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2006年10月24日

194 外傷性視神経症(視神経管骨折,視神経損傷)の治療

外傷性視神経症(視神経管骨折,視神経損傷)の治療
traumatic optic neuropathy, optic canal fracture

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神経節細胞の軸索
外傷性視神経症(traumatic optic neuropathyは、外達外力による視神経への衝撃や視神経管骨折による視神経線維そのものに対する一次障害と、組織への循環障害や浮腫による二次障害とが複合し、多彩な視機能障害と臨床経過を呈することが知られています。(図は視神経が網膜神経節細胞の軸索であることを示しています。)

視神経管開放術後
これに対する治療法として、視神経管開放を主とする観血的治療(図はこの手術の後の神経放射線画像です)と、ステロイド投与を主とする薬物治療があり、その結果が報告されています。

私たちも以前、東北大学の神経眼科外来を訪れた外傷性視神経症の患者を調べたことがあり、その結果を示しながら外傷性視神経障害の概要を説明してみましょう。

古い話で恐縮ですが、私たちは1987年から1993年の間に仙台市の東北大学眼科を訪れた外傷性視神経症28例に対する治療・経過に付きカルテを調べて1996年当時に検討しました。(共著者の4人は当時はまだ駆け出しの眼科医でしたが、みな今では(それなりに経験の有る?)神経眼科医になりました。)

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その当時集めた症例は、男性が20例に女性が8例で、交通事故が主な受傷原因でした。

視神経管骨折は14例に見られましたが、視力障害の重傷度と骨折の有無とは関係してはいませんでした。

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受傷後1週間以内の早期に受診した18例中15例に対して、ステロイド投与または視神経管開放術による積極的な治療を行った結果、6例(40%)に中心視力の有意な改善がみられ、5例(33%)は0.1以上の矯正視力を維持しました。

最終視力が0.1以下の群では、初診時すでに重篤な視力障害を呈し、受傷後早期に受診した者の割合が高かったです。

6例には進行性の視力障害が見られましたので、早期から積極的な治療を行うことと、全例に注意深い経過観察を行うことが必要であると思われました。

(これが石川明、岡部仁、中川陽一、清澤源弘、神経眼科13:175-183、1996の要点です)

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さて、1)外傷性視神経症を見た場合のステロイドパルス療法の適応条件と、2)視神経管骨折を見た場合の視神経開放術を行うべき条件とはどの様なものなのでしょうか?

それには、”神経眼科学における臨床判断”(下に示した教科書ですが、岡部と清澤の世話になったPeter Savino先生も共著者の一人です。)というサビーノ先生たちが書いた教科書の外傷性視神経症の項目が参考になります。その本に拠ると、

1、 視機能(視力、視野その他)をなるべく正確に評価せよ。患者の診断画像の眼窩後部を骨折に付き詳細に調べよ。血液と骨をより正確に示すので、MRIよりもCTの方がよりよい。

2、 もし矯正視力が0.2以下で反対側の眼の視力が正常であれば、静脈からのプレドニソロン1g/日を3日用いて治療せよ。もし反対側の眼の視力が正常でなければ外傷側の眼の視力の低下の程度にかかわらず治療を開始せよ。(清澤注:現代の日本ではもっと良い視力でも、外傷性視神経症ならステロイドパルス治療を行う事が多いでしょう。)

3、 観察中に視力の低下が進むのであれば、篩骨を通っての手術を検討する。ステロイドを使って回復した視力が、ステロイドの減量で再度下がるならばこれも篩骨からの手術を考慮する。視神経管の骨折や血腫の存在は手術を強く支持するが、それ自身が手術の適応なわけではない。

4、 その他の理由があれば前頭開頭で視神経管解放を行う。

眼科医のつぶやき:

さて、ここで問題なのは受診時のはじめから視力がなくなっている症例です。

視力が段々下がるという条件に当てはまらず、手術しても見える確立が限りなくゼロに近いと思われるからです。

眼科医でこの手術をできる人を私は知りません。脳外科や耳鼻科、形成外科などの専門家しかその手術は出来ないのですが、多くの場合には眼科医が視力がゼロといえば、喜んで手を出してはくれないです。

(T先生へ:)”万が一にでも光覚位まででも視力が戻る可能性にかけて手術を受けたい”というのも患者と家族の心理では有ります。眼科医としても視神経管開放術を残しては”打つ手を尽くした”というには名残惜しい気がします。

最近の内視鏡手術の進歩で患者さんの体にかける負担も減ってきていることを考えると、篩骨から入る耳鼻科の内視鏡手術の適応は広がっている様に思われます。

もうひとつの条件は受傷後の時間で、1週間は少し長めですが、まだ1月は経っていません。

術者として見て特段の危険がなければ、何とか少しでも見える可能性にかけて私の患者さんに視神経管開放の手術をしてやってみる事を検討して見てはもらえないでしょうか?

Clinical Decisions in Neuro-Ophthalmology
(図は私の恩師の一人Savino先生が共著である眼科医師向けの教科書(新版)の表紙です。)

追加1:耳鼻科で困難な手術を引き受けていただき、術中所見も見せて戴きました。視神経管に骨折と血腫は確かにありましたが、幸い視神経は切れては居ませんでした。結果を期待しましたが、残念ながら視力は帰ってはきませんでした。

追加2:本日の東京地区の神経眼科勉強会で”視力がまったく無い視神経管骨折は開放術の適応となるか?”という質問をして見ました。多くのコンセンサスはそこまではしなくても良かろう。適応なしとの答えでしたが、S先生によれば、”最近の耳鼻科の報告には内視鏡手術で結果が良かったから積極的に行おうという趣旨の論文も出ている”ということでした。

追加3:最近コメカミを打ち、視神経間には骨折が無いのに視力が落ちている症例を時々見かけます。衝撃が骨を伝わって視神経周囲に伝わり、微小な血管を傷めて虚血性の障害を起こすという説明がoptic nerve disease という英語の教科書に出ています。この虚血性変化の発生を考えると、骨折が明らかでない症例の視神経管に手術の手を安易に入れようとするのはやはりためらわれます。(2007年6月1日追記)

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
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