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2011年10月23日

2727 網膜有髄神経線維に関する質問と、そのお答えです

興味深い医学的な質問を戴きました。

2011/10/23 17:33 投稿者:

私は医学部1年生です。学校のプロダクツ講演のための資料を集めています。先生のホームページを大変興味深く拝見させていただきました。お忙しところ申し訳ないのですが、いくつか参考になる資料を紹介していただけないでしょうか?

網膜がなぜ無随なのか?
眼鏡内の視神経が有髄でなく無随である利点について調べています。

これに関する本や文献などの紹介をお願いします。
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お答え:医学部の基礎の一年(通算では3年生)、学問が楽しい一番良い時期ですね。頑張ってご自分の答えをお探し下さい。

眼球内の視神経が無髄で有ることの利点:

この議論を見かけたことは無いのですが、まず網膜の神経節細胞の軸策は網膜神経線維層をなしていて、その中を光が通過して、網膜各層も透過して網膜色素上皮層に対向する視細胞の内節および外節に光が入ります。
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ですから網膜神経線維が有髄線維で光が透過しないと光を感ずる効率は悪くなるでしょう。(医学部一年なら網膜の構造はご存知ですね。)殊に、黄斑と視神経の間は神経線維層が厚く、OCTで解るほどの厚さですから、ここにしっかり髄鞘があるとたぶん邪魔でしょう。(下のOCT網膜の図で右半分は網膜上に神経線維層が厚く見えています。)

untitled

しかし、眼内に有髄神経線維が有ってもそれが影になって視野欠損の原因になっているのを私は見たことが有りません。

0010104_large(図は網膜有髄神経線維です)
MRIで脳をスキャンすると、成長に伴って大脳の白質が髄鞘化してゆくのが見えるのですが、たとえば脳梁線維の髄鞘化はゆっくりと起こり完全に髄鞘化されるのは思春期頃であることが分かるそうです。

そのようなグリアは眼球内には元々なくて篩板のところでせき止められてしまうのかもしれません。

既にお気づきでしょうが、視神経の髄鞘は末梢神経の髄鞘を作る時のシュワン細胞ではなくオリゴデンドロサイトです。このグリアは末梢神経が跳躍伝導で速度を稼ぐのとは目的が違い、主な働きは一眼球に百万本もある多数の線維間の絶縁をしているのかもしれません。(視神経が脱髄する疾患に多発性硬化症が有り、その疾患で見られる視神経炎で視神経が脱髄すると、一時的に視力が下がって中心暗点を示します。)
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具体的な答えの続きです。

AdlerのPhysiology of the eye(Physiology of the Eye: Expert Consult – Online and Print [Hardcover] Leonard A Levin MD PhD (Editor), Siv F. E. Nilsson PhD (Editor), James Ver Hoeve MD (Editor), Samuel Wu MD (Editor), Paul L. Kaufman MD (Editor), Albert Alm MD (Editor)新版が出てますね。) この本辺りを開くと何か書いてありそうですね。

その上の大きな本なら、眼科の百科事典Duke Elderのsystem of Ophthalmology.が古いが詳しいでしょうけれど。

解剖学や生理学はそのような目的論が有って解剖が決まるのではなくて、解剖学的な事実が生理学的にはどう都合がよいかと後から講釈したに過ぎないので、理由が付くものかどうかもわからないのですね。そちらでお調べになって、更に何か分かったらお教えください。
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答えの続き2です

先に述べたようにそれらしき教科書を探すほかに、ネットで原論文を英語で探すこともできます。この場合はretinal ganglion cell, axon, myelinationがキーワードです。(日本語だと得られる情報量は圧倒的に少ないですから、本気で探すなら日本語では駄目です。)

医学の研究をするには、この方がオーソドックスな方法です。そうしますと、
1)Structural Requirement of TAGS-1 for Retinal Ganglion Cell Axons and www.jneurosci.org/content/28/30/7624.fullという論文が出てきます。この論文は分子生物学的に視神経のミエリン化の条件を実験したみたいですね。

(シャルコーで有名なサルペトリエル病院とINSERUMは私も一時留学したところです。新潟大学の日本人も著者に入ってますよ。)

2)Journal of Neurocytology
Volume 19, Number 2, 265-272, DOI: 10.1007/BF01217304
Evidence that the lamina cribrosa prevents intraretinal myelination of retinal ganglion cell axons
V. H. Perry and R. D. Lund 「篩板が網膜上の神経節細胞の髄鞘化を阻害している根拠」これも使えそうですね。

その先のリストも読んでご覧くださいな。面倒ですが、読めば読むほど知識が広がってゆきます。こんな楽しい事は無いでしょう。決まった答えを探す勉強ではなくて、自分の答えを探す勉強をなさってくださいね。

何かを研究するには、まずその道のすぐれた総説を探して、それをじっくり読んで学会の趨勢を探りなさいと言うのは、「どこからこの研究に手をつけて良いかわかりませんが?」という私の質問に当時の指導者で、後にケンブリッジ大学の教授になられたJC バロン教授が教えて下さった方法です。

とは、余計なことを言いました。

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