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2011年5月14日

2259 外眼筋プーリーの眼窩手術における意味

眼球を動かす筋肉は左右それぞれの眼球に6本づつ付いて居て、その収縮と進展で眼球の上下内外の4方向への動きと眼球の軸を中心とした時計回りと反時計回りの回旋運動を行っています。

この運動に不揃いが生じると、左右の眼球の向きは平行に動くことが出来なくなって、眼軸にずれを生じてしまい、患者さんは複視を訴えることになります。この眼球を動かす筋肉は、洋服の袖のような筒状の組織に包まれています。その筒の中で筋は長軸方向に伸展や収縮をするので、殆どその伸縮には摩擦抵抗がありません。

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この袖状の構造物のことを眼窩(眼球を入れている骨の窪み)の研究者はプーリー(滑車)と呼んでいます。

この袖の形をした筒状構造物は眼窩を取り囲む骨などのしっかりとした構造物に多数の糸状の繊維でつりさげられているので、筋肉の両端をまっすぐに結ぶ直線の上での収縮ではなくて、湾曲した走行を保ったままに収縮と伸展を繰り返しています。

眼窩内で眼筋の移植を行って斜視を修復するような手術をしようという場合に、このプーリーを傷つけない様な注意が十分に払われないと、眼筋は眼球や周りの組織に癒着してしまって、思う様な動きが出来なくなり、複視を生ずるようになってしまいます。

この鞘のような構造物を見つけてプーリーと名付けたのがカリフォルニア州にあるスミスケトルウェル眼研究所のデマー博士です。

この筒状の組織プーリーの大切さを記載したデマー博士らの論文の概要を今日は紹介いたしましょう。

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外眼筋手術に対するプーリーの大切さ

著者: Demer JL, Miller JMら
小児眼科と斜視誌 33:208-218、1996

抄録:
目的: MRIは目の周りに有る直筋が眼窩内で大きな眼球の回転運動をするときでも、湾曲したままであることを見せてくれます。そして、手術をして眼筋を大きく動かした後でもそれは変わりません。この、筋肉の経路の安定性は筋がプーリーの中を走っているから起きているのです。 このプーリーは眼窩の中を走行していて、眼窩内の前額断面内で眼球赤道部あたりでの筋腹の位置は一定です。死体の解剖によれば、プーリーは繊維性でやわらかい袖状のもので、密度の高いコラーゲンとエラスチンの帯で出来ていて、眼窩内と近接する外眼筋の袖に同様の構成物でできた糸で懸架されています。組織学的な分析によると、筋はプーリーとテノン膜の後ろの部分にあることが解ります。プーリーには外眼筋の伸展収縮の方向を決める作用があります。この研究では、このプーリーの理論的な眼球を取り囲む直筋の手術に於ける働きを決定する意味があることを示します。

方法: 機能的および解剖的な意味に於ける外眼筋のプーリーが持つ意味合いを解説します。二人の外直筋麻痺の患者で、垂直筋の位置を変える手術の前後でのヘスチャートでの両眼視のデータを収集しました。同時に各直筋の経路を高解像度MRIで精密に測定しました。

眼窩での外眼筋の生体シミュレーションプログラムがプーリーの存在しない状況下での両眼の動きの状況と筋肉の位置を推定するのに用いられました。

結果: プーリーは、実際に観察された外眼筋の筋の位置を実現させるためには必要なものであることが分かりました。

プーリーが無いとすれば、上及び下直筋の外直筋の終止部分への縫着は臨床的には存在しえない奇妙なものになるはずです。

結論: 人の眼窩は筋肉と結合組織でできた特別な組織をテノン組織の部分とその後方で持っています。この組織はプーリーとして作用していて、このプーリーは概ね外眼筋の赤道部よりもすぐ後ろのあたりに存在しています。障害されていないプーリーの機能は効果的な外眼筋の移動手術の結果を得るためにはぜひ必要なものです。
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清澤のコメント:
デマー博士は私より少し年長で、この研究所の小児眼科の教授です。私が初めて1986年のアメリカ眼科学会でアルツハイマー病の神経眼科症状の口演発表をしたときには、彼が指名討論者として追加をしてくださったので、以後尊敬する先人と言った関係に有ります。

デマー先生は、それまで眼球を動かす外眼筋がそれ自身が独立に起始部と付着部を直線的に引き寄せると考えられてきたのを否定して、実際にはそうではなくて眼窩の中に糸状の多数の繊維で固定されたプーリーがその走行を指定し、湾曲した筋肉の走行にそって眼球を引っ張っていることを明らかにしました。

この発見は、眼球の周囲や瞼にできた腫瘍を切除する場合には、外眼筋を傷つけなくてもその繊維性の皮をむいてしまうと周りの脂肪などに癒着してしまって、自由な動きが障害されてしまうので、あまり深追いはしないでくれないか?ということを示したという意味があります。(尤も、悪性腫瘍を取り残しては切除の意味もないのですけれど。)

網膜剥離の手術などでも、昔は4つの直筋をしっかり剥き出してから手術を進めていましたが、最近はなるべく筋肉の皮を剥かないで手術を進めるようになってきていて、その結果網膜剥離の術後の眼球運動異常も減ってきているのではないかと思います。

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