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2007年7月18日

386 先天性無虹彩 aniridia

1管理頁
無虹彩の子供さんを拝見しました。眼振もなく、一見網膜の黄斑の形成も不足はなさそうでしたが、本学小児眼科の外来への受診を予約し、有名なH先生への紹介状の手配をしました。この機会におばあちゃんにも分る目の病気に先天性無虹彩をくわえてみました。

無虹彩のような長丁場の疾患では、眼科医も親もどのような症状が何歳くらいで起きてくるのかを知って、息の長い経過観察をする必要があります。

無虹彩と正常このページはeMedicine Specialties 、 Ophthalmology 、 Genetic Disorders
Aniridia in the Newborn、Sophie Bakri, MD, Assistant Professor of Ophthalmology, Vitreoretinal Diseases and Surgery, Mayo ClinicのHP(→リンク)を参考にし、普通の人に詳しすぎる部分は丸めています。不審な点はご自身の担当医、または私に(患者の気持ちの質問箱から)お聞きください。なお花の写真はいつもの相川公一さんです。

2背景: 1818年にBarrattaは虹彩(茶目の部分)が欠如した無虹彩aniridiaを初めて記載しました。 これは両側性に眼球全体に変化の有る病気で、虹彩の生まれつきの低形成がもっとも目立つ変化です。角膜、レンズ、視神経、そして網膜にも若干の所見があります。

この疾患では時に網膜の黄斑と視神経の低形成を示し、これは視力の低下と先天性の眼振を起こします。白内障や緑内障そして角膜の混濁による視力低下の進行を見ることも有ります。

3病態生理:
無虹彩は家族性(家族の中に患者が何人かがいる)にも孤発性(身内には同じ病気の患者がいない)にもみられます。第11番遺伝子上にあるPAX6 gene(パックスロクいでんし)の異常でおこります。無虹彩の症例のほぼ85%は家族性で、AN1(エーエヌワン)と呼ばれる異常があって常染色体優性遺伝をします。 これらの家族は他の症状を合併せず目の症状だけを持っています。

6その他の15%の患者でも11番遺伝子に欠損か変異が見つかります。 その異常は、腎臓に出来るウィルムス腫瘍Wilms tumor (nephroblastoma腎芽細胞腫)と共通の遺伝子の異常である場合があります。

無虹彩発生の詳細な原因は未確定ですが、無虹彩を伴う脈絡膜欠損(コロボーマocular colobomas)の報告では一種のコロボーマという考えがあります。(私のブログ内のコロボーマの項を参照)。

7このほかに、胎児で眼が形成される極初期の形である眼杯の、縁を含む中胚葉の発達障害という考えも有ります。また、 神経外胚葉の発生の異常と考える人もいます。

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頻度: 頻度は 10万人に一人のレベルです。 人種差、男女差は無く、先天性の変化です。

死亡率と病的状態: 無虹彩の病的な病態は視力低下と眼振のために明らかにできます。

病歴: 無虹彩の患者は眼振または羞明で眼科を受診します。斜視や弱視で受診することもあります。その前に、親が瞳孔の異常で気付く場合もあります。

5症状:視力は通常0.2程度のレベルに下がります。無虹彩の患者には振子状眼振、斜視、そして弱視が見られることがあります。眼振は患者の85-92%に見られ、眼の検査では虹彩の欠損と対光反応のない瞳孔が見られます。水晶体前極の小さい白内障、瞳孔膜遺残, レンズ脱臼(ectopia lentis)は18-35%、角膜パンヌス、進行性角膜障害、視神経ないし黄斑低形成もみられます。

無虹彩の小児での低視力は黄斑低形成または視神経の低形成、それに続発性の眼振で起きます。

後天性視力低下は症例の85%に見られる白内障や、70%に見られる緑内障が原因で見られます。それに角膜混濁や弱視も低視力の原因となります。

4無虹彩を伴う症候群

○Miller syndromeミラー症候群 (WAGR complex, 11p- syndrome)
孤発例無虹彩症例の30%はWilms腫瘍を5歳までにおこします。無虹彩とウィルムス腫瘍の合併したものがミラー症候群Miller syndromeと呼ばれています。逆にウイルムス腫瘍の1.4%は無虹彩です。 ミラー症候群は 11p13バンドの消失に対応していることが報告されています。

○無虹彩と緑内障
無虹彩の視力喪失の原因である緑内障は失明を起こす有力な原因です。
無虹彩の緑内障は、乳児や新生児では少なく、むしろ成人の初期に起きてきます。
緑内障の発生は遅いので、先天性緑内障に見られる巨大角膜megalocorneaや牛眼buphthalmosは普通は見られません。

虹彩の遺残が線維柱帯をふさぐのは20歳までにおこるようです。緑内障のない患者では隅角が正常に見えます。年を取った無虹彩の緑内障患者では、緑内障の重傷度は隅角閉鎖の割合に比例しています.

○白内障
白内障は無虹彩患者の50-85%にみられ、20歳までに完成します。出生時には少しの混濁がありますが、まだ明らかではなく、前極、ピラミッド状、核、層状、そして皮質の混濁などがいずれ出てきます。 小さな子供でも、明らかな白内障があれば弱視予防のために早期に摘出手術をします。しかし、遅れて発生した白内障の症例では、視力にもっとも影響するのは黄斑低形成であって白内障ではありませんので、手術は急ぎません。

○レンズの脱臼Ectopia lentis:
レンズの脱臼は無虹彩眼の0~56%にみらえるともいわれます。

無虹彩角膜混濁
○角膜の障害
進行性の角膜の混濁やパンヌスは2歳ごろから多くの患者に見られます。まず角膜の6時と12時方向の角膜の浅層に血管が入り、やがて角膜全体に及んで角膜移植の必要を生じます。

PAX6無虹彩の角膜障害は極めて特異で、角膜周囲(リンブス)には幹細胞が見られません。PAX6は角膜の幹細胞の活性に影響しているのです。また、多くの例で角膜径は普通より小さいです。

9○視神経と黄斑の低形成
無虹彩にみられる眼球の後極部の異常には視神経と黄斑の低形成があります。無虹彩の75%は視神経の低形成を伴っています。 しかし、虹彩と黄斑の低形成は比例しません。

○斜視: 斜視は最も多い無虹彩の合併症で、内斜視が多いです。弱視を避けるためには屈折検査をきちんとしておくべきです。

○眼振(NysTAGSmus):黄斑低形成による視力低下があって、これに続発する2次的な振子状の眼振です。

○その他
視力が0.7以下の眼では網膜電図(Electroretinogram、ERG)は低く、より視力の良い無虹彩の目では高いa:b比を持つとされています。

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原因:11番遺伝子の上にあるPAX6遺伝子の変異でおきます。

薬物治療:
無虹彩に伴う緑内障の薬物治療をまずはじめます。
薬剤で眼圧が下がっても多くの症例ではいずれ手術が必要になります。
最初は縮瞳剤でこれは毛様体筋を収縮させますが、若い無虹彩の患者はこの縮瞳に耐えられません。ベータブロッカーや炭酸脱水素阻害剤も長期での効力は弱いです。

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眼鏡:

○無虹彩では正視、近視、遠視とも見られます。メガネかコンタクトレンズによる矯正を新生児の時から始めるべきです。レンズが亜脱臼していたら、レンズの横の隙間にメガネを合せます。

無瞳孔用コンタクト○まぶしさを減らすためにあらゆる年齢でサングラスや虹彩付きコンタクトレンズが使えます。

弱視と斜視の治療: 斜視(strabismus)では、良いほうの目をパッチで隠して弱視発生を避けます。調節麻痺剤をつけて屈折検査を行い、適切なメガネを作成すべきです。斜視の手術は両眼視を得るため早期に行います。

手術治療: 無虹彩の緑内障に対する標準的な術式は決まってはいません。次に示すような各種のものがありますが、いずれも結果は不安定です。

○隅角切開 Goniotomy
初期の文献では推奨されましたが、最近の結果はあまり良くありません。

○線維柱帯切除術 Trabeculectomy
ゴニオトミーや線維柱帯切除が何回か試された後に、この線維柱帯切除術は行われます。無虹彩の眼では硝子体脱出がおきやすい。

○セトン手術 Setons、モルテノ手術Molteno implant
前房から結膜下に細いパイプと圧の調整をする弁の付いた部品を移植するものですが、最初から試すべきものでは有りません。

○毛様体の光凝固と毛様体の冷凍凝固
これらの処置は共に房水を作る毛様体を破壊して眼圧を下げるものです。毛様体光凝固にはyttrium-aluminum-garnet (YAGイットリウムアルミニウムガーネット)ヤグレーザーを使います。

○白内障摘出:
レンズの混濁が強ければ、視力の改善が期待されます。水晶体亜脱臼眼では水晶体嚢での人工水晶体の支持はきたいできない。

○全層角膜移植Penetrating keratoplasty:
角膜がパンヌスから全体に曇ったものに行われます。しかし様々な理由で結果はあまりよくありません。

結論:
遺伝子相談。Genetic counseling

○すべての患者を遺伝子相談に掛けておくほうが良いです。家族歴を完全に調べ、目の変化、視力、泌尿器の奇形、ウイルムス腫瘍の有無、知能の発育遅延などに注目が必要です。

○MRIで脳と腹部を調べておくと良いでしょう。

○本人と家族の遺伝子を調べ、特にPAX6遺伝子を調べることが望ましいです。

○本人と家族の詳細な眼の評価をすること。蛍光眼底撮影も有用です。

○米国FDAが認めた小児の緑内障の治療薬というものは有りませんが、先に述べた種々の点眼が使えます。

それ以外の現在の治療
無虹彩は現状に応じて常に眼科医による検査を受け、適切な治療をする必要があります。無虹彩の児童の両親には、無虹彩がずっと見ていなくてはならないものだということを理解してもらわねばなりません。

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

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