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2006年11月27日

217 純粋失読

純粋失読とは

136-0057江東区新砂3-3-53
清澤眼科医院 電話5677-3930 (管理頁

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中枢性視覚異常のひとつに、純粋失読pure alexiaがあげられます。

純粋失読というのは聞いた言葉が理解できなかったり話そうとする言葉が出てこないといった症状(失語)がなく、眼で見た文の内容を理解する“視認知”と見た文字を声に出して読む“音読”との両方が傷付いた重度の読みの障害ですが、これとは対照的に書字能力は良好に保たれている状態です。

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左後頭葉の病巣に起因する左右両方の目において右側の視野が失われる右同名半盲right hemianopiaがある場合に、残された左半分の視野からの情報はまず右の後頭葉に入ります。

そして、この情報は脳の左右を結んでいる構造である脳梁を経て左半球にある言語野に入ってゆきます。

しかし、広がった病変のために併発した脳梁膨大部の障害によって、この情報が左半球にある文字と言語の領域に到達できなくなると失読が起こります。

1892年Dejerine1)は、純粋失読の原因をこのように説明しました(図1:図はすべて準備中)2)

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不思議なことにこの場合には、読めない文字でも、字画をなぞることによって読めることが多く、なぞり読み(Schreiben des Lesen)と呼ばれます。

また、日本人での純粋失読の特徴として、漢字の失書を伴うといわれています。

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では、代表的な例を示します。

症例:66歳女性。右手きき。
主訴:右同名半盲

現病歴: 2004年3月、家人との待ち合わせのため道路に立っていたところ突然の悪心を感じて倒れ、救急搬送されました。自分が置かれている状況が的確にはんだんできず(これを見当識の乱れとよびます)また、失読失書を示しましたが、運動麻痺、知覚障害、失語、痴呆はありませんでした。頭部MRIで左後頭葉梗塞と診断され、神経内科に入院しました。脳梗塞発作以来、右同名半盲の自覚があり、急性期を過ぎた時点で3月末、眼科を紹介され受診しました。

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既往歴:15年前から糖尿病(受診時のHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は8.4%と高い値でした。)
家族歴:特記すべき事なし。

初診時所見:視力は右0.5(n.c.)、左0.5(n.c.)。眼圧は右16 mmHg、左14mmHg(正常です)。両眼に中等度の白内障を認める以外、前眼部と中間透光体には異常所見はありませんでした。眼底に糖尿病性の変化はなく、正常な眼底でした。視野はGoldmann視野検査(図2)で右同名半盲が確認されました。

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神経心理所見:2004年6月25日に老研版の失語症鑑別診断検査が行われました。健常人の平均値を100%として、聴覚的理解95%、聴覚的把持75%、読解50%、音読50%、復唱100%、口頭表出95%、書字65%、数・計算85%でした。

この応答を詳細にみると、聴理解と発話面の機能は良好で、指示に従うことや簡単な日常会話は容易であったことがわかります。しかし、「いぬ」「じどうしゃ」「犬」「鉛筆」が読めないなど、仮名と漢字共に重度の失読をみとめました。視認知も音読もともに障害されていました。

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また、文字数が増えると読む捜査はさらに困難になる傾向があり、短文の視認知も音読も全くできませんでした。数字の失読もみられました。

しかし書字障害は比較的軽度で、漢字に対し仮名はより軽度でした。漢字は自発書字と書き取りとも10問中3問のみ応答が可能であり、やや困難であると判断されました。

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一方、仮名は1文字の書き取りが10問中9問で可能で、仮名単語では、自発書字10問中7問が応答可能で、書き取りも10問中8問の応答が可能と比較的良好でした。短文の書字に際しても仮名を多用していました。

氏名と住所の自発書字は可能で、短文の書き取りもほぼ可能であり、写字(文字をみながら書き写すこと)も可能でした。なぞり読み(Schreiben des Lesen)が自発的に見られ、これが読字を可能にするのに有効な場合がありました。

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神経画像所見:
頭部MRIでは左後頭葉の一次視覚領(これは左右両側の後頭葉の後部で内側面にあります)の後方部とその外側領域の皮質に梗塞巣が認められました。しかし、側頭葉や脳梁膨大部への病巣の進展は明らかでありませんでした。

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Fluoro deoxy glucose PET (FDG-PET)では、MRI上見られた梗塞巣に一致した左後頭葉皮質とさらにその周辺の側頭葉下面および外側面にかけて広範な糖代謝の低下がみとめられました。さらに脳梁膨大部の左側は対側と比較して約30%程度糖代謝が低下していました。(図3)

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考察:
この症例は、右同名半盲と純粋失読という視覚に関連する症状を前面に示し、これ以外の神経症状が乏しい左後頭葉梗塞例でした。

老研版失語症鑑別診断検査において、文字の視認知と音読能力の選択的な低下を示していて、なぞり読みが自発的に見られました。

これにより読字が可能になった場合もあったことから、本症例は典型的な純粋失読と思われます。

原因病巣としては、頭部MRIにおいては左後頭葉の梗塞は認められましたが、純粋失読の重要な原因とされる脳梁の離断を示す梗塞や萎縮などの形態的変化ははっきりしませんでした。しかしFDG-PETでは、脳梁膨大部の左側に糖代謝の低下が見られていて、脳梁膨大部を通過する線維に機能障害があることが明瞭に描出されていました。

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歴史的には1892年のDejerine1)以来、純粋失読の責任病巣は、優位半球後頭葉の梗塞に伴う脳梁膨大部の変化であるとされています。先に述べたようにその病変による残存視覚領と優位半球の言語領域の離断症状と考えられたわけです。

また本邦の純粋失読患者に伴う書字障害の特徴として、軽い漢字の失書を伴うことがすでに報告されています3)。

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Iwataは漢字と仮名の読み書きの神経心理学的経路について、仮名は音を、漢字は語義を介したものであるという仮説を述べています。

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文字を読む際、文字の視覚情報は後頭葉にある視覚領で認識され、その情報は2つの経路を介してWernicke領に伝達されます。

その1つが、頭頂葉の下の端にある角回を経由する背側経路で、これは主に音(おん)を介した情報を伝えるものであって、仮名の読みもこれにあてはまるものです。

もう1つが中・下側頭回の後部を経由する経路で、語義の要素を介した読みを司っていて、漢字の読みには不可欠な経路です。(図4)

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一方、書字する際に、側頭葉にあるWernicke領で起きる書字命令は、いったん角回を経由して、文字情報が運動領に伝えられるますが、その経路にも2つの経路がありまする。

まず、仮名の書字は、Wernicke領から直接角回に通じる経路によるものです。

しかし、漢字の書字に主に関連しているのは、Wernicke領から側頭葉後下部と視覚領を経由してから角回に通じる経路で、語義に合致した漢字が想起されます。

この説に従えば、側頭葉後下部の障害があると、漢字の書字障害が生じることになります。

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その後の日本人の純粋失読の症例の検討でも、純粋失読に伴う漢字失書の責任病巣は左側頭葉後下部の障害によると相次いで報告されています。

本症例では、左後大脳動脈領域である左後頭葉皮質に加え、側頭葉後下面および外側面領域と脳梁膨大部の左側に明らかな糖代謝の低下がみられました。

幸い、頭頂葉の機能は保たれており、よくみられる失読失書の原因病巣である角回には障害はなかったです。

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よって、純粋失読は左後頭葉皮質と脳梁膨大部を通過する線維との機能低下によるものであり、漢字の失書は側頭葉後下部の梗塞によるものと考えられました。

本症例の漢字の書字障害は、日本人に見られる純粋失読患者に特徴的に伴うとされる漢字の軽度の失書と思われました。

この症例はFDG-PETにより純粋失読の原因病巣である脳梁膨大部の損傷が明確であり、残存視覚領と優位半球の言語領域の機能的離断が明瞭に示された症例と言えるでしょう。

文献:
1)Dejerine J:Contribution a l’etude anatomopayhologique et clinique des differentes varieties de cecite verbale. Compt Rend Soc Biol 4:61-90,1892
2)石合純夫:言語による意思の疎通が困難-失語症とは-,水澤英洋編,神経・筋疾患のとらえかた,37-50,文光堂,東京,2001
3)Iwata M:Kanji versus Kana, Neurophychological correlates of the Japanese writing system. Trends Neurosci 7:290-293,1984

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さて、いきなりこれを読んで理解できたらかなりの通です。ご家族に失読野患者さんがいらした場合、脳の中でいろんなことが起こってそのような症状が起きているのだという理解の一助になればと思い転載記載しました。基の文は眼科の専門雑誌に投稿した内容で、単語の解説を挟み込んで有ります。

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

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