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2006年11月19日

213 眼球運動、眼筋麻痺(複視)を記録するヘスチャート(Hess chart)とは?

Hess chartの例(動眼神経麻痺の例)の出典にリンク
http://www.mrcophth.com/commonhesschart/commonhesschartcases.html
右3麻痺
[ヘスチャートの見方]
患者の気持ちに寄せられた”やすさんからの相談”です。   (管理頁

217
質問:
仕事中,交通事故のため,眼に複視の症状が残りました。

Hess coordimeter労災認定のために,複視といえるためには「ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向または垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること」が必要らしいのですが,これはどういうことなのでしょうか。

2001
たとえば,右目の方に支障がある場合は,右側のチャートだけをみて,あらかじめ記入してある2つの正方形から実際に記載された線がどの程度離れているかをチェックすればよろしいのでしょうか。

よろしければ是非ご教授ください。

2002
答え:
片方の眼球の運動が制限され(これを眼筋麻痺といいますが、その中には筋肉が麻痺したり、神経が侵されたり、筋肉が骨折部分にはさまれたり、また炎症で肥厚して筋の伸びが悪くなったりと様々な状態が混在しています。)、複視を訴える場合その程度と麻痺の方向を記録するためにヘスチャートが用いられます。

このヘススクリーンという機械で調べられるヘスチャートという検査では眼の前に縦横の線が引いてある黒板があって、その各交差点の上に15度ごとに赤の電球がたくさん仕込んであります。
上の図参照

3003
暗い部屋で、そのスクリーンの前に座ってまず、左に赤眼鏡をかけて、右目に緑の眼鏡をかけます。(これが右目の検査です。右目の検査の場合、この結果が紙の右半分に書いてあります)

中心に有る赤の電球を一つ点けて、右手に持った緑の懐中電灯でこの赤ランプを指すと、この赤ランプを見るのは左目で、緑のランプは右目で見た像の位置になります。
(赤いガラスは赤い光だけを通すからです)
これを片目に対して中央の9点(視野の中央から15度の範囲)と左右上下の周辺あわせて(3点x4方向、中央から30度の範囲)12点について書いてゆきます。

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仕上がった四角(田んぼの田の字)を見て、縦横15度と30度の格子がどのようにずれるか、つまり眼の動きがどう制限されているかを見るのがヘスチャートです。

通常麻痺した眼の側の描く四角が小さく(上の例ではこの場合は右目です)、反対の眼の動きを示す四角(この場合は左目となります)が大きくなっていて、お互いに指し示す動きが嘘ではないことが分かります。

さて、すべての人の眼の動きがまったく正常(ぴったりと元の田の字の四角に合っているか?)かというとそうではなくて、多少(2度くらい)外向きに左右の眼がずれていたりします。

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そこで、(わたしは、今までに具体的に最低5度ずれていなくてはいけないという判断の基準を聞いたことが無いのですが、(注:下の追記を参照))”事故による眼球運動障害である”として扱うには、最低でも5度のずれが無くては、ずれているとはみなさないと(誰かが)言ったのだと思います。

5度というのは上に示したヘスチャートの1マスに相当するずれです。

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上の図の例では(右目の)視野の中央の点で右に15度(3マス)下に3度(ほぼ半マス強)ずれています。このずれの程度は場所によって違っていて、中心の左30度の点ならば30度もずれていますが、中心の右30度の点では2度ほどしかずれては居ません。

ずれの幅を見るには質問者が言うように、動きの悪い側の記録の中央の点のずれを1マス5度として上下および左右について読めばよいことになります。

確か、交通事故の後遺症診断書と労災の認定書には、この複視が”全視野にあるかあるいは視野の一部に見られるのか”を書き込む欄がありました。

このずれが、どこか一点で生じているというのではなくて、あらゆる点で満遍なく、しかも左右の関係が無理なくずれたヘスチャートが描けることが、特定の眼筋麻痺(または、動眼神経、滑車神経、外転神経などの眼球運動に関連する脳神経野麻痺)であると診断するためには必要です。

(この場合の注意点として、ヘスチャートは片眼の動きが正常で他眼が侵されているということが前提条件です。両眼が同程度に動かなければ、正常という結果も出かねません。)

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しかし、3度程度の実際にはわずかなずれでも、両眼の画像を合わせることが出来なくて、事故の加害者や保険会社と”複視”をめぐって裁判で争っている患者さんは多数居ます。

水平のずれですと内側に眼を寄せることが出来ます(この機能を輻輳といいます)が、左右眼の上下のずれではそれを補う機能が備わっていないので、ことに複視を少なく保つために、麻痺した筋肉をもっとも使わない不自然な顔の向きを強いられることになります。

顔を右または左に横に向ける、小首を右または左にかしげる、顎を突き出すか下を向くかの姿勢をとるなどです。これでは酷い肩こりを起こします。

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眼科医師の仕事は診断書を書くことよりは、この複視を最小限になるように回復させることです。

そのためには、1)ステロイドか、ビタミン剤でも処方して保存的に見ながら回復を期待して待つ、2)少し回復してきてずれが少なければ、プリズム眼鏡を処方し、生活に耐えられるようにする、3)一定の時間がたっても回復が不十分で、そのずれが安定したものならば(脳や神経のレベルではなくて)眼球の周りの外眼筋のレベルでそのつじつまを合わせるべく斜視の手術を考える。という3つのうちからの選択を行う事になります。

しかし、いずれの方法を取るにしても、すべての場合に完全な回復が得られるわけではありません。

ですから、自覚的な複視の有無および回復への治療と事故の賠償金の交渉とは別のものと考えていただく必要が有ります。

私たち主治医を引き受けた医師は、患者さんの側に立ってなるべく本当に複視があって困っているということを診断書に反映したいとがんばりますが、必ずしも患者さんの思うように賠償が認められる場合ばかりではありません。

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差し出がましい話にはなりますが、ことに御自分に過失のない事故などの場合、事故後の障害が大きいほうが賠償が大きくなるという状況が生じますと(これを疾病利得と呼びますが)、なかなか怪我を克服し自立することが難しい場合もあります。

それゆえに、いつまでも今回の事故の補償の請求のために、ご自分の貴重な時間を費やすよりは、前向きに明日からの仕事のことを考えて、この件の法的な部分には早く片をつけてしまうほうが良いですという話をさせていただく場合もあります。

(ヘススクリーンは高い機械ではないのですが、一般眼科では利用頻度がそれほど高くなく、場所ふさぎでもある為に神経眼科の診断を特にする眼科でなければ、持っていない開業医がほとんどだと思います。)

私は自分の医院にも(もちろん医科歯科大学の外来にも)ヘススクリーンを設置していますので、良かったら一度お見せください。具体的な話が出来るかと思います。

12122追記:身障者診断基準の別表に5度の根拠である記載がありました;
 複視
  (ア)  「複視を残すもの」とは、次のいずれにも該当するものをいう。
   a  本人が複視のあることを自覚していること
   b  眼筋の麻痺等複視を残す明らかな原因が認められること
   c  ヘススクリーンテストにより患側の像が水平方向又は垂直方向の目盛りで5度以上離れた位置にあることが確認されること
  (イ)  上記(ア)に該当するもののうち、
   a  「正面視で複視を残すもの」とは、ヘススクリーンテストにより正面視で複視が中心の位置にあることが確認されたものをいい、
   b  「正面視以外で複視を残すもの」とは、上記a以外のものをいう。

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
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