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2011年10月10日

2685 解決! 眼と視覚の不定愁訴・不明愁訴  その9) 困った症例集

解決! 眼と視覚の不定愁訴・不明愁訴  その9) 困った症例集
   清澤眼科医院 清澤源弘

●眼科開業医を訪れる様々な患者さん
若倉先生、山田先生とこの打倒!解決! 不明愁訴・不定愁訴を担当させて頂いて9年になりました。
私はこの間に大学を離れ、開業しました。
 そして、だんだんに背伸びして大学並みの最先端での議論をするよりも、新しいことは理解しながら患者さんに納得して戴ける医療を目指したいと思う様になって参りました。

●本日の症例
症例1:目の周りの湿疹
 (先天性無汗性外胚葉形成不全)
症例2:網膜振盪なのに視力が戻らない
 (黄斑円孔を伴う網膜振盪の結末)
症例3:開瞼障害を訴えるFahr病の患者
 (眼瞼痙攣)
症例4:眼振の子供が登場
 (家族性滲出性硝子体網膜症FEVR)

図1
症例1 目の周りの湿疹
3歳 男児
1ヶ月ほど前から両眼を痒がり、眩しさを訴える
杉、ハウスダストの
  アレルギーあり
歯は一本もありません

先天性無汗性外胚葉形成不全と診断されている
インターネットを見て来院
→ では、調べてみよう!!

●無汗性外胚葉形成不全症    anhidrotic ectodermal dysplasia これは単一の疾患ではなく、約150の疾患の総称。疎毛、無汗症、歯牙形成異常の3主徴を認める。

膜蛋白のEDAR(ectodysplasin anhidrotic receptor)関連の遺伝子変異によって生じる。
皮膚は発汗構造の欠如のため全体的に薄く、乾燥。高温の環境に弱い。
流涙の減少や口腔鼻粘膜の乾燥のため、角結膜炎や口内炎、化膿性鼻炎、嗄声をきたす。

高温の環境に注意すれば、ほぼ正常の生活を送ることができ、知能の発達も通常は正常。

●外胚葉異形成症の主な眼障害
1. 涙の欠乏: 外胚葉異形成では涙の3層全部に影響。
   易感染性で角膜潰瘍ができる。
点眼液と涙点プラグ、涙小点閉塞術が有効。
2.  涙の排出障害:出生時から涙嚢炎と涙目を引き起こす。
涙道通水やブジー、涙嚢鼻腔吻合術がなされる。
3、 角膜障害: 角膜潰瘍と瘢痕形成はドライアイと反復的な
感染等で引き起こされる。角膜潰瘍には抗生物質、涙の
補足、保護用コンタクトレンズ。角膜移植と眼表面の再建
手術も有効。
4、 白内障: 水晶体は外胚葉から形成される。 白内障は時には
先天性で眼振を伴う。手術後にはリハビリを必要とする。

●症例2 網膜振盪なのに 視力が戻らない
インターネットを見て質問の電話がかかってきた。子供が野球の練習中に打球を眼に受けて網膜振盪になった。視力が戻らないと言われたが?

見なくてはわかりません。

果たしてお盆休み中の院長診察日に来院。

●眼底写真(2011.8.15)
右は一見正常、左は黄斑部に広範な萎縮
●左の中心暗点。右の狭窄は慣れの問題か?
●右はほぼ正常、左は網膜黄斑部が薄く萎縮しています。
●紹介状に付けてくださった某大学の資料
受傷時の眼底(網膜震盪)、受傷時のFAG(色素上皮の障害)
OCT:受傷時の黄斑円孔、最近のOCT:萎縮した黄斑部
図2
●黄斑円孔を伴う重症網膜振盪 (Br J Ophthalmol. 2002の類似症例)
右眼にフットボールによる鈍的外傷を受けた15歳の少年
初診時、矯正視力は右眼が指数弁。後部硝子体剥離なく、黄斑円孔を伴う広範な網膜振盪。
カラー写真とOCT画像。OCTは黄斑円孔を示し、視細胞外節と網膜色素上皮(RPE)の大規模な断裂を示す
図3
●受傷1カ月後の黄斑に、広範な網膜色素上皮の断裂、著しい網膜上膜形成があり、黄斑円孔は自然閉鎖。 OCT画像は、網膜振盪の解消、黄斑円孔の自然閉鎖、そして視細胞と網膜色素上皮の反射の乱れを示す

●網膜振盪に伴う黄斑円孔の発生機序 (先の論文の考案)
硝子体や強膜に対し網膜の機械的変形が視細胞外節に強い変形を作る。それが黄斑に全層性円孔を形成する原因。
網膜は、中心小窩と視細胞外節レベルでは、ミューラー細胞の支持が最も弱い。
重症の網膜振盪では視細胞と色素上皮の障害が強いので、外傷性黄斑円孔の自然閉鎖に手術が利益を与えるとは思われない。
最終的な視力の予後は初期の視細胞傷害の程度、色素上皮の委縮や色素沈着によって制限される。
OCT画像は、眼外傷に伴う網膜外層の破壊の評価において有効な情報を与えてくれる。

●症例3 開瞼障害を訴えるFahr病の患者 (眼瞼痙攣)
●現病歴 35歳男性

主訴:開瞼困難、歩行時のふらつき

既往歴:1990年突発性難聴、副甲状腺機能低下症
       2004年から両側眼瞼痙攣
開瞼困難だがリラックスすると開瞼可能、片眼をテープ挙上で両眼開瞼可。
常動症、軽度位置覚低下、副甲状腺ホルモン
  69(90-270)と低値

図4●ファール病の大脳基底核石灰化(別の症例です)
●孤発例です

●画像診断、鑑別診断
MRI:両側基底核、視床、橋中心部、両側歯状核にT1WI低信号領域あり。脳室脳溝拡大。

表面筋電図:開瞼時も右眼輪筋の収縮持続。
開瞼動作に伴い前頭筋の収縮。

鑑別診断:ミトコンドリア脳筋症、Fabry病、
  Wilson病、Prion 病などが医科歯科大学神経
  内科で除外されている。

●眼科病歴(2011.6.2)
眼瞼痙攣自己診断(若倉)9/10

軽瞬3/3、速瞬3/3、強瞬3/3 (まれに見る高値)

うつ病自己評価尺度 13(正常)

常用薬:パキシル、アーテン、リボトリール、ネオドパストン、ワンアルファ、シンメトレル、メリスロン。

治療:ボトックス治療施行。経過良好。

クラッチ眼鏡も併用し患者はボトックス治療を喜んでいる。

基底核の活動を見る目的でFDG-PETを依頼

●瞬目の制御機構
●Fahr病、眼瞼痙攣、小脳失調、認知機能障害
両)小脳、前頭葉、側頭葉、視床、線条体で 
中等度ないし高度な糖代謝低下。

MRIで信号異常があり、石灰化が疑われる
領域の糖代謝は特に高度に低下しており、
石灰化領域で神経細胞脱落が生じている
ことが示唆される。

眼瞼痙攣については基底核病変との関連
が疑われるが、広範な器質障害があり、
この1例におけるFDG-PETの画像所見と
眼瞼痙攣の症状を関連づけることは困難。
●ファール病とは
多くはカルシウム代謝に異常を認めず、病態、原因は不明。

無症状なものからパーキンソン症状など錐体外路症状、
小脳症状、認知症状をきたすなど症状は幅広い。

本疾患は若年発症例もあり、進行性。また偶発的に頭部CT所見から見つかることもある。合併症は錐体外路症状、
小脳症状による転倒、骨折がある。

眼症状として眼瞼痙攣を合併する症例も数例が報告されている。
ファール病は治癒させることはできず、標準的な治療法もない。個々の症状に応じた治療が行われ、ハロペリドール(haloperidol)やリチウム(lithium carbonate)が精神症状の改善を目的に使われる。

●症例4 最後に眼振の子供が登場 (家族性滲出性硝子体網膜症)
3歳男児:2011年1月(2歳)から左眼の内斜に気がついた。左右の動きは可能。

2011年6月:左眼の上斜。照明が暗いと物にぶつかることが多い。

2011年7月19日:椅子座位にてテーブル上の文字を注視させていたら両眼に水平眼振。

7月22日:医院通信眼振の項目を見て金曜日午後5時
  当院に来院。
●先天眼振の特徴は
1、 両眼性の眼振である。 2、 眼振の動きは左右でほぼ同じである 3、 水平性の揺れが多い 4、 顔の回転、斜頚などの頭位異常や首振などの異常運動を伴うことが多い 5、 後天性のものと違って、動揺視の自覚がない 6、 遠視や乱視などの屈折異常を合併するものが多い 7、 固視努力で増大することが多い 8、 輻輳や閉瞼で抑制されることが知られている。 9、 斜め前方に眼振の緩む静止位が見られる。 10、 側方視時に増強するアレクサンダーの法則という特徴を持つ

●診療の実際
内斜。ストリークレチノスコープは右だけ網膜の反射有り。
  左向きの眼振。単なる先天眼振ではない。

まず散瞳して眼底を見よう。
“先生、これは両眼の剥離です“。未熟児でもなく、
これはFEVRか?金曜午後6時過ぎ。どうするか順番に考えよう。
 (月曜)朝9時に来院させ、国立成育医療研究センターに電話。
  翌日診療の約束をいただくことができた。
  (火曜)即日入院。右眼のみ硝子体手術。翌月再来院。

●家族性滲出性硝子体網膜症とは FEVR
FEVRは未熟児網膜症と似た病変が、水晶体後部線維症と同様の形で、両眼性にゆっくり進行する疾患。

発生は未熟児でない子供に見られる。遺伝の様式はX染色体にリンク、または常染色体リンクした優性の遺伝。

黄斑部の異常な成長や、網膜の下に見られる滲出物、網膜の剥離、網膜の変性、網膜の出血、網膜の不自然な皺。小眼球や眼球ろうを示すこともある。

網膜中への滲出物、硝子体出血、弱視、鎌状の網膜剥離などが起こることもある。

全身的には、合併する奇形や発達障害などはない。

●家族性滲出性硝子体網膜症は確率的に何%で失明してしまうか?
FEVRの兆候と合併症 
   (van Nouhuys CE. Am J Ophthalmol 1991)

16家系106人のFEVR患者。
  合併症は後部網膜の襞状の変形、硝子体出血、網膜剥離。

網膜血管新生11%、網膜浸出物が9%、網膜剥離が21%、鎌状の網膜ひだ8%。

網膜剥離手術は14眼で7例のみ復位。

今の成功率はこれよりは良いだろうが、網膜剥離に至るのが約20%で、網膜復位率が50%というのがおおよその アウトラインか?

図5
●4つの遺伝子が網膜血管形成を促進
産業医大の近藤寛之先生は、この病気を説明する図を提示。(第64回日本臨床眼科学会) 4つの遺伝子FZD4、LRPS、NCP、TSPAN12がWitシグナル伝達系を活性化し網膜血管の形成を促進。 4つの遺伝子のどれに異常が生じてもFEVRが発症する。

図6
●開業医からのメッセージ
すべてを予め知っている必要はないのです。「“いま眼の前にいる患者さん“のために良きように。」と言うのが藤野貞先生の遺言です。解らねばちょっと調べましょう。きっと患者さんの役に立つ知識が見つかるでしょう。
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