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2012年5月17日

3327 瞬目の仕組み 鈴木幸久 清澤源弘 (総説)

眼科の専門雑誌から依頼を受けて鈴木幸久先生が瞬目の仕組みを日本語で纏めてくれました。彼は此の総説を書く前にPETを用いて瞬目の脳内機構の研究をしています。前補足運動野と第一次運動野が自発的な開閉瞼のリズムを作る、Suzuki Y, Kiyosawa M, Mochizuki M, Ishiwata K, Ishii K. The pre-supplementary and primary motor areas generate rhythm for voluntary eye opening and closing movements. Tohoku J Exp Med. 2010; 222: 97-104.というものです。

その内容に自身のあった私たちは最初に此の論文をBRAIN誌に投稿したのですが、その雑誌では「正常人を用いた生理的な脳機能の研究」はすでに掲載を止めたという理由で断られてしまいました。

その後、此の論文は時間の経過とともにそのままお蔵入りになりかけたのですが、鈴木先生はそれを惜しみTohoku Journal of experimental medicineに掲載してもらうことが出来ました。

その時の知識で纏めた依頼原稿が此の総説です。
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4.瞬目の仕組み

鈴木幸久(三島社会保険病院眼科)、清澤源弘(清澤眼科医院)

はじめに
瞬目とは、速度の速い閉瞼から開瞼に及ぶ一連の動作であり、狭義の開閉瞼とは異なる。瞬目には、その性質の違いから、周期性瞬目、反射性瞬目、随意性瞬目に分類され、角膜の湿潤、眼筋の緊張解除、網膜の入力補正、異物の除去などさまざまな役割を果たしている。

1.瞬目に関わる神経・筋
正常人の自然瞬目(周期性瞬目)は、1分間に15~20回程度とされる。開瞼運動は、動眼神経支配である上眼瞼挙筋の収縮によっておこり、閉瞼運動は、顔面神経支配の眼輪筋の収縮による。正常人では、開瞼運動時には上眼瞼挙筋のみ収縮がおこり、閉瞼運動時には眼輪筋のみの収縮がおこっており、2つの筋が同時に収縮することはない。瞬目では、開瞼運動に引き続いて閉瞼運動がおこり、上眼瞼挙筋と眼輪筋の連続した協調運動となっている。

・ポイント
・瞬目は、動眼神経支配の上眼瞼挙筋と顔面神経支配の眼輪筋の連続した協調運動である。

2.瞬目に関わる脳の部位
身体の各部位を動かす場合、脳のさまざまな部位が関わっており、ポジトロン断層法(PET)やfMRIなど脳機能をみる検査によってそれらの部位が賦活化される様子がわかる。眼球運動時には、一次運動野(primary motor area)、補足運動野(supplementary motor area; SMA)、前頭眼野(frontal eye field; FEF)、小脳などの賦活化がみられることが知られている(図1)。一次運動野は、大脳皮質の中心前回に存在し、運動時に脳の他の部位や脊髄に出力を送っている。補足運動野は、一次運動野の前方の頭頂葉に存在し、一次運動野をはじめとして運動に関係する脳の各部位へ出力しており、特に自発的な動作に関連が深いと考えられている。前頭眼野は、補足運動野の前方に存在し、眼球運動の発現と調節に関与している。眼球運動時には、一次運動野、補足運動野、前頭眼野のいずれの部位にも強い賦活化がみられるとの報告が多い。それに対して、瞬目時には、一次運動野、補足運動野の賦活化は十分みられるが、前頭眼野の賦活化がみられない、あるいは眼球運動時と比較して賦活化の程度が弱いと報告されている。

・ポイント
・瞬目時には、一次運動野と補足運動野の賦活化が強くみられる。

3.瞬目の種類と役割
瞬目は、周期性瞬目、反射性瞬目、随意性瞬目に分類される(表1)。
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表1.瞬目の種類
                                       
周期性瞬目    生理的な瞬目
涙液の分泌、排出、角膜表面への涙液の分布による涙液層維持
反射性瞬目    刺激によって誘発される瞬目
角膜の保護、異物除去
随意性瞬目    精神的過敏によって増加する瞬目  

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周期性瞬目とは、正常人が一定の周期で無意識のうちにしている瞬目で、最も生理的な瞬目であると考えられる。反射性瞬目とは、角膜や眼瞼など三叉神経知覚枝への触角刺激、光刺激によって誘発される瞬目である。随意性瞬目は、精神的過敏によって増加する瞬目で、緊張、不安、虚言時などに頻繁にみられる。
瞬目の主要な役割は、涙液の分泌、排出、角膜表面への涙液の分布による涙液層維持であると考えられ、これらは、主に周期性瞬目によってまかなわれている。また、角膜や結膜に異物が飛入したときには、反射性瞬目によって異物を除去しようとする。そのほか、眼筋の緊張解除、網膜への視覚情報の入力補正、注意や認知処理過程とも関連していると考えられている。

・ポイント
・瞬目は、周期性瞬目、反射性瞬目、随意性瞬目に分類される。
・瞬目の役割には、涙液の分泌、排出、角膜表面への涙液の分布による涙液層維持の他、異物の除去、眼筋の緊張解除、網膜への視覚情報の入力補正などがある。

4.瞬目に関係する生理現象
閉瞼時には眼球が上転するBell現象が起こることが知られている。では、瞬目時にも同様のBell現象が起こるのであろうか。実際の瞬目時の眼球運動について調べた報告がいくつか存在する。Takagiらは、正常人において、磁気サーチコイルを用いて自発的な瞬目、意図的な瞬目、ゆっくりとした閉瞼時の眼球運動を記録した。それによると、閉瞼時には、Bell現象と考えられる眼球の上転がみられたが、自発的な瞬目時と意図的な瞬目時には、下方と鼻側への眼球運動しかみられなかった、と報告している。また、Iwasakiらも、自発的な瞬目時にはBell現象が起こらなかったが、ゆっくりとした瞬目や強い瞬目によっては、Bell現象が起こると報告している。これらのことから通常の素早い瞬目によっては、Bell現象はあまり誘発されないと考えられる(図2)。
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表2、瞬目が増加および減少する状態または疾患
(山本紘子、神経眼科2003;20:43-48より改変)
                                      
増加                                    
緊張、不安、虚言
触覚刺激、光刺激
眼瞼痙攣
片側顔面痙攣、異所再生顔面痙攣
遅発性ジスキネジア
乾性角膜炎
睫毛内反症
統合失調症、チック、自閉症
ドパミンアゴニスト投与

減少                                    
注視、集中、近業、思考
パーキンソン病およびパーキンソン症候群
糖尿病
LASIK手術後
アルコール摂取
アセチルコリンアゴニスト、GABAアゴニスト投与 
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 瞬目時には、開閉瞼に伴って眼瞼が瞳孔領を横切り、一時的に視覚が遮断されるが、自然瞬目時には、私たちは、眼瞼が瞳孔領を横切っている最中の様子や閉瞼した瞬間に視野が暗くなることを自覚しない。これは、瞬目抑制(blink suppression)といわれ、瞬目時の視覚入力が抑制されているためであると考えられている。Ridderらは、瞬目中の視機能の感度についての研究を行っている。被験者の左眼に縞模様を映し出した画像を提示し、右眼はビデオカメラでモニターする。左眼に提示した縞模様のコントラストを変化させ、右眼を開瞼させている時と瞬目させている時のそれぞれについて、左眼で認識できるコントラストの強さを測定している。すると、右眼を瞬目させている時は、開瞼させている時と比べ、左眼は強いコントラストでなければ認識できず、瞬目中は視覚の感度が低下していることがわかった。この瞬目抑制については、まだ、十分解明されていないが、現在のところ、外側膝状体から視覚野までのどこかで視覚の抑制が起こっていると考えられる。

・ポイント
・素早い瞬目時には、Bell現象が誘発されにくい。
・瞬目時には、瞬目抑制が働き、視覚の感度が低下している。

5.瞬目の異常をきたす疾患や状態

1) 瞬目過多
瞬目過多は、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、遅発性ジスキネジアなどの疾患でみられる他、統合失調症、自閉症などの精神疾患においてもみられる(表2)。眼瞼痙攣は、瞬目過多をきたす代表的な疾患である(図3)。眼瞼の不随意運動によって、瞬目が増加する他、眼瞼痙攣患者はphotophobiaを合併することが多く、触覚刺激や光刺激に対する角膜や眼瞼の閾値が低下しており、それらに対する反射性瞬目も増加している。片側顔面痙攣では、三叉神経過敏状態において刺激を契機にして反射弓の短絡が起こり筋収縮の持続が起こっている(図3)。Bell麻痺の後遺症による異所再生顔面痙攣でも、同様に増加する。また、乾性角膜炎では、角膜表面の乾燥を防ぐために瞬目は増加している。小児においては、角結膜疾患や外眼部疾患(睫毛内反症、麦粒腫など)、矯正不適、間欠性外斜視、習慣性チック、心因性などによって瞬目過多がみられる場合がある。

2) 瞬目減少
瞬目減少をきたす代表的な疾患は、パーキンソン病、もしくはパーキンソン症候群である(表2)。パーキンソン病患者では、内因性ドパミンの低下が起こっており、ドパミン作動性活動が瞬目数に直接的に影響すると推測されている。そのため、パーキンソン病では、ドパミンアゴニスト投与により、瞬目は増加する。コリン作動性、GABA作動性神経伝達は、瞬目減少に関わっていると考えれ、アセチルコリンアゴニスト、GABAアゴニスト投与により、瞬目は減少する。糖尿病などの角膜知覚の低下をきたす疾患においても、瞬目は減少する。また、正常人であっても、注視や集中、読書やコンピュータ作業などの近業によっても瞬目数は減少する。これらは、ストレスや情動の変化によってもたらされると推測されるが、オキュラーサーフェスへの涙液の正常な分布が障害され、角結膜異常の原因となりうる。LASIK手術では、角膜フラップ作成時に角膜神経叢が切断されてしまうため、手術後に角膜知覚低下により瞬目回数が減少する。LASIK術後には、涙液分泌量の減少も起こってくることから、角膜上皮障害に注意しなければならない。

3) 瞬目の質的な異常
バセドウ病など眼球突出をきたす疾患においては、完全に閉瞼しない不完全瞬目がみられる。正常人でも、若年女性を中心に不完全瞬目がみられることがある。パソコン作業などの視環境やコンタクトレンズ装用などが関係していると推測されているが、原因についてはよくわかっていない。熱傷やスティーブンスジョンソン症候群では、瞼縁の角化や眼瞼の変形を伴うことがあり、閉瞼が可能であっても、眼瞼と眼球が接していなかったり、上下の眼瞼がかみ合っていないために、正常な瞬目が不可能になる場合がある。その他、眼瞼痙攣やチック症では強い瞬目がみられる。

・ポイント
・瞬目過多は、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、遅発性ジスキネジア、統合失調症、自閉症、乾性角膜炎などでみられる。
・瞬目減少は、パーキンソン病、糖尿病、LASIK手術後、近業時などにみられる。

                                             
文献
鈴木幸久、清澤源弘、解決!目と視覚の不定愁訴・不明愁訴、若倉雅登、清澤源弘、山田昌和他編著、金原出版、P22-26、2006.
平岡満里、菅沼雅子:瞬目。この無視されてきた重要問題、瞬目の電気生理―ボツリヌス療法への応用―神経眼科20:30-36、2003
Takagi M, Abe H, Hasegawa S, Usui T. Reconsideration of Bell’s phenomenon using a magnetic search coil method. Doc Ophthalmol. 1992; 80: 343-352.
Ridder WH, Tomlinson A. Suppression of contrast sensitivity during eyelid blinks. Vision Res 1993; 33: 1795-1802.
若倉雅登、解決!目と視覚の不定愁訴・不明愁訴、若倉雅登、清澤源弘、山田昌和他編著、金原出版、P20-22、2006.

             

               

図の説明
図1、大脳皮質の運動関連領域
一次運動野は中心前回に存在し、その前方に補足運動野が存在する。さらに、補足運動野の前方に前頭眼野が存在する。
figure1

図2、瞬目時と開閉瞼時における眼球運動
開閉瞼時(下)には、眼球の上転(Bell現象)がみられるが、随意性瞬目時(上)には、Bell現象はみられず、眼球の下転が観察された。
Figure2

図3、眼瞼痙攣および片側顔面痙攣の眼輪筋筋電図
眼瞼痙攣では、眼輪筋の持続的な不随意収縮がみられるが、片側顔面痙攣では、瞬目などを契機にして痙攣波が発生し、一定時間後収束する。

Figure3

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