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2020年10月30日

12396:日本で研究不正がはびこり、ノーベル賞級研究が不可能である理由:記事紹介

清澤のコメント:大学のシステムを離れた我々開業医には研究論文発表をすることは至難である。医学研究を開始するのには学内倫理委員会の承認を売ることが必要とされ、その倫理委員会の構成員にまで研究不正に対する責任が問われるようになって久しい。それなのに多くの研究不正が起き、論文の取り消しが日本で起きているというのはどうしたことだろうか。さらに日本の凋落は経済的な凋落に伴なっていて、眼を覆うばかりである。「日本で研究不正がはびこり、ノーベル賞級研究が不可能である理由」という興味深いニューズウィークの記事を抄録する。留学した1986-8年、開業した2005年頃までが日本のアカデミアの最盛期であったようです。

  ――抄出―――

科学後退国ニッポン

2020年10月28日(水) 岩本宣明(ノンフィクションライター)

<論文撤回数ランキング上位10人の半数が日本人──。科学への投資を怠ったツケで不正が蔓延し、研究現場が疲弊している。日本の学術界の闇を指摘する衝撃のレポート。解決に必要な2つの方策とは>

ノーベル賞受賞者は満面の笑みの一方で日本の研究環境の貧困と疲弊を嘆き、将来日本人受賞者がいなくなると警鐘を鳴らす。

2000年以降、日本人ノーベル賞受賞者の数は急増している。外国籍を含めた日本出身受賞者は28人で世界第7位、今世紀の自然科学部門に限ると受賞者は18人で、アメリカ、イギリスに次ぐ堂々たるノーベル賞受賞大国だ。しかし、日本から受賞者が減る可能性は極めて高い。2000年以降の受賞ラッシュは過去の遺産だからだ。

論文不正問題の闇がある。2018年8月のサイエンス誌と2019年6月のネイチャー誌は、日本人研究者の悪質な論文不正問題を取り上げている。

サイエンスは撤回論文の動向を監視するウェブサイト「Retraction Watch(撤回監視)」の論文撤回数ランキング(当時)の上位10人の半数を日本人研究者が占めていることを指摘し、日本の研究現場の体質を批判した。

撤回論文上位を日本人が寡占

現在の「撤回監視」のランキングでも、日本人研究者は1、3、4、6位を占める。残念なことに体質に問題がある。医学・生物学文献データベースを検索し、2500万超の論文から2047本の撤回論文を特定した結果、撤回論文の4分の3をアメリカ、ドイツ、日本、中国が占た。「撤回論文」ランキング上位の日本人はいずれも医師で、ファング教授の研究は医学・生物学分野の論文に限定されたものだが。

報告書は、不正の背景には競争的研究費の獲得競争、若手研究者のポスト獲得競争、研究者の功名心の肥大と倫理観の欠如、研究機関の成果主義の蔓延と自浄能力の欠如など、学術界の構造的な問題や体質の問題があることを指摘している。2006年の分析は不正行為の背景だが、指摘された構造的・体質的な問題の、そのまた後ろには、日本の研究現場の困窮と疲弊がある。

その原因は、資金不足。日本の政府は借金まみれで、未来への投資である科学技術の研究に回すカネがない。結果、研究者は「競争的資金」の獲得競争に時間を奪われ、大学や研究機関の人員削減で若手研究者は慢性的な就職難に苦しみ、魅力を失った大学院博士課程は空洞化し、日本の大学の世界的評価は下がり続けるという悪循環が起きている。

日本の国立大学は2004年に法人化されて以降、政府から交付され収入の多くを占める大学運営費交付金を減額され続け慢性的な経営難に陥った。結果、「基盤的経費の減少のため退職教員の補充ができず若手研究者が雇用できない」「教員が減って学生指導の負担が増えたため、研究する時間がなくなる」「科研費や企業との共同研究など外部資金なしでは研究が続けられない」「競争的資金獲得のため研究者が事務作業に忙殺され研究する時間がなくなる」という状況に陥ってしまった。私立大学も似た状況。

国立大学の研究開発費総額は1990年代中葉からほとんど増加していない。2000年を基点とした18年の主要各国の研究開発費は、物価変動の影響を排除した実質額で中国が11.8倍、韓国が4.3倍、アメリカが1.5倍に増加しているのに対し、日本はわずか1.3倍だ。物価換算した研究者1人当たりの研究費も、35年間全く増えていない。アンケート調査では、研究者の83%が研究費が足りないと回答する。研究時間も減り、国立大学法人化以前と以後では大学研究者の研究時間が25%も減少し、研究者のほとんど全ては研究時間が足りないと嘆いている。

研究者は「1回でアウト」に

科学技術力の指標となる総論文数の国際シェアは下降の一途をたどり、日本の大学の世界でのランキングも下がり続ける。各国が論文数を増やし続けるなかで、唯一、日本だけが近年、論文数を減らしている。1990年代後半に横ばいの時代を迎え、2000年代に論文数世界2位の座から陥落し、2013年以降減少基調に入った日本の現在の位置は、米中英独に次ぐ5位まで降下した。質の高い論文の指標となる被引用数の多い論文の数も減り続けている。

日本の未来にとって最も深刻なのは、科学者の卵を育てる大学院博士課程の空洞化だ。背景には安定したポストにある研究者が高齢化し、40歳以上が大半を占めるという構造的な問題がある。大学院修士課程の学生の多くは博士課程進学を躊躇している。就職難に加え、経済的負担も大きい。日米を比較すると、アメリカでは大学院生の8割がなんらかの学費免除や免額を受けているのに対し、日本では65%の大学院生が学費免除・免額を全く受けておらず、全額を免除されている学生は1.7%にすぎない。博士課程はその数だけでなく、質も「空洞化」しているのだ。研究費の不足と若手研究者の不安定な身分がデータの捏造や改ざんなど不正論文の温床となっている。「研究費を獲得するために、早く論文を提出しなければならない」「終身雇用を得るために期限までに論文を提出しなければならない」など、研究現場は不正の誘惑に事欠かない。

ノーベル賞は5年に1度に?

近年のノーベル賞受賞ラッシュは過去の遺産であり、近い将来、受賞者は激減することが予想される。ノーベル賞の受賞年と授賞理由となった研究を発表した年には平均25年のタイムラグがあると推定でき、ある年の各国の受賞者のシェアと、25年前の被引用論文数のシェアには有意な相関がある。毎年のように繰り返されてきたノーベル賞受賞のお祭り騒ぎの陰には、論文不正の蔓延という闇がある。お祭り騒ぎを続けるためにも、不正論文を少なくするためにも、研究現場の困窮と疲弊の解決が不可欠だ。[執筆者] 岩本宣明(いわもと・のあ)1961年生まれ。文筆家・ノンフィクションライター

Categorised in: 社会・経済