調節性内斜視は治らないのか?
(管理頁)
◎調節性内斜視は、小児に見られる内斜視で、その患児の屈折状態に遠視があり、患者がものを見ようとする努力をすると左右の目を内側に寄せようとする輻輳が働いてしまうために左右の視線が内側によってしまう内斜視を呈するものです。
このような患者に対してはアトロピンやサイプレジンを用いて調節をかける力をなくしておいて屈折状態をレフラクトメーターで測定して、もっとも強い屈折にあわせた遠視のめがねを作ってもらいます。
大概この眼鏡を掛ければ眼位はかいぜんします
◎今回、この疾患に関連して少しショッキングな問答を経験しました。
◎遠視や斜視が有る場合には最初は正しいめがねを作ってかけさせても、より強い遠視がある側の目の視力がめがねをかけても1.0まであがってこないことがあります。これがいわゆる屈折異常に伴う弱視です。
弱視に対しては、正しい度数のめがねを多少無理してでもかけさせてやることが親の責任です。そうしませんと弱い視力の側の目の弱視がどんどん確定していってしまうからです。
そうこうしているうちに、弱いほうの眼も普通は数ヶ月でめがねをかけていれば視力が出るようになってきます。
しかし、それでも弱い側の目の視力が伸びてこぬ場合には、見えるほうの眼にパッチ(紙でできた片眼帯)を一日のうち数時間張って、いやでも悪い側の目を使わねば暮らせない状況を作ってやることになります。
テレビを見たり、食事をしたりする楽しい時間に見える目を奪われるのですから、教育のためとはいえ、患児は不機嫌になるかもしれません。そこは親が心を鬼にして弱いほうの目で見る力を鍛えさせねばなりません。
十分に運がよく、親がきちんと指導してくれれば、いずれは左右のめがねでの視力が均衡してくるでしょう。
◎さて、このようにして左右のめがねでの視力が有る程度出て、しかもめがねでの眼位がまっすぐになりましたので、親御さんはいつになったらめがねをはずせるのか?と聞きたくなったようです。
私にはその質問は今までの説明が根本的に理解できていなかったということを示す質問でしたので、その答えは、”この場合、めがねはたぶんいつまで待っても取ることができません”というすげないものでした。
この私の答えは、親御さんには逆の意味で十分にショッキングであったでしょう。
そもそも調節性内斜視は正常な調節機能(近くを見るのに目の中の水晶体の形を変えることでピントを合わせる働き)と正常な輻輳機能(近くのものを見るときに左右の視線を内側に寄せる働き)とが調和して、遠視の有る子供の左右両眼に起きていた大変貴重で美しい現象なのです。
もし、これが成人で不調になれば、輻輳緊張や開散麻痺などいつもものが2重に見えて仕事も手につかない大変に苦しい状況を招来します。
ですから、このせっかくうまく成長している貴重な眼球運動のシステムをぶち壊すことなく調節性内斜視をなくすことはまずできないのです。
もしそのようなことができるとすれば、その子供の遠視をなくしてやることができる場合だけで、つまり私がそうしてあげたように眼鏡を掛けさせるしかないのです。
(理論的には遠視のコンタクトレンズを使わせるとか、レーシックで角膜を削るというのもありですが、2歳から6歳の子供にそんな危険なことはできっこがありません。)
というわけで、子供の目が成長とともに近視化して偶然に正視(近視でも遠視でもない状態)にでもならない限り、めがねはずっとはずせないというわけです。
今回の事例では、私と患者さんの親との間に2つの大きな認識のずれがありました。
まず眼科医師としての私の考えた”内斜視を治す”というのが、”めがねをかけたままでならまっすぐになる”ということなのに対して、親御さんの考えた”内斜視を治す”というのは眼鏡なんてとんでもない、普通にまっすぐな視線に直すという意味であったこと。
確かに遠視がない斜視症例に対して全身麻酔を掛けて行われるような、斜視の手術治療では、そのような治り方になるでしょう。(このような斜視症例での治癒率は眼鏡で治る群よりもずっと低いはずです。)
また、子供の片方の眼が眼鏡をかけても十分に1.0の視力が出ない弱視になっているということが医師である私には”日本の政府がそのために税金から個人に眼鏡を買って与える必要があるくらいに大変に困った事で、もう数年そのままにしたら片目が確実に失明する事態”だったのに対して、親御さんには”片眼が1.0といい他眼が0.4といっても、小さな子供のことであって、いずれは放っておいても普通に見えるように成長できるだろう”程度の問題にしか認識されていなかったということでした。
調節性内斜視や小児の遠視性弱視は子供には多い疾患ですから、その治療を始める前にそれが治療は可能ではあるが、十分に重大な疾患であるということをもっと説明し理解させておかないといけなかったという反省を、今回私はしたところでした。
さらに考えれば、この患者さんは良いほうで、眼鏡を作っても使わないままいつの間にか私の視界から消えていった患者さんもいたであろうと思います。斜視や弱視はその子供の今しか治療のチャンスがない疾患であるという点も理解していただかないといけないのでしょう。
◎関連項目
90 赤ちゃんの寄り目(内斜視)について
147 乳児内斜視、先天性内斜視
今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
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