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2008年7月16日

612 原田病、Vogt-Koyanagi-Harada syndrome、フォークト・小柳・原田症候群

原田病(はらだびょう、Vogt-Koyanagi-Harada syndrome)はフォークト・小柳・原田症候群とも呼ばれる網膜に炎症を示す疾患で、米国ではその頭文字を取ってVKH diseaseやVKH syndromeとよばれています。

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全国疫学調査では、原田病の有病率は10万対1.38、交感性眼炎では10万対0.1であり、罹患率は原田病10万対0.49、交感性眼炎10万対0.02であったとされています。類縁症患である交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術後両眼に発症し、眼症状、眼外症状ともに原田病と酷似していますが、原田病の方が交感性眼炎よりはずっと多い疾患です。

本日私の診療所をその原田病ですでに治療を受けている患者さんがお訪ねくださいました。東京医科歯科大学では、主任教授の望月學先生や講師の杉田先生のご専門の疾患ですからそれほど珍しくは無いのですが、私の診療所で拝見するのは久方ぶりです。

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まずその原田病の概略をお話しましょう。

原田病(Vogt・小柳・原田病)とは:メラニン産生細胞(メラノサイト)に対する自己免疫反応で起きるぶどう膜炎です。

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その眼症状は:始めは視野の中央ないし周辺部にぼやけて見える部分が生じ、これが中央にかかれば視力の低下を訴えます。その眼底所見は、ぶどう膜全体に起きるびまん性の肉芽腫性炎症で嚢胞状の網膜剥離から始まります。

ステロイドを中心とする諸処の治療の後に数ヶ月もたちますと眼底は夕焼け状眼底と呼ばれる赤い色の眼底にかわり、疾患は終息します。場合によっては、虹彩の癒着を残して続発性の緑内障(眼圧上昇)をきたし、その結果で視力を失う事も有ります。

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この疾患は全身的な症状に特徴があって
全身症状には:嘔吐・頭痛・めまい・耳鳴り・難聴・毛髪白変などがあります。これらはいずれもメラニン産生細胞(メラノサイト)を含む髄膜、内耳、毛根などに対する免疫反応と考えれば、一元的なものとしての理解が可能です。

その治療には大量のステロイド点滴治療が行われ、その後ステロイドの量は、漸減(ぜんげん)といって段々に減らしてゆく方法できってゆきます。その減らし方が早すぎると再発しますから、その場合にはもう一度ステロイドを増量してその前の回よりもゆっくりとなるべく再発させないように減らしてゆきます。

 この疾患の起こる原因は長い間不明であるとされていました。しかし最近になって、東京医科歯科大学の杉田講師や望月教授のグループが画期的な発見をしています。

今日はそれを簡単にご紹介しましょう。素人向けに簡略化しますので本気で読む方は元論文に当たってください。(Investigative Ophthalmology and Visual Science. 2006;47:2547-2554.に出ています)

論文は、”フォークト小柳原田病の患者の眼内に浸潤するTリンパ球がメラニン産生細胞の抗原を認識している”というものです。(Ocular Infiltrating CD4+ T Cells from Patients with Vogt-Koyanagi-Harada Disease Recognize Human Melanocyte Antigens)

著者はSunao Sugita,1 Hiroshi Takase,1 Chikako TAGSuchi,2 Yasuhisa Imai,1 Koju Kamoi,1 Tatsushi Kawaguchi,1 Yoshiharu Sugamoto,1 Yuri FuTAGSami,1 Kyogo Itoh,3 and Manabu Mochizuki1

目的:フォークト小柳原田病の患者はメラニン産生細胞のチロシナーゼやgp100を抗原として認識するか?をみる。

方法:患者抹消血から精製した単一クローンT細胞を作る。その標的細胞はLDR4-transfected cellsと呼ばれる細胞である。得たT細胞を各々チロシナーゼ 、gp100および比較対照するペプタイドと混ぜて培養し、サイトカインの産生を測る。 The responding melanocyte peptide-specific VKH-TCCs were characterized by anメラニン産生細胞に反応した物は波かをフローサイトメトリーと免疫蛍光法で調べる。分子の相同性がどこに存在するかをチロシナーゼ、gp100および外因性の諸ビールス抗原などについてデータベースを参照して調べる。

結果:フォークト小柳原田病の患者からの細胞はチロシナーゼgp100のペプチドを認識して、RANTESとIFN-(インターフェロン)を作っていた。T細部は活性のあるTh1-型リンパ球で、メラニン合成に関連するチロシナーゼのペプチドに反応してIFN-を作る。サイトメガロウイルス(Cytomegalovirus)の外表を構成するグリコプロテインHはチロシナーゼと高い分子の類似性を持っている。フォークト小柳原田病の患者から得られた細胞のいくつかの株はチロシナーゼと共にサイトメガロウイルスを認識していた。

結論:フォークト小柳原田病の患者からのT細胞にはチロシナーゼとgp100のペプチドを認識するものがあり、それがこの病気の原因と関係しているのかも知れない。

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 米国にフェローで留学した当時、お仲間のレジデントが視神経の腫れた原田病の患者さんを診て、さも得意そうにこれはVKH だと言ったので、”私はそのK(小柳)の孫弟子だ”と切り替えしたのをおもいだします。

koyanagi(写真:小柳美三教授)仙台でとてもお世話になった桑島治三郎先生は、この小柳美三教授のお弟子さんです。東北大学の教授であった小柳教授はVKHの中でも、前眼部に炎症の強いタイプを始めて発見したことで知られていて、東北大学の医局にはその当時の美しいカラーの眼底描画の付いたドイツ語で記載されたカルテが残っています。後に玉井信教授は日本眼科学会の総会を担当したときに、そのプロシーディングの表紙にこのスケッチをお使いになりました。

 東京医科歯科大学で神経眼科外来を創設され、その後も長い事お世話になった藤野貞先生(故人)は、原田病を始めて発見した原田のことを詳しく調べて、日本眼科学会で発表しています。原田先生は東北大学の小柳教授とは違って、この疾患を東京大学の駆け出しの助手の頃に見つけています。当時の東大教授がこれは大変な病気だと気が付いたらしく、原田先生に自宅にわざわざ電話し、”今日の症例を間違いなく記録して論文にするように”と指示されたという話をなさっていました。その話の落ちは、”どんな若い医師でもしっかりと眼を見開いて診察していれば、歴史に残る仕事が出来るよ”という後輩への励ましでした。 

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最後に閑話休題

清澤の解説:メラニン産生細胞に対する自己免疫現象が原田病や交感性眼炎の原因だろうとは言われていたのですが、今回の論文は一歩踏み込んで、サイトメガロビールスに感染した後、それに対して産生された自己免疫が原田病を起こしているのだろうという事を示唆した仕事であろうと思います。

それにつけて思い出すのは、”原田病の患者の末梢血検査で、その殆どが他に無い頻度で直前のサイトメガロビールス感染の痕跡を残している”という様な事を示した当時北里大学にいた古野先生と若倉先生の学会発表があったことです。(勘違いだったらごめんなさい)原著になっているかどうかは分りませんが。

このような例はフィッシャー症候群が、カンピロバクターの消化器感染に続発して起きろGQ1b抗体によって起こされていることなどにも似た例が有ります。

その原因は長い間不明とされていました。

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