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2008年9月5日

657 近くのものが二重に見える (輻輳痙攣、近見反応痙攣)

近くのものが二重に見える

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はじめに:
近方のものを見ようとすると急に物が重複して見えてしまい、はっきりと見ることができないという症状を訴える患者が存在する。そのような患者の中には、近見時に強い内斜視を生じる、いわゆる輻輳痙攣を示している症例がある。そのような例を取り上げて論じてみる。

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症例:
リハビリ科の医師からの紹介状を持って、“近くの物を見ようとすると急に物ががだぶって見えてしまいまともに見ることができない“という主訴の60歳男性が受診した。紹介状の病歴と診断画像では、発症後1年たった小脳出血であった。各眼の矯正視力は0.8であった。視力測定がすんで車いすで診察室に入ってきたときの視線はほぼ正位であったが、診察を始めようとしたところ、急に内斜視が強まり、その角度も20度を超えて大きく一定しないので定量は困難であった。診察用の椅子に座っている体勢も急に不安定になり、座っているのがやっとであった。助手に支えさせて細隙灯検査を行い、無散瞳で眼底検査を施行したが、瞳孔は縮瞳していた。眼底にも対座法での視野にも異常はなかった。検査がその辺まで進む頃には、内斜視の発作もおさまってきて会話が可能になった。

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鑑別診断:
眼軸が内方に変異する疾患には多くのものが考えられる。
1) 内斜位:片眼が内方に変位する傾向をもつものである。この症例のような強い複視は訴えない。
2) 内斜視:明らかな眼軸の内方への変異で輻輳型の斜視である。術後などでなければこれも複視は訴えない。
3) 間欠性内斜視:非麻痺性ですべての眼位での変異が等しいものである。遠視のある患者に見られる調節性内斜視と、調節性の内斜視ではないものに分けられる。後者には眼球運動の水平方向に働く筋の付着部異常、腱の異常、神経支配の異常、原因不明のものなどがある。
4) 外転神経麻痺:麻痺性で眼球の外転が冒されたもの。複視は訴えるがこれほどの変動は考えにくい。
5) V型内斜視:上斜筋の作用減弱などによる。
6) A型内斜視:下斜筋の作用減弱などによる。
7) 廃用性内斜視(単眼性の内斜視):片方の目が若年で失明するとその眼が強い内斜を示すようになる。
9) 高いAC/A率を示す場合:調節性輻輳/調節の比率が大きいと近い対象に対してより強い内斜を示す。このような状態は対象が若年者であれば検討が必要であろう。
10) 開散麻痺:遠方視で開散が不足するから複視はむしろ遠見で強い。
11) 輻輳痙攣、輻輳過多。

この症例のように急性に内斜が増強したり変動したりする疾患は限られ、輻輳痙攣は最もこの病態に合致する診断である。

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考察:
輻輳痙攣というのは、開散麻痺に似ているが、両眼の視線の輻輳が本人の意図にかかわらず急に強く起こってしまう病態である。
近方視時以外でも過剰な調節がかかり、調節が弛緩しないので見かけ上の近視を示す。遠視の放置、不適切眼鏡、重症筋無力症、甲状腺疾患などでも眼位を保とうとしてこの病態を示すことがあるとされる。
輻輳痙攣の多くがヒステリーやうつ病などによるものであるとされるが、輻輳痙攣には精神的なものではない器質的脳疾患で生じるものもある。この輻輳痙攣は、視床出血、松果体腫瘍、下垂体腫瘍、脳炎、ウエルニッケ・コルサコフ症候群、脳圧亢進、アーノルド・キアリ奇形など輻輳中枢の存在が想定される脳幹を侵す多くの疾患での報告もある。
輻輳痙攣の症状の発現は発作的なものと持続的なものがあるようだが、輻輳痙攣の症状は動揺するので内斜の角度は容易には決められず、輻輳痙攣はプリズム眼鏡処方などにはそぐわない。輻輳痙攣の発作時には調節痙攣、近視化、縮瞳を伴い、輻輳痙攣がいったん発生するとしばらく輻輳近見状態が持続する。また輻輳痙攣は、頭痛、吐き気、眼痛、視力障害も伴うことがある。輻輳痙攣の治療法としては、アトロピン点眼、単眼遮蔽、二重焦点レンズの眼鏡を試し、アモバルビタールやクロナゼパムなどを試すことも出来るとされている。この症例では現在の他科の薬剤投与状態が分からなかったため、紹介元のリハビリ科にクロナゼパムの最小量の処方を依頼した。
新潟大学の高木はこの疾患を近見反応痙攣と呼んでいる。高木によれば、ある患者を純粋に器質的近見反応異常とするには、他覚的所見と自覚所見が一致し、病巣が近見反応の神経路に実際にかかわっている可能性がある部分であることが必要であって,
その可能性があるのは中脳、上丘、橋、大脳頭頂後頭連合野であると説明している.
彼は、以前の諸報告例の多くが、中枢疾患を持っている症例に機能的心理的な近見反応痙攣が起こったのではないかとみなしている。輻輳痙攣ないし近見反応痙攣という診断が考えられる場合には単に脳疾患があるというだけではなく、それが真に器質的な疾患かそれとも機能的な疾患なのかをよく考える必要がある。
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参考文献:
1)高木峯夫、阿部春樹、坂東武彦:近見反応・動物とヒトでの生理学的解析から、神経眼科21:265-279,2004
2)Kawasaki T, Kiyosawa M, Fujino T, Tokoro T.Slow accommodation release with a cerebellar lesion. Br J Ophthalmol. 1993, 77:678.

清澤源弘、

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若倉先生、山田先生と打倒!不明愁訴、不定愁訴の本の続巻を作っています。
”遠方が二重に見える”ではなくて”近方が二重に見える”の原稿を大至急追加で出してくださいと言われて作った原稿です。以前にこのブログに掲載した記事を元に加筆しています。(⇒リンク:150 輻輳痙攣(輻輳けいれん)、近見反応痙攣(近見反応けいれん)と開散麻痺

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