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2012年2月26日

3089 片側顔面けいれんに関する最近の話題

片側顔面痙攣
土曜日の外来を始めようとしたところで、診察台のパソコンについてくれた事務のリーダーOさんが「昨日のテレビで片側眼面痙攣を患った女優の話が放映されていましたよ。」と教えてくれました。それはそれはとネットに強いTさんに大急ぎで調べてもらったら、その女優さんは高樹澪さんでした。

番組では都会派女優高樹澪さんの壮絶な人生を、彼女の出演作品「モーニングムーンは粗雑に」などの映像を交えて紹介したそうです。彼女は病気で2003年に芸能界から姿を消しましたが、ジャネッタ手術が奏功し現役復帰を果たしたそうです。

片側顔面けいれんには、ボトックス注射が6ヶ月くらい有効でこれが標準的な治療であると私も考えておりますが、このほかに顔面神経に圧迫を加えている小脳動脈を除けるジャネッタ手術という治療があり、ネット記事を読みますと彼女にはそれが行われたようです。

私たち東京医科歯科大学の神経眼科班は若倉先生にも協力をお願いし、東京都健康長寿医療センター研究所と協力してこの片側顔面けいれんの脳糖代謝の研究を進めて来ましたが、このたびムーブメント・ディスオーダー(Movement Disorders)という有名な医学雑誌にその結果を2月16日に電子版に公表することが出来ました。
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Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with hemifacial spasm†‡
Megumi Shimizu MD1,2, Yukihisa Suzuki MD, PhD1,2, Motohiro Kiyosawa MD, PhD1,3, Masato Wakakura MD, PhD4, Kenji Ishii MD2,*, Kiichi Ishiwata PhD2, Manabu Mochizuki MD, PhD1 Article first published online: 16 FEB 2012

DOI: 10.1002/mds.24925

研究にご参加いただきました方々へのお礼を兼ねて、先ずその結果の概要をお話します。

題名は、「片側顔面痙攣患者の脳糖代謝」で、清水恵、鈴木幸久、清澤源弘、若倉雅登ほかの著者です。

片側顔面痙攣は、顔面神経の異常興奮により、片側の顔面筋に不随意かつ発作性に起こる疾患です。

延長・蛇行した血管により顔面神経が慢性的に圧迫されることにより発症します。

その発症率は、約0.8 / 100,000人。40-70歳の女性に多く、男女比は1:2です。

アジア人では、片側顔面痙攣の有病率が高い。それは頭蓋骨の後頭蓋窩が狭く血管による神経の圧迫が起こりやすいためとも説明されています。

鑑別疾患には: 眼瞼痙攣(原発性及び薬剤性)、 眼瞼ミオキミア、顔面ミオキミアなどが挙げられます。

このお話の背景として、我々が過去に行った眼瞼痙攣に関する研究(Suzuki他., J Neurol 2007)を紹介します。

この研究では、PETを用いて、ボツリヌス毒素治療後の眼瞼痙攣患者の脳糖代謝について調べました。

治療により、完全に眼瞼痙攣が抑制された完全抑制群では、両側の視床のみに糖代謝亢進がみられた。

これに対して、治療後も眼瞼痙攣が残存する不完全抑制群では、視床に加えて小脳にも糖代謝亢進がみられました。

 眼瞼痙攣では体の感覚を受け入れる視床と、細かい運動や体のバランスを調整する小脳に異常な興奮が起きているということが分かりました。

今回、眼瞼痙攣患者の場合と同様に、「片側顔面痙攣患者においても脳内の糖代謝変化がみられるだろう」との仮説をたて、これを確かめました。

この仮説に基づき、片側顔面痙攣患者の脳糖代謝を痙攣出現時とボツリヌス毒素治療後の痙攣抑制時の2回測定しました。

対象は
右)片側顔面痙攣患者群 男性9例、女性4例、62.2±11.5歳
左)片側顔面痙攣患者群 男性4例、女性9例、64.2±7.0歳
正常コントロール群    男性26例、女性26例、61.8±6.3歳
の3群です。

結果はかいつまんでお話しますが、

右)片側顔面痙攣群においては、痙攣出現時(8%程度)でも痙攣抑制時(5%程度)でも共に正常コントロール群に比べて、両側の視床で糖代謝亢進が見られました。(左側のけいれんでも同じでした。)

顔面神経を圧迫する原因血管は 前下小脳動脈が19 例、後下小脳動脈が4 例、そして後下小脳動脈および椎骨動脈が2 例 でした。
圧迫部位は :RExPが1 例、ASが 17 例、RDPが7 例、というわけでその形は様々でした。
血管による神経への圧迫の強さ軽度が7例、中等度が13例、強度は5例でした。

結果をまとめると:
片側顔面痙攣患者において、両側視床の脳糖代謝亢進がみられた。
全症例において、片側顔面痙攣の原因と推定される顔面神経の圧迫がみられた。
視床の糖代謝亢進は、病気の原因ではなくて疾患による二次的な変化であると推測されました。

これまでの要点をまとめると:
片側顔面痙攣患者の両側視床で糖代謝亢進を認めました。
痙攣出現時の痙攣の強さと、血管による顔面神経圧迫の強さとの間には正の相関がみられました。

これまでの結果をもとに、私たちはジャネッタ手術が病気を本質的に直していることがPETで確かめられないかということを考えました。
ですから次の研究の目的は:片側顔面けいれんの患者さんのご協力のもとに片側顔面けいれんと脳との関係を調べ、診断と治療に役立てようと言う事です。

片側顔面けいれんの治療法としてはボツリヌス治療のほかに、顔面神経を押している血管の圧迫刺激を取ることで、けいれんを改善しようというジャネッタ手術があります。

米国のMiller先生の統計では:この手術では手術後の再発は2.4%とかなりの有効率です。

研究は片側顔面けいれん患者さんに協力を求め、顔面神経の圧迫を取る手術の前後で、片側顔面けいれんに関係する脳機能の変化について調べようとするものです。

PET検査は脳の活動分布を検査する方法の一つで、「PET」とは「陽電子放射断層撮影」の略です。

PET検査では、検査薬(FDG)を点滴で人体に入れ、専用の装置で頭を撮影することで、 脳の活動分布を見ることができます。

協力いただく方の検査の流れは、
①清澤眼科医院にて一般的診察の後、参加希望書をいただきます。
②後日電話にて検査日についてご連絡します。
③手術前のPET測定を東京都健康長寿医療センター附属診療所(東京都板橋区大山)にて行います。
④東京医科歯科大学脳神経外科にて顔面神経を圧迫している血管の圧迫を解除する手術を行います。手術のための東京医科歯科大学への紹介は清澤眼科医院から行います。
⑤手術後、1-2ヵ月後以上経ってから手術後のPET測定を行います。

では、この検査ではどんな成果が期待できるでしょうか?
手術によって得られる見た目だけでは分からない脳への効果が分かるかと期待します。今後、この手術を患者さんに決断していただくための判断材料にもできるのではないかと考えています。
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これが、現段階での私の話(20分間)の予備原稿です。

では、患者さんとご家族とに、3月3日にコーワビルの会場で行われる眼瞼・片側顔面けいれん友の会の会場でお目にかかるのを楽しみにしております。

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