリンク)にもこの疾患がシュタルガルト病(Stargardt Disease)として解りやすく解説されています。

その記述をなぞらせていただけば、ドイツの眼科医、Karl Stargardt が1901年に報告したことからこの名前が付けられた。恐らく若年性の黄斑変性では最も多い疾患であると言う記載は正しいかと思います。

眼底黄斑部の網膜色素上皮または網膜深層に「魚形に」リポフスチンが黄白色で不規則な斑点として沈着します。その結果として黄斑部が変性して、萎縮性病変となります。(注:この疾患では特に蛍光眼底撮影で脈絡膜が暗く写ると言う事が昔からいわれているのですが、それはこの色素に因る脈絡膜蛍光の遮蔽が強いということなのかと思います。)ですからその症状は視力障害と色覚異常です。

遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、1997年に変異したABCR遺伝子が Stargardt 病に強い影響を与えていることが発見されたという訳です。これが、「少なくとも理論的にはスターガルト病が遺伝子レベルで診断できるようになった」ということで、この疾患名に此の10年くらい再び日が当った原因です。(しかし、このスターガルト病にも3つの遺伝子変化が有るようです。)

 頭書のページが述べるように、視野狭窄ではなくて、中心暗点を示す網膜色素変性症ならば、この病気である可能性はあるということなのですが、普通に使われる広義の網膜色素変性症とこのスターガルト病は網膜で変性する視細胞が桿体中心(視野狭窄になる)であるのか、それとも錐体中心で有る(中心暗転になる)のかと言うだけの違いなので、網膜色素変性と診断されていたとしてもそれは誤診ではなくて、そもそもそれほど大きな差はないという事が出来ます。(ちなみに、網膜色素変性症の原因遺伝子変異も複数あって、これもまた単一ではありません。)

そこで今日は「晩発性Stargardt病の臨床および遺伝的特徴」という比較的新しい論文が有りましたので、その抄録部分を書き下しして見ます。

ーーー論文の要旨の翻訳ーーーーー
晩発性Stargardt病の臨床および遺伝的特徴
ウエステネング-バン ホフテン C他 Ophtalmology誌 (2012年3月)
(Clinical and Genetic Characteristics of Late-onset Stargardt’s Disease;
C Westeneng-van Haaften S, Boon CJ, Cremers FP, Hoefsloot LH, den Hollander AI, Hoyng CB)

目的:
遅発症性Stargardt病(STGD1)患者の遺伝子型および表現型についての記述をすること。

実験設計:回顧的症例シリーズ。

参加者:45歳以後に発症した21人の親戚関係のないSTGD1患者とABCA4遺伝子中に1つのまれな変異を持つ一例。

方法:
最良の矯正視力(VA)、アムスラーグリッド試験、眼底写真、フルオレスセイン血管造影法(FA)、スペクトルドメイン3次元網膜断層像(OCT)、眼底自己蛍光撮影(FAF)、網膜全体の網電図(ERG)、多焦点ERGおよび中心視野試験を含む眼科的な診察。

ABCA4遺伝子の分析は、マイクロアレイ分析、配列検査および多重結紮依存の標本調査が遺伝子増幅を使用して行なわれました。さらに、PRPH2とCFHの遺伝子も確認されました。

主な結果の判定:
発病年齢、視力、眼底所見、蛍光眼底撮影、FAF眼底自己蛍光撮影およびOCT所見。
ABCA4変異と遺伝子型と表現型の相関。

結果:
発病の平均年齢は55歳(45歳-72歳)でした。
7人の患者が視覚症状なし(年齢層、45歳-83歳)でスターガルトと診断されました。
視力は14人の患者(59%)の24眼が20/40以上でこれは黄斑障害が無いからでした。
眼底検査においては、遅発症性のSTGD1が卵黄様黄斑が15人に、まだら状の黄斑を囲む小さな白斑が3人の患者で見られ、広範囲な黄班部の網脈絡膜萎縮は2人の患者に見られ、小さくて黄色い黄班部の斑点が一人に見られました。眼底の白斑は自発蛍光の増加を示し、脈絡膜背景蛍光は18人(80%)で不明瞭でした。

私たちは11人の患者(52%)にABCA4の単一塩基のテロ接合変形を見出し、8人の患者(38%)には2塩基のヘテロ接合のABCA4変異を見つけました。そして、2人の患者(10%)には1つのホモ接合体の変形ABCA4を見つけました。PRPH2またはCFHの変化は検知されませんでした。

結論:
遅発症性のSTGD1は、ABCA4変化によって引き起こされる網膜ジストロフィーのスペクトルのうちの穏やかな側の端にあたります。視力は遅発症性のSTGD1患者では、中心窩の残存に起因して頻繁に保持されています。この表現型は1つあるいは2つのABCA4塩基の変異によって引き起こされるのかもしれません。
遅発症性のSTGD1と加齢黄斑変性症の間の鑑別診断は困難であるかもしれません。完全な臨床的分析および遺伝子分析はこの区別を可能にします。それは臨床的な遺伝カウンセリングにとって重要です。

財務内容の開示:
著者はこの記事で議論された材料のうちのどれにも所有権や経済的利権を持ってはいません。
ーーー引用終了ーーー

清澤のコメント:
Bernstein_stargardt
私が研修医で、医局の症例検討会を聞いていた1980年ころ、上の図の様な白点状の網膜病変が果たして白点状網膜症なのかどうかという様な話題になった時に、H先輩が「かなりの疾患がこのスターガルトに含まれてしまうらしくて、眼底所見や電気生理学的所見で分け様とするのがナンセンスな時代になった。」という様な衝撃的な発言をされたのを覚えています。(図は別からの借用です。)網膜疾患が、臨床所見と言う状況証拠から、遺伝子などの物証に依る診断の時代への変化を見せていたわけです。

その延長として、今でも眼底所見や電気生理学的な検査が行われてはいますが、本当にこの疾患なのか?と言うことになりますと国内ではほとんど行う事が出来ない遺伝子検査が必要になってくるようです。其処が私の「腑に落ちない」と言うところです。

もう一つの臨床的な焦点は加齢黄班変性とこのスターガルト病の鑑別が困難なことです。活動期の加齢黄班変性ならば抗VEGF抗体(抗血管新生薬)を硝子体内に注射する治療法が確立されつつあるのですが、このスターガルト病にはそれに対応するような治療法はまだ見つかってはいません。

夢物語としては、遺伝子操作を加えた幹細胞を網膜下に移植すると言う最先端の臨床研究が米国(および日本でも?)始まりつつは有るようです
。(清澤眼科医院通信:2491 スターガルト病治療に動きが出たか?に⇒リンク)

別の関連記事:
清澤眼科医院通信:260家族性黄斑萎縮 スターガルト病 Stargardt
リンク

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