お問い合わせ

03-5677-3930初診受付

ブログ

2006年3月9日

62 甲状腺眼症と眼窩筋炎

mabuta
甲状腺眼症と眼窩筋炎

○ 甲状腺機能が亢進や低下などの異常を示す患者さんで、瞼が腫れたり、眼球が前方におしだされ眼を強く見開いた表情になったり、物が2重に見えたりする症状が現れることがあって、これを総称して甲状腺眼症と呼んでいます。

○ 甲状腺眼症の典型的なのものが、甲状腺機能亢進に伴うバセドー病Basedow diseaseであって、この甲状腺眼症は英語圏ではグレービス病(Graves disease)と呼ばれます。(写真:バセドー病患者の眼の写真、出展)Graves(図:Graves)

○ 甲状腺眼症では、甲状腺ホルモンの値が高いことが必ずしも直接の原因ではなく、甲状腺を攻撃する自己抗体の存在が重要な要素ですから、甲状腺眼症の甲状腺機能は高くても、低くても、また正常でもよいのです。

◎ 私たちがこの甲状腺眼症を診察する機会には次の2つの場合があります。

○ その第一は甲状腺腫大、眼球突出、心悸亢進(そのほかに疲れやすさ、微熱、やせすぎ)などの症状から内科ですでに甲状腺疾患が疑われて、血液検査での診断がすでについた甲状腺疾患の患者さんに甲状腺眼症が無いか?と眼科としての甲状腺眼症の診断を求められる場合です。

○ 甲状腺疾患ではいくつかの眼に関連した特徴的な兆候(甲状腺眼症)が、それを最初に発見して記載した人の名前とともに知られています。

○ またまた、自分の思い出で恐縮ですが、医学生や初期研修のとき、試験を控えていやいやながら発見した人の名前とともにこのリストを一生懸命丸暗記で覚えた単語です。

(○ 今はその知識で患者さんを拝見し、また時には医学部や視能訓練士学校の学生にこれを問いただしてテストしているのですから、実に不思議なものです。)

(○ 人の名前の付いた事項を知っているか?と聞く設問は、病気の本質を理解していても、その単語を忘れただけでまったく答えられなくなってしまうので、実はつまらない問題の作り方なのですが、出題者にとっては大変楽な問題の作り方なのです。)

◎ さて、甲状腺疾患では次のような症候を探します。

○ ダルリンプル症候 Dalrymple’s sign: 甲状腺眼症では瞼裂(上と下の瞼の間の幅)の開大、(つまりギョロ眼になります)

guraefe
○ グレーフェ症候 von Graefe’s symptom: 甲状腺眼症では眼球が下を向くときに上眼瞼の運動が遅れ上の白目が現れる。これを日本では古来より上三白眼と言います。

○ メビウス症候Moebius症候Moebius’s symptom: 甲状腺眼症では輻輳(近くを見るときに左右の眼を中央に寄せることの)不全があります。この場合、近くを見ればものが二重に見えます.(メビウス症候群は別のものです)

○ ステルワーグ症候Stellwag’s sign: 甲状腺眼症での瞬目減少。(乾いた眼を我慢しながら、眼をじっと開いている感じです。)

◎ その2番目は様々な眼の症状を訴えて眼科を受診した患者さんに、眼科医が甲状腺眼症を見出す場合です。実は私たち眼科医、殊に神経眼科を勉強する医師にはこのほうが難しいが、やりがいがある仕事です。

○ 甲状腺眼症でも、上で説明したような眼球の突出や上眼瞼の後退が明らかに見られればその診断は比較的容易です。しかし、その病気が軽く初期では瞼の浮腫を伴う軽い複視程度であることもまれではありません。

○ 私は、悪いほうの眼の眼瞼の後退ではなく、健康な側の眼の眼瞼下垂を主訴に受診して、いろいろ調べた挙句にパッチリ開いていた側の眼の甲状腺性眼症と診断された症例も経験したことがあります。

○ 甲状腺疾患の診断のための採血検査では甲状腺ホルモンであるFT3,FT4などの測定が行われますが、最近では甲状腺ホルモン値が正常な正甲状腺グレービス病euthyroid graves diseaseが注目されています。

○ これは、Basedow病特有の眼症状を有しながらその他の眼科的疾患が除外され、血中の甲状腺ホルモン( FT3, FT4 )は正常な状態です。

○ その診断には更に甲状腺関連抗体などの検査が必要ですが、特にその中でも甲状腺受容体抗体TRAbのうちの刺激抗体部分である甲状腺刺激抗体(TSAb)はこの疾患での陽性率が80%と高く、その診断での有効性が指摘されています。

(一般の患者さんやご家族がここまで深く考える必要はありませんが。)

○ 甲状腺眼症の診断がつけば、甲状腺ホルモンの抑制のための治療、ステロイドや放射線照射での眼窩内組織での炎症の抑制、斜視手術による複視や視神経障害の改善などが試みられます。

○ 疾患がさらに進行すれば、眼球を動かす筋肉である外眼筋に肥厚が起こり、上下や左右の複視を訴えます。この複視が眼科受診のきっかけである患者さんはまれではありません。

○ この場合には甲状腺機能のコントロールをつけた上でのステロイド投与と放射線治療が行われます。そして半年くらい炎症を沈静させてから斜視の手術を検討することも考えられます。

◎ また、疾患がさらに重いと眼球を上下左右に動かす眼の周りの筋肉の肥大によって視神経が圧迫されて視神経障害が起き、急激に視力が低下する場合もあります。

sisinnkei
○ 米国では、殊にこの甲状腺疾患に関連した視神経症の発生が多く、“視神経症が起きた患者を見たら、土曜日の午後でも眼窩の形成外科専門医を動かして、圧迫の解除手術を即刻させなくてはいけない。“と教えられました。
しかし、日本にはそのような患者さんはほとんどいませんでした。
dekonpu (図:甲状腺眼症に対する眼窩壁切除の効果)

◎ 眼窩筋炎は眼球の周りに非特異的な原因で炎症を起こす眼窩偽腫瘍のひとつの亜形ですが、甲状腺眼症とも紛らわしい疾患です。

○ 眼窩筋炎は甲状腺疾患と違って、CTやMRIの画像診断で、筋の付着部まで筋が太く腫大するのが特徴であるとされています。

○ 眼窩筋炎の治療にもテロイドが用いられ、放射線照射の併用も有効です。

◎ 甲状腺眼症は常日頃、医科歯科大学の神経眼科外来で私も拝見いたしますが、この疾患の治療の日本での第一人者はオリンピアクリニック井上眼科の井上洋一先生です。井上先生は毎年、甲状腺眼症状の研究学会を自分の病院の費用持ちで開催しておられ、毎年、甲状腺眼症の新しい話が聞けます。その治療の相談を差し上げると、いつでも的確な評価と方針の付いた返事を出してくださいます。

この記述には

1) 林賢吾、清澤源弘、若倉雅登、甲状腺眼症、解決!眼と視覚の不定愁訴不明愁訴、若倉雅登、清澤源弘ほか編著、金原出版、pp89-90、2006

2) 林賢吾、森浩士、清澤源弘ほか、両側に圧迫性視神経症を示した急性外眼筋炎の一例、日本眼科紀要、印刷中

3) Bartley GB, Gordman CA, Diagnostic criteria for Graves ophthalmopathy. .Am J Ophthalmol 119:792-795, 1995.

及び図を引用した各ホームページを参考にいたしました。

さてさて、おばちゃんにも分かる疾患解説を書いているうちにほかの人がどんな風に解説しているのかを見たくなって、ネットサーフしてみました.
そこで新潟大学の高木先生のページに遭遇。人格高潔、まじめを人間にしたような私の知人の一人ですが、まことに見事な甲状腺眼症の解説で恐れ入りました。医学生、眼科医向きですが、さらに詳しい知識をお求めの方はぜひご覧ください。(クリック)

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。(清澤 源弘)(清澤眼科、清沢眼科、きよさわがんか)

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。
管理頁
清澤眼科医院通信最新ページへ(リンク)します

Categorised in: 未分類