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2011年7月6日

2411 眼疾患としてのベーチェット病の診断と治療指針のおさらい

眼疾患としてのベーチェット病の診断と治療指針をおさらいしてみよう。私は、眼科専門医であり、神経眼科を専門とする者ですが、ベーチェット病の研究者ではないのでその点をお含みの上、お読みください。

この疾患を疑われた患者さんやそのご家族を対象に医療従事者向けの説明をかみ砕いて説明するのを目的としたものですから、そのまま引用したりすると間違いが含まれる恐れがありますのでご注意ください。

ベーチェット病(べーちぇっとびょう)

■概念と定義
ベーチェット病は、1937年トルコのベーチェットによって提唱された疾患で、多くの臓器を冒す難治性の病気です。口腔粘膜のアフタ性潰瘍、皮膚症状、眼のぶどう膜炎、外陰部潰瘍を主症状とし、急性で炎症性の発作を繰り返すことを特徴としています。

地域的な分布を見ると、世界的その疾患の分布はシルクロードに沿った帯状の地域に偏っていて、日本では北に多く、南に少ない分布を示しています。

本症では失明率が高いことや、20歳代後半から40歳代にかけての働き盛りの年齢に発病が多いこと、腸管型や血管型、そして神経型などの特殊型ベーチェット病による死亡例が少なからずみられたことから、医学的のみならず、社会的にも注目を集めました。

■患者数やその頻度など(これを疫学と言います)
患者数は、1972年には8,000人、1984年には12,700人、1991年には18,300人と増加しましたが、その後は長らく減少が続いていました。しかし、ここ数年は再び増加傾向にあり、平成20年3月末日現在の特定疾患医療受給者数は17,346人ということです。

かつてはどの施設でもブドウ膜炎の原因疾患として第一位でしたが、現在その頻度は減少して、サルコイドーシスと、原田氏病に次ぐものとなっています。

そのほか、1)発病平均年齢の上昇、2)完全型の減少(29%)と不全型の増加(55.4%)、3)軽症型の女性患者の増加が最近の疫学的な特徴であるということです。

■病気の原因
未だにこの疾患の病因は不明ですが、病態形成の機序が明らかになりつつあります。

ベーチェット病では組織適合型抗原の型別の一種であるHLA-B51の陽性率が高く、発病には HLAーB51そのもの、あるいはこれに連鎖する素因の役割が重視されています。

日本人の中のHLA-B51を保有する人では、ベーチェット病に罹患する相対危険率は7.9倍ときわめて高いのです。HLAーB51以外にも、HLA-A26やMICAなどいくつかの遺伝子のバリエーションとこの疾患発病の関連が報告されています。

こうした患者さんが生まれつき持っていた遺伝素因に加えて、病原微生物への感染をはじめとした外からの要因が関わって、自己免疫の異常や好中球(白血球)機能の過剰をはじめとした自然免疫系が異常を引き起こして、ベーチェット病の発症にいたると考えられています。

特に、これまで注目されてきたのは細菌微生物です。中でも口腔内に普通に存在するStreptococcus sanguinisの役割が研究されてきました。その研究の過程で、細菌が作る65kd(キロダルトンは分子の大きさの単位です。それほど大きな分子ではありません)熱ショック蛋白(heat shock protein;HSP、細胞に熱のショックをかけると或る場合に作られる特別なたんぱく質の生成物のことです)と交差反応性(免疫学的に似ていてどちらにも反応をするということ)を示す宿主由来HSP(患者の体の中に元からあった熱ショック蛋白)が自己抗原(自分の体の中に有った物質で炎症の原因となるもの)となって、自己免疫応答(自分の体に対する謝った免疫反応による炎症)を引き起こして、抗原特異的Th1型リンパ球の働きによって炎症病態が発生するという仮説が示されました。

さらに最近、痛風や家族性地中海熱に代表される自己炎症性疾患との臨床的類似性から、病原微生物などがリンパ球の関与なしに、直接的に好中球やマクロファージ(大きくて呑食作用のある白血球の一種)などの自然免疫系を刺激する自己炎症のメカニズムがベーチェット病の病態形成には、より重要ではないかとする考えも提唱されています。

また自己免疫的な側面についても新しい(T型リンパ球の)サブセットであるTh17型細胞の役割などが検討されています。

■症状
(1)主症状

Aphtha2-274x300
ア 口腔粘膜の再発生アフタ性潰瘍
境界鮮明な浅い有痛性潰瘍で、口唇粘膜、頬粘膜、舌、さらに歯肉などの口腔粘膜に出現する。その頻度は95%以上である。

イ 皮膚症状
behcet3(図:日本眼科学会)ベーチェット病の皮膚症状としては、下腿に好発する結節性紅斑、皮下の血栓性静脈炎、顔面、頚部、背部などにみられる毛嚢炎様皮疹又は座瘡様皮疹などが挙げられる。

また皮膚の被刺激性亢進を反映する所見として針反応が認められ、剃刀まけなどが生じやすく、採血などの静脈穿刺により皮下の血栓性静脈炎が誘発されることもあります。

ウ 眼症状
M1550366-Pus_hypopyon_seen_in_Behcet_s_patient_s_eye-SPLぶどう膜炎が主体で、両眼が侵されることが多い。炎症が前眼部のみに起こる虹彩毛様体炎型のものと、後眼部におよぶ網膜ぶどう膜炎型 (眼底型)とに大別される。

症状は発作性に生じて、結膜充血、眼痛、視力低下、視野障害などをきたす。再発性前房蓄膿性虹彩炎(図)は、ベーチェット病に特徴的な所見であるが、必ずしも特異的なものではない。

Behcet_s_syndrome(http://canadianuveitissociety.com/diseases)
網膜ぶどう膜炎は視力予後に直接関わり、治療の面で重要である。特に若年発症の男性と、HLA-B51の陽性者では重篤化 しやすいとされている。

エ 外陰部潰瘍
有痛性の境界鮮明なアフタ性潰瘍で、男性では陰嚢、陰茎、女性では大小陰唇に好発する。外観は口腔アフタ性潰瘍に類似するが、口腔粘膜症状ほどの反復はなく、瘢痕を残すこともある。女性の場合は性周期に一致して増悪することがある。

(2)副症状
副症状の出現頻度は関節炎以外は多くないものの、特に腸管型、血管型、神経型ベーチェット病は生命に脅威をもたらしうる警戒すべきものであり、特殊病型に分類されている。

ア 関節炎
四肢(手足)の大関節に認められることが多く、腫脹、疼痛、発赤が出現する。関節リウマチのように手指の小関節をおかす病変は稀で、変形や硬直を認めることもない。

イ 副睾丸炎
一過性、再発性の睾丸部の腫脹、圧痛がある。出現頻度は6%程度で高くないが、ベーチェット病に特異性の高い症状である。

ウ 消化器病変
腹痛、下血、下痢などが主な症状である。病変の好発部位は回盲部末端(小腸の終わりの部分で大腸に移行するあたり)から盲腸(大腸の始めの部分でそこに虫垂突起が付いている)にかけてであり、打ち抜き型の潰瘍性病変を特徴とし、多発することが多い。このほか食道から直腸にいたるまでどこにでも病変が生じうる。鑑別診断としてクローン病などの炎症性腸疾患が特に問題となる。腸管穿孔、腸管出血など緊急の外科的対応を要することもある。

エ 血管病変
病変は静脈系および動脈系のいずれにも生じる。静脈病変のうち、頻度の高い表在性血栓性静脈炎は皮膚症状に含まれるため、静脈病変として取り上げられるのは深部静脈血栓である。症状としては血栓による還流障害が主体で、上大静脈症候群やBudd-Chiari症候群をきたすこともある。動脈病変としては大動脈はじめ中型から大型の動脈に血栓性閉塞や動脈瘤を形成する。また、肺循環系にも病変は出現し、肺動脈瘤は致命的な喀血の原因となりうる。

オ 中枢神経病変
behcet-fig1(http://www.ispub.com/)
ベーチェット病の症状の中で最も遅発性で男性に多い。大きく髄膜炎、脳幹脳炎としておきる急性型と、片麻痺や、小脳症状、それに錐体路症状などの神経症状に認知症などの精神症状をきたす慢性進行型とに大別される。また、急性型で発症し、慢性型へ移行する場合もある。MRIでは脳幹部、大脳皮質などに病変を認め、髄液所見(腰椎穿刺で調べる)では細胞増多、蛋白増加を認める。

一般に神経症状は遅発性(最初に現れる症状ではなく追加で表れること)とされてきたが、最近増加しているシクロスポリン治療に伴う急性型は、比較的 発症早期にも出現する。慢性進行型は治療反応性に乏しく、若年で認知症や性格変化をきたし、社会的に問題になることもある。なお、日本では静脈洞血栓症に よる神経病変は少ない。

■治療
(1)生活指導
全身の休養と保温。バランスのとれた食事内容。ストレスの軽減。口腔内の衛生、齲歯、歯肉炎の治療も重要である。また、神経症状と喫煙の関連も指摘されている。

(2)薬物治療
治療の対象になる病態の重症度及び後遺症を残す可能性の有無により治療の優先順位を決め、治療法を選択する。

(1)眼症状:虹彩毛様体(目の茶目の部分およびその陰に有ってレンズの緊張を調節する筋肉)など前眼部に病変がとどまる場合は、発作時に副腎皮質ステロイド点眼薬(リンデロンなど)と虹彩癒着防止のため散瞳薬(アトロピンやミドリンP)を用 いる。視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、急性眼底発作時にステロイドのテノン嚢下注射(デカドロンやケナコルトの注射のことで白目の部分から眼球の外に置く注射)あるいは全身投与(デカドロンなどを経口投与することが多いだろう)で対処するのに加え、積極的な発作予防が必要 で、コルヒチン0.5-1.5mgが第一選択薬である。

難治例にはシクロスポリン 5mg/kg程度より開始し、トラフ値(血液内の濃度が安定した状態での薬剤濃度のこと)は150ng/mlを目安に調整する。

インフルキシマブ2007年1月、世界に先駆けてわが国で、インフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子 抗体、これは遺伝子工学を用いて作られる最新の薬剤で、この場合は静脈注射で使うらしい。商品名レミケード)が難治性眼病変に対して保険適用となった。

投与スケジュールは関節リウマチに、投与量はクローン病に準じ、0, 2, 6週に 5mg/kg投与し、以後8週間隔とするのが一般的である。

諸外国ではアザチオプリンが繁用されているが、わが国では上記薬剤の副作用出現時など用途は限られている。
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