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2008年10月1日

680 網膜前出血 preretinal hemorrhage, 硝子体下出血 subhyaloid hemorrhage

無膜前出血(沈殿前)図出典
 (管理頁

”今朝から左目の中央にピンクの影が出て急に見えなくなった。その色は赤くなったり黒くなったりして尋常ではない。明日は水曜でお休みと聞いたから、あわててやって来ました。”と毎月白内障の目薬を出している奥さんが午後から雨の中をやって来て下さいました。

”あれ、今月の診療は月初めにすんでいるし、次回の予約は来週だったのだけれどどうかしましたか?”というわけです。

今月始めには1.0だった左目の視力が、今朝は矯正で0.07。指を数える対座法でも視野は左目の中心暗点です。細隙灯でみても前眼部は異常なし。黄斑円孔でも出来たか?、視神経炎か?などと原因を考えます。

こんなときに便利なのが無散瞳眼底カメラです。眼底を本当に詳しく見るには瞳孔を開くミドリンという散瞳剤を点眼してみるのですが、全例をそれから始めるわけには行きません。無散瞳の眼底鏡で眼底をざっと見て、何か有りそうだなと判断したら即時、無散瞳眼底写真の撮影を指示します。職員の視能訓練士もなれたもので2分できれいな写真を見せてくれました。(出典:この図はこの症例と似たものであって、この患者さんのでは有りません)

写真を見ますと眼底の真ん中に赤い出血が薄い円盤を置いたようにくっきりと見えます。前面は赤黒くてかてかと光っていて、硝子体には出血は一部しか溶け出してはいません。

プレレチナ
網膜前出血は普通は暫くするとこの写真のように血漿と血餅が上下に分かれてお椀型に水平面を形成する(ニーボーの形成といいます;出典)ものですが、まだその赤血球の分離沈殿も起きていない、出来立てほやほやの網膜前出血です。出血の下の網膜はどうやらきれいなようです。またカルテに残った数ヶ月前の写真でも加齢黄斑変性は写ってはいません。

さて、今日はこの網膜前出血について御祖母ちゃんにも分る調で説明をしてお見せしましょう。

此処に借りてきた写真は増殖性糖尿病網膜症の網膜下出血Preretinal (硝子体下Subhyaloid) hemorrhagesです。 (⇒写真出典:コロンビア大学)

——————————————————————————-臨床像:
後部硝子体面と網膜の間、ないしは網膜の最表層の内境界膜の下のスペースに出血がおきます。 この部分では局所的に硝子体ゲル(ゼリー状の硝子体)が網膜表面から剥離しています。この硝子体というのは元々眼球の中央の部分を埋めているゼリー状のもの。白内障で濁りを生じ、超音波吸引手術で取る目の中のレンズである水晶体とは別のものです。

網膜前FAG出典
水平な血液が下方に沈殿した水面、ないしはボート型の出血の外形が普通は見えます。そのために出血に覆われる半分の網膜は見えにくくなります。網膜血管造影は出血がその下の網膜が見えないように背景蛍光をブロックした像を示します。(蛍光眼底撮影の読影では、血液でその下の様子が見えなくなることをブロックと呼びます。)

この網膜前出血を起こす原因疾患には次のようなものが含まれています。

1)網膜剥離裂孔:網膜が硝子体に引っ張られて破れ、その上を走る網膜血管が切れればこの出血がおきます。この場合には出血よりも網膜の破れが重要です。

2)網膜新生血管からの出血:加齢黄斑変性や糖尿病で見られる病的な血管が新たに増殖したものは僅かな外力で容易に破綻して眼内に出血を起こします。

3)網膜の内境界膜の破綻:網膜の最内層は網膜神経線維層とされていますが、実はその内側に極薄い膜があって、これは網膜内の柱構造をなすミューラー細胞という一群の細胞の基底膜を兼ねています。硝子体出血を眼内で掃除する手術(硝子体切除術;下の図)ではこの膜まで丁寧に剥ぎ取る必要が有る場合も有ります。具体的にはどのような場合にこの膜だけが裂けることを想定するのか分りませんが、まあ近傍の血管を巻き込んでこの膜が破れて網膜前出血を起こす事も有るでしょう。

脳動脈瘤の造影写真
4)高血圧性網膜症:動脈硬化よりも、網膜動脈の血圧が高いタイプの高血圧性網膜症では網膜への染み出し出血が見られます。これがひどくなると網膜前出血が起きるでしょう。また、脳の動脈瘤が破裂して起きるクモ膜下出血では、急激な脳圧の亢進が眼球にも影響して強い硝子体出血を起こす事が有ります。これをテルソン症候群terson’s syndromeと呼びますが、この眼内の出血が或る程度軽いと、網膜前出血に留まる事も有りますし、また濃い硝子体出血を硝子体手術で取り去るとその下に硝子体出血の原因となった網膜前出血が視神経周囲の網膜の内境界膜の下に残存しているのが見えることも有ります。(雑談:私も20年前に東北大学で硝子体切除手術を行っていたころには、当時の玉井教授の網膜硝子体と私の神経眼科の接点で、このテルソン症候群の硝子体出血手術をテーマとした論文をまとめた事が有ります。上の記載はそのときの私の考察です。)

5)後部硝子体剥離:おそらくそれまでに何も異常が無かった目に網膜前出血が起きたら、硝子体の老人性変化である後部硝子体剥離が網膜前出血の原因であることがもっとも多いかと思います。そして

6)網膜の血管閉塞(網膜の静脈閉塞ないし動脈と静脈の同時閉塞ではまず網膜出血がおきます。それがそのまま硝子体にまで広がるほどの出血量になる事は少なく、むしろ最初のイベントから6-24月後に、新生血管を伴ってそこからの出血が硝子体に広がる事が多いと思われます。

などのような疾患が隠れている事が有ります。

さて、こうしておきた網膜前出血ですが、その治療はどうしたら良いのでしょうか?
まずは吸収を待つという手が有ります。そのまま小さくなる事も硝子体に一旦広がってから1月程度で吸収することも有ります。

硝子体に広げると吸収が促進されるという理由で、硝子体と出血の間の膜をアルゴンレーザー光線で切り開くという話も有ります。

硝子体切除
しかし、待つうちに出血が溶けて硝子体全体の混濁となり、吸収するのを更に数ヶ月待つというのでは待ちきれぬとか、あるいは網膜に起きている変化への光凝固や裂孔閉鎖などの直接的処置を急ぎたいなどの理由で、硝子体切除手術をお進めする場合も有ると思います。

その対応は症例によって様々であろうかと思いますので、担当の眼科医に直接ご相談いただくのが良いでしょう。私は、保存的治療では追いつかない可能性を考えた場合には、(私自身は網膜硝子体手術からはもう完全に手を引いていますので)、出血が強い場合には東京医科歯科大学の網膜硝子体グループの先生などに相談するようにしています。

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今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

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