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2006年5月19日

98 開散麻痺

開散麻痺

(新しい記載を2011.2.17に作りました(そちら:2048ページ 2011年02月17日
開散麻痺(divergence palsy)の原因には何がある?にリンク
)が、内容はこのページのほうが詳細です。

左右の眼が内側によっていると言う病的な状態(これを内斜視といいます)は、それが生まれつきでなければ右の目では見るものが正面よりも右にずれて見え、左の目では見るものが正面よりも左にずれて見えるという自覚的な支障を起こします。

遮蔽テスト
(尤もわずかな眼の向きのずれ(=眼位ずれ)は患者と対面した医師には、手に持った光源の電球をみさせて、交互に目を隠してその正面を向くために動くわずかな動きを見ないと分かりません。これを交替遮蔽テストといいます。図の出典にリンク

その両眼で見たときのずれは、”麻痺した筋肉”の働きが最も良く働くと期待されている眼の向きにおいてもっとも大きな画像のずれを起こします。

このようなものの最も代表的なものは、眼球を外側(つまり右目であれば右向きに、また左目であれば眼球を左向き)に眼球を回転させるように引っ張る外直筋(ガイチョクキンと読みます)の麻痺で見られます。

abducens palsy
図:外転神経麻痺の出典(リンク)

たとえば、右の外直筋を収縮させる働きを持つ”右の外転神経の麻痺”では右を向こうとしたときに左目だけが十分に右を向き、右目はあまり右を向いてくれないので眼の向きが左右で違ってしまって、その結果患者はものが二重に見える(これを複視と呼びます)と訴えます。

内斜視

斜視の機構図:遮蔽テスト“>出典リンク

このような複視の訴えのうち、やや特徴のあるのが、遠くを見ると二重に見えるという訴えをする開散麻痺divergence paralysisです。(この”かいさんは開散であって”解散麻痺ではありません。)

正常人では遠くを見るときには、近くをにらんだときに比べて左右の眼球の軸の集まる焦点が目から遠ざかります。その結果左右の眼の視軸がなす角度は小さくなります。

ところが開散麻痺では眼球を外側に向かって引っ張る筋肉に(左右とも十分な)力が入らないわけです。

さらに、この開散麻痺では左右の外直筋の麻痺の程度がほぼ同じであるというところが味噌です。(片方の麻痺が強ければ片側の外転神経麻痺です。)

片方の外直筋の麻痺では右か左を向いたときの各眼で見える画像のずれがもっとも大きくなるのに対して、開散麻痺では左右差なくしかも遠方を見たときに右目では右に(左目では左に)ものがずれて見えるのです。

さて、このように物が二重に見えるという場合には、どうやって治すか?ということが患者さんにとっては大きなテーマですが、その前に、この原因が何なのか?と言う点を考えることが大切です

実際の診断に当たっては、その患者さんが本当に開散麻痺を持っているのか、それとも両側の外転神経麻痺なのかと言うことが重要な診断の岐路になります。

それは外転神経麻痺の多くは、腫瘍にしろ、血管障害にしろ、外傷にしろ、はたまた先天性の麻痺が生後のある時期に顕在化したものであるにしろ、はっきりした原因を持っていることが多いからです。

それに対して開散麻痺では、その原因は脳の付け根の脳幹と呼ばれる部分で、神経経路としては外転神経よりも上位にあるのでしょうが、そのようなはっきりした原因や病巣が見つからないことが少なくありません。

その原因は、脳腫瘍であったり脳血管障害であったりもしますが、開散麻痺では症状がそれだけ(複視だけ)ではすまないような、命にかかわるような結果を引き起こす病気が脳の中にあるのではないかと考える必要があります。



新臨床神経眼科学

兵庫医科大学の三村治先生のまとめた新臨床神経眼科学という教科書を開いてみると、開散麻痺を生じたという報告があるもとの病気には、脳血管障害、脳腫瘍(後頭蓋窩腫瘍、テント上腫瘍、中脳血管腫、転移性脳腫瘍)、外傷(血腫)、ウエルニッケ脳症、ジフテリア、脳炎、良性頭蓋内圧亢進症、鉛中毒、小脳失調症、多発硬化症、急性白血病、甲状腺疾患、神経梅毒、抗癌剤、フィッシャー症候群などが上げられています。

私たちはその表を見ながらこれは何々だからありそうもないとか、これはこういう血液検査で除外してみようなどと考えてゆきます。

では、その開散麻痺はどのような神経系の障害で起きるのでしょうか?

新潟大学の三木先生が彼のホームページにそれを詳しく述べています(ここでリンク)。

その記載によれば、臨床的に開散麻痺はよく知られていますが、開散の中枢が存在して輻輳系と積極的に拮抗支配しているのか、開散が輻輳系の弛緩過程であるのかという明確な結論は出ていません。

輻輳運動の神経路の中に開散にともなって働く細胞も存在しない訳ではないのですが、現時点では開散運動に固有な神経路の構造として明らかなものはなく、輻輳も開散も遠近の方向性の違いだけで同じ神経系が営んでいる可能性が高いとされています。

さて、最後に開散麻痺の予後と治療を説明しましょう。

この疾患はかなり長期にわたって存続することもありますが、自然に消失してしまうこともあります。

MRIで指摘されるような危険な原因が特別になければ、それほど悪い結果にはならないことが多いでしょう。

まず最初にすることは検査を進めながら、ビタミン剤などを使ってしばらく経過を見るという物です。

次に行う、ひとつの優れた治療が外側が少し厚い(基底外方の)プリズムの入った眼鏡を処方するというものです。硝子の一方が厚いと、その硝子を通るときに光は厚いほうに向かって曲がります。

これが光の屈折です。この光の特性を利用して光をわずかに曲がらせて、視線のずれを補うのです。

近視や乱視がもともと有る場合には、近視や乱視の成分も同時に入れて眼鏡の処方をします。

斜視の角度が自然治癒によって小さくなって来れば、プリズム眼鏡は再度自分の費用負担で作り治す必要がありますので、余り作成を急ぐのは良いばかりではありません。

ぷりずむ
図はある教科書の表紙ですが、プリズムの概念を示すために引用したものです。プリズムを目の前に置く事で内斜視が中和されています。

(実際に作ってもらう眼鏡のプリズムはこんなに厚くはありません)

3番目の手段が手術です。プリズムを処方して足りない場合には、手術も行われます。そのときには弱った外直筋に対立する内直筋をいったんはずして数ミリ後ろにずらして縫い戻す後転術ト呼ばれる治療が行われます。

この手術も危険なものではなく、静かに局所麻酔の手術を受けられる成人であれば30分くらいで済むものです。通常は発症後6月位して試行を検討します。危険な手術ではありませんが、この手術が本当に必要になるケースは多くはないと思います。

◎お蔭様で無事に、開院15月の診療を無事終われますことを感謝いたします。なお、
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今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
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職員2007.9.15改丁

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