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2006年5月2日

89 眼球運動失行

花タンポポ
眼球運動失行について
Ocular motor apraxia
私のブログ周辺に、眼球運動失行Ocular motor apraxiaを調べている人が居られるようですので、
今回は眼球運動失行を説明してみましょう。Ocular motor apraxia

sekizou
“失行症apraxia”というのは、ある行為をしようと患者が考えたときに、脳に問題があって、その行為を行うことができないというものです。アルツハイマー病などの痴呆(私は認知症という言葉が嫌いで、あえて使いたいならば認知障害とかと呼ぶべきだと思っている一人なのですが、)にみられる着衣失行で“衣服を着ることができない”などの症状をもつ場合に使われる用語です。

しかし、この眼球運動失行Ocular motor apraxiaではもっと原始的で要素がはっきりした“眼球を思う方向に動かすこと“ができないと言うものです。

思う方向に眼を動かせないにもかかわらず、眼筋の麻痺とは違って眼振の急速相(注:眼球が揺れる眼振はだんだんに中心からずれてゆく緩徐相とこれを引き戻す急速相があります。)や体を回したときに平行感覚によって眼が正面に残る運動などでは、眼球を動かすことが出来ます。

この障害、眼球運動失行Ocular motor apraxiaはしばしば瞼を開くことができない(開瞼失行)という症状とも合わせておきます。

(話がそれますが、私たちがこの開瞼失行の原因病巣を調べたらそれは前頭葉の内側面にありました。
Suzuki Y, Kiyosawa M, Ohno N, Mochizuki M, Inaba A, Mizusawa H, Ishii K, Senda M, Glucose hypometabolism in medial frontal cortex of patients with apraxia of lid opening. Graefe’s Arch Clin Exp Ophthalmol. 241:529-534, 2003)

花綿毛
後天性眼球運動失行

(正常に生まれ育ってからある時期以後で起きるという意味での)後天的な眼球運動失行は両側の大脳半球の、殊に前頭葉から側頭葉の病変でおきるとされています。

臨床的に特徴があって注目されるバリント症候群でもこの眼球運動失行に、眼で見たものに手が伸ばせないという障害や、視覚的な注意を払うことが出来ないなどの症状を伴います。

眼球運動失行では、水平方向にも垂直垂直方向にも自分の意思では眼が動かず、患者の手を動かさせるとそれに眼も着いてきます。

しかし、眼振に伴う反射性の眼球の動きは保たれていて、これから脳幹の働きは正常なことが分かります。おそらく、前頭葉や側頭葉の眼球の動きをつかさどる部分から下に伝えられる指示が、通じないのでしょう。

自分の視線をコントロールできない人に対して、固視の痙攣という言葉があります。その患者では眼前のスクリーンに映像があると邪魔されますが、スクリーンが無地ならば視線を動かせるという記載があります。

花紫(先天性眼球運動失行)

先天性の眼球運動失行症congenital Ocular motor apraxiaは、水平性の眼球の衝動性の動きと滑動性の動きが共にないことが特徴です。

子供の時期では景色を動かして誘発する眼振でも、微温湯を耳に注いで眼振をおこすテストでも、眼球が元の位置に戻るときに出るはずの眼球運動の急速相が欠如しているのが見られます。

このことは、先天性の眼球運動失行症では成人の後天的な眼球運動失行症において見られる大脳皮質に原因がある“失行“があるわけではなくて、先天的な眼球運動の急速相の欠如とか先天的な側方注視の麻痺と呼ぶべきものであることを示しています。

この病気の特徴は、横のものを見るのに眼をそちらに向けないで頭を動かしてそちらを向こうとすることです。(これがhead thrustヘッドスラストです。)この特異な動きは生後4から8ヶ月で現れます。

このときには、頭部の動き伴い、耳の中の三半規管の働きによる反射の働きで、眼が周囲に対してその位置に残ってしまい、そのあとゆっくりと顔の正面に向かって追いかけてゆく動き方をします。

頚の動きはじめにあわせて、眼を瞑ったりもします。

また首をより大きく動かして、遅れておきる眼の動きちょうど良い程度まで強めたりもします。

年齢が進めばこのヘッドスラストは弱まってきます。

この疾患には脳梁や小脳の低形成などを伴う家族性(血縁者の中で遺伝するもの)のものも知られています。

(その後の検索でNature Genetics 29, 184 – 188 (2001) doi:10.1038/ng1001-184
Early-onset ataxia with ocular motor apraxia and hypoalbuminemia is caused by mutations in a new HIT superfamily geneがありました。これは新潟大学のグループが発表した優れた論文で、私が見たことのある名前では、前医科歯科大学神経内科助教授でかつてお世話になった湯浅先生の名前も共著者に入っていました。)

この解説の概要は、Neuroophthalmology, Glaser JS, Third edを参考にしました。この記載が最も標準的なもののようです。(リンク)

こうして、ジョエル グレーザー先生の書いた神経眼科学第3版を読み直してみると、
先天性の眼球運動失行と後天性の眼球運動失行がまったく別のものであって、先天性の眼球運動失行と呼ばれるものが実は眼球運動の失行ではないということも分かってきます

◎お蔭様で無事に、開院15月の診療を無事終われますことを感謝いたします。なお、
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apraxiaであってaplaxiaではありませんでした。訂正いたしました。(2007.4.13)


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