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2009年10月15日

1085 複視の対策 (脳卒中の最前線から抜粋) 江本博文 清澤源弘

複視の対策 (脳卒中の最前線から抜粋) 江本博文 清澤源弘

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脳卒中による眼球運動障害には,共同偏視や,動眼神経麻痺・滑車神経麻痺・外転神経麻痺に伴う眼球運動障害,核間麻痺,核上性障害による斜偏位,眼振,眼球失調症などがある.脳卒中後遺症としての眼位ずれは,約30%~50%に見られ,非症候性の眼位ずれは約30%に認めるとの報告もある.

自然経過はまちまちで,一時的にプリズムを使用したり,単眼遮閉を行ったり,代償的に頭位変換する方法を教えたりすることで,改善できる場合がある.

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また,脳卒中による眼球運動障害では,衝動性眼球運動障害(速度:300-700°/秒),滑動性追従眼球運動障害(速度:20-50°/秒),輻輳不全などを合併することがあり,注意を要する.衝動性眼球運動は,物体を視野に捕らえる時に行う速い眼球運動で,これが障害されると読字が困難となる.

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滑動性追従眼球運動は,動いている物体を追跡する際の,緩やかで滑らかな眼球運動で,これが障害されると,追視が困難となる.輻輳不全では,近くを見る時に,両眼を十分に寄せることができず,近見時の複視を生じる.

複視は,物が2つに見えることをいい,単眼複視と両眼複視の区別がある.単眼複視は片眼で見た時に2つに見えることをいい,乱視,白内障などで起こる.両眼複視は,片眼ずつでは1つに見えるのに,両眼でみるとダブる現象で左右の視線が一致しない場合,すなわち眼筋麻痺で起こる.従って,脳卒中の後遺症を論ずるこの項では,両眼複視のみを取り扱う.

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症状

眼筋麻痺による複視では,視線の方向(眼位)によってずれの大きさが異なる.患者が,「ものが二重に見える」,と訴えれば診断は容易であるが,右を見ると見にくいとか,階段を降りるときに足元が見にくいという症状では,視力低下のことと誤解することがある.

また,ものが動いて見える,ゆらゆらする,視力は落ちていないが,ぼやけるなど,不定愁訴ともとれる訴えをすると,それが複視のことであると推理し,理解するのは容易ではない.複視があると,立体視ができないため,段差や側溝が分かりにくく,用心して歩くための歩行困難も伴う.
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視力は相当低下しても行動の不自由があまり感じられないものだが,複視の患者では,視力が十分であるのにどうして段差が見えないのかと他人に誤解されていることがある.

複視では馴れの要素が大きく,初発症状で強く複視を訴えた患者が,1週間後には良くなってきたということが多いが,複像検査をするとほとんど改善していないことがある.
頭位や眼の動かし方を自然に工夫したり,麻痺眼の像を無意識に念頭から外す(抑制)ことを学習した結果であろう.経過を観察するには複視の客観的な定量検査が必要である.

このためには,簡単なものでは赤緑ガラスを用いたランタンテストがあり,また,やや複雑なものにはヘステストがある.この記録を眼科でとることは,経過の評価に有効である.

一般的に,複視を訴える患者の約1/3が脳血管障害,循環障害であるとされている.脳卒中に起因する複視は動眼神経,滑車神経,外転神経の麻痺によるものが多い.

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表1.眼筋の神経支配と作用

各神経と支配筋
動眼神経 上直筋 内直筋 下直筋 下斜筋(その他,上眼瞼挙筋,瞳孔括約筋,毛様体筋)
滑車神経 上斜筋
外転神経 外直筋

第一眼位,つまり正面視における各眼筋の作用方向
内直筋 内転(水平方向のみ)
外直筋 外転(水平方向のみ)
上直筋 上転 内転 内方回旋
下直筋 下転 内転 外方回旋
上斜筋 下転 外転 内方回旋
下斜筋 上転 外転 外方回旋

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検査

両眼複視であることを確認した上で,

1. 最大のずれを生じる方向(右,下,左斜め上などの9方向)と最小のずれを示す方向の検出,

2. head tilt(頭位傾斜,斜頚)や像の回旋の有無をみる.
ずれを定量するには,ヘス赤緑テスト,シノプトフォアなどの方法があるが,機器が必要なので,これは眼科に依頼する.回旋をみるにはペンライトではなく線状の光源を用いるとよい.
ずれが最大になる眼位での作用筋が麻痺筋である.患者に検者の指先または視標を注視させ,垂直,水平,斜めの9方向追従させ,動きの角度や,速度の左右差をみる.眼瞼下垂,瞳孔異常の有無も確認する.片眼のみの運動状態を検査しておくことも必要である.

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治療 

一般的にはビタミン剤,ステロイド,循環改善剤の投与が行われる.脳卒中による複視に本当にこれらの薬物が有効かは疑問の点もある.しかし,眼筋麻痺では約3カ月程度で半数以上が正面視での複視は消失するといわれるので,早期の手術は禁忌である.

約6カ月を経過しても改善されない場合には手術も考慮する.手術によって,すべての眼位で複視を消失させることは不可能であるので,正面視で,または,正面やや下方で複視を消失させることを目的とする.

また,手術では,術後かえって複視が気になることがある.複像の幅が小さくなったために真像と仮像との区別がつきにくくなるためで,これに対しては,術前のインフォームドコンセントが重要である.

水平方向のみの複視では外直筋,内直筋のみの移動で済むので,手術の決定は比較的簡単であるが,垂直方向,回旋の加わった複視に対しては斜筋手術や,眼筋の移動術も必要になる.

眼筋手術で複視消失率77%という報告もあり,患者を斜視手術専門家に紹介し,積極的に複視の解消をはかることも可能である.手術を希望しない患者には,

1.正面視で10プリズム以下なら,プリズム眼鏡で視線を矯正する.
10プリズムの眼鏡は,レンズがかなり重いので,これ以上の眼鏡は製作できない.それ以上の付加には,フレネル膜プリズムで薄く軽くすることができるが,見かけの問題や,汚れにより視力も低下するので普及していない.

2.麻痺眼に眼帯をかけるとか,眼鏡レンズ全体に紙を貼って健常眼だけでみると,安定した見え方が得られるが,美容上や閉塞感があるなど,問題も多い.視力が0.6となる程度に,ごくわずかに不透明なビニール製オクルーダーを貼りつけるとよい.視界がある程度確保でき,複視感が少なくてすむ.

麻痺眼の複視の出る範囲にのみ貼ってもよい.いずれの方法でも麻痺筋の方向を向くと,複視を生じるので,運転などでの使用をすすめるには注意が必要である.
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文献
1) 岩崎嘉秀・他:複視の治療と予後.日眼会誌,97:845-850,1995
2) Fowler MS, Wade DT, Richardson AJ et al. Squints and diplopia seen after brain damage. J Neurol 243:86-90,1996
3) Clisby C. Visual assessment of patients with cerebrovascular accident on the elderly care wards. Br Orthopt J 52:38-40,1995
4) Macintosh C. Stroke re-visited: visual problems following stroke and their effect on rehabilitation. Br Orthopt J 60:10-14,2003
5) Kenneth W Wright. Color Atlas of Strabismus Surgery. Springer, 2007
6) 渡邉郁緒訳 神経眼科レビューマニュアル 第2版,メディカルブックサービス,1989

脳卒中最前線2-1

嚢卒中最前線2-2

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