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2008年3月2日

519 眼瞼痙攣の治療,鈴木幸久、清澤眼弘、

519 眼瞼痙攣の治療,鈴木幸久、清澤眼弘、(2015,4,8加筆修正、復旧)
臨床神経眼科学私の担当は”眼瞼痙攣の治療”鈴木幸久、清澤眼弘、すぐに役立つ眼科診療の知識、臨床神経眼科学、pp370-372、柏井聡編集、金原出版、2月20日に発行。眼科医師向けの本ですが神経眼科学臨床に力を入れている柏井先生らしい編集の本です。請求くだされば私の記事のコピーをお送りします。

眼瞼痙攣の記事をお探しの方はhttps://www.kiyosawa.or.jp/archives/50968946.html清澤眼科医院Bシリーズ⇒リンクをごらんください

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眼瞼痙攣の治療

鈴木幸久(東京医科歯科大学大学院視覚応答調節学)、
清澤源弘(清澤眼科医院、東京医科歯科大学大学院視覚応答調節学)

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1. 眼瞼痙攣の病態
眼瞼痙攣(blepharospasm)は、40歳代以上の女性に多く、眼瞼の不随意運動により開閉瞼や瞬目に異常をきたし、重症例では自力での開瞼が不能となる疾患である。眼瞼痙攣は、書痙や痙性斜頚などとともにfocal dystoniaという疾患群に分類されている。原発性眼瞼痙攣を含むジストニアの原因については、まだよく分かっていないが、視床の代謝亢進(Suzuki 2006)や基底核のドーパミンD2受容体結合能の低下(Perlmutter 1997)などが報告されていて、基底核-視床-大脳皮質ループを介したGABA抑制系の異常やドーパミン系の異常であるとの仮説が提唱されている。

8ヒトの開閉瞼は、主に開瞼作用をもつ上眼瞼挙筋と閉瞼作用をもつ眼輪筋の働きによって起こる。正常人においては、開瞼時には上眼瞼挙筋の収縮と眼輪筋の弛緩が起こり、閉瞼時には上眼瞼挙筋の弛緩と眼輪筋の収縮が起こる。しかし、眼瞼痙攣患者の上眼瞼挙筋と眼輪筋の筋電図を測定してみると、開瞼時にも眼輪筋の収縮が記録される。

102. 症状
眼瞼痙攣は、開瞼困難をきたす疾患として頻度が高いと思われる。眼輪筋の不随意な収縮によって起こるので、「眼瞼がピクピクする」が典型的な患者の訴えである。しかし、「まぶしい」、「目を開けていられない」、「違和感がある」、「目が重い」、「見えにくい」などと訴える場合もある。特に、羞明感や眼痛は眼瞼痙攣に高い頻度で合併する自覚症状である(photophobia)。

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典型的な症例では、視診や触診によって眼瞼の波打ちが認められるが、はっきりしない場合も多い。また、重症の眼瞼痙攣では、強く持続的な眼輪筋の収縮のために、ほとんど開瞼することができなくなり機能的失明状態となる。筋電図などを用いずに眼瞼痙攣の重症度を測る方法として、Jankovic分類(Jankovic 1987)がある。Jankovic分類の程度評価は、日常の眼科診療で得られる視診・触診所見と患者本人への問診をもとにして決められる。重症度と頻度のそれぞれについて、0から4の5段階で評価する(表1)。

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3. 鑑別すべき疾患

1) 片側顔面痙攣(hemifacial spasm)
通常片側性の顔面の痙攣であり、一側の顔面神経が支配する表情筋が不随意に痙攣する。眼瞼痙攣と異なり、末梢性の疾患であると考えられている。治療法には、神経血管減圧術やボツリヌス毒素注射などがある。

132) 開瞼失行症(apraxia of lid opening)
自力での開瞼の開始が困難となる疾患で、典型例では指でこじ開けるようにして開瞼する。いったん他動的に開瞼すると、暫らくの間開瞼の持続が可能である。眼瞼の不随意運動はみられず、眼瞼痙攣とは別の疾患であるが、眼瞼痙攣に開瞼失行症を合併することはしばしばある。報告によると、眼瞼痙攣症例の10%は開瞼失行症を合併しており、また、開瞼失行症例の85%は眼瞼痙攣を合併している。特に有効といえる治療法は確立されていないが、上眼瞼挙筋の短縮術は効果がある場合がある。また、ボツリヌス毒素注射は眼瞼痙攣ほど有効ではないが、眼輪筋の筋力を弱めることにより、開瞼困難が緩和される可能性がある。

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3) 乾性角結膜炎、ドライアイ
眼痛や「目を開けていられない」などの自覚症状は、眼瞼痙攣のものと類似する。乾性角膜炎では、涙液分泌量の減少や涙液層破壊時間の短縮がみられる。

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4) 顔面筋ミオキミア、眼瞼ミオキミア
限局性のものは、眼輪筋のみの不随意な収縮であるが、顔面筋へ広がるものもある。疲労、ストレス、カフェインの過剰摂取などが原因となり、休養により軽快する。数週以上継続するものは、他の原因疾患について検索する必要がある。

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4. 治療方法
Jankovic分類で重症度=1、頻度=1程度の場合、他の疾患との鑑別が難しいことも多く、経過観察となる傾向にある。重症度=2、頻度=2以上になると、持続的な眼瞼痙攣の症状を有することになり、治療の適応となることが多い。

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1) ボツリヌス毒素(ボトックス®)注射
現在、存在する眼瞼痙攣の治療法の中で、ボツリヌスA毒素の眼輪筋内への局所注射が最も有効であると考えられる。眼輪筋支配の運動神経をブロックすることにより、眼瞼の不随意運動を末梢性に抑制する。1.25~2.5単位を片眼6部位の眼輪筋内に注射する。効果は通常3~4ヶ月程度持続するが、それ以降は眼瞼痙攣が再発してくるため、効果を持続させるためには、1回/3~4ヶ月の定期的な治療が必要である。
また、ボツリヌス毒素治療によって開瞼困難があまり改善されない、効果不十分例が存在する。その場合の多くは、眼瞼痙攣ではなく開瞼失行症であるか、眼瞼痙攣に開瞼失行症を合併した症例である可能性が考えられる。

2合併症
ボツリヌス毒素治療における合併症の出現率は、10%前後である。頻度の多い合併症は、兎眼(2.5%)、眼瞼下垂(2.5%)であり、流涙増加(1.3%)、眼瞼浮腫(0.7%)、角膜びらん(0.6%)、複視(0.5%)がこれに続く。

a. 兎眼
眼輪筋へ注入するボツリヌス毒素量が多すぎる場合に起こる。3ヶ月を経過してボツリヌス毒素の効果の消退とともに改善するが、次回からの注入量を調整する必要がある。

b. 眼瞼下垂
ボツリヌス毒素を上眼瞼挙筋に注入してしまった場合に発症する。兎眼の場合と同様にボツリヌス毒素の効果の消退とともに改善する。

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2) 内服薬
抗コリン薬:トリヘキシフェニジル(アーテンⓇ)、ベンゾジアゼピン系抗不安薬:クロナゼパム(リボトリールⓇ)、ジアゼパム(セルシンⓇ)、チエノジアゼピン系抗不安薬:エチゾラム(デパスⓇ)などが治療薬として処方されているが、ボツリヌス毒素注射と比べ効果は顕著とはいえない。

a. 抗コリン薬
本来、パーキンソン病治療に用いられ、アセチルコリン受容体を遮断することにより効果を発現する。眼瞼痙攣では、GABA抑制系の異常により眼輪筋過剰収縮が起こっていると推測されるため、アセチルコリンニューロンを遮断することで過剰収縮を抑制することを期待したものである。

b. ベンゾジアゼピン系抗不安薬、チエノジアゼピン系抗不安薬
脳細胞に存在するベンゾジアゼピン受容体に結合し、GABA抑制系を賦活化することによって効果を発現する。チエノジアゼピン系抗不安薬は、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の類似薬である。これらの薬剤は、継続投与により効果が減弱するとの報告がある(White 1982)。また、不眠症や不安症の改善目的でこれらの薬剤を長期投与していた患者において、眼瞼痙攣が発症したとの報告もある(Wakakura 2004)。

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3) 手術療法

a. 前頭筋吊り上げ術
本来、眼瞼下垂に対して施行される手術である。吊り上げ材料を用いて眉毛部の皮下組織と瞼板とを連絡し、眉毛挙上で開瞼ができるようにする手術である(野田、2006)。眼輪筋の不随意運動は抑制されないが、開瞼困難は改善される。

b. 上眼瞼挙筋短縮術
上眼瞼挙筋を短縮することによって、開瞼を容易にする手術である。前頭筋吊り上げ術と同様に、眼輪筋の不随意運動は抑制されない。

c. 眼瞼皮膚切除術
眼瞼痙攣患者では、筋過収縮により眼輪筋周囲組織の弛緩が起こってくることがあり、眼瞼皮膚弛緩症によって視界が遮られるようであれば適応となる。

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文献
1) Suzuki Y, Mizoguchi S, Kiyosawa M, Mochizuki M, Ishiwata K, Wakakura M, Ishii K. Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with essential blepharospasm. J Neurol. 2006; impress.
2) Perlmutter JS, Stambuk MK, Markham J et al (1997) Decreased [18F] spiperone binding in putamen in idiopathic focal dystonia. J Neurosci 17: 843-850
3) Jankovic J, Orman J (1987) Botulinum A toxin for cranial-cervical dystonia: A double-blind, placebo-controlled study. Neurology 37: 616-623
4) 向野和雄:視神経症, 視神経炎. 神経眼科, 向野和雄, 39-42, 金原出版, 1997.
5) White MC, Silvermann JJ, Harbison JW. Psychosis associated with clonazepam therapy for blepharospasm. J Nerv Ment Dis 1982; 170: 117-119.
6) Wakakura M, Tsubouchi T, Inouye J (2004) Etizolam and benzodiazepine induced blepharospasm. J Neurol Neurosurg Psychiatry 75: 506-509
7) 野田実香。眼瞼下垂、(3)前頭筋吊り上げ術。臨床眼科:60;1134-1140, 2006

(これは昨年1月当時に鈴木先生と私とで用意した段階の原稿です。最終原稿とは少々ことなっています。)

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今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

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