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2019年12月15日

11383:医療マフィア (祥伝社文庫) 読書印象記

 文庫 – 2019/11/13 新堂冬樹 (著)

眼科医清澤のコメント:この本を読んで感じたのは、結果が好ましくなかったとしても、「医師の治療の裁量の内」と私たち臨床医師が常識的に考える「乾癬にステロイドを処方」したくらいのことで、患者さんの家族に本気で復讐を企図されたら本当に怖かろうという事でした。確かに、患者サイドと医師サイドでは見え方が全く違うのではありましょうけれど。

私の医院でも最近は治験に大いに参加しております。その経験からして、無理筋の新薬を不正な手段で国に認めさせるという事は、昨今ではまずできないと思います。確かにディオバン事件(注1)以来、日本の新薬に対する評価方法は仕組みにしても、実務にしても大きく変わっています。国内でも多数の治験担当会社が成長しており、そこが大きめの開業医などをフィールドに治験参加者を探し、また実際の無作為比較試験が行われます。その前に、治験会社は社内に治験のための倫理審査委員会を持っていて、公正にその治療実験の合理性や安全性を評価してから企業主導の治療実験は開始されるようになっています。

また新薬のための治験には小規模なものでも、数十億円という少なからざる資金が必要です。特定の治験の結果がその成果に結び付けられなかった時には、社内の開発担当者には準備や結果に対する予測調査の不足として、大きな負の評価となることは容易に予想されます。この様な状況の中で、治験に対する不正な関与に対して巨額の資金が製薬会社から外部に支払われるというこの物語のストーリーは経理取り扱い上からも、企業倫理(コンプライアンス)上からも不可能と思われますから、この小説のようなことは実際には起きないと思われました。

まあ、物語として読む分には面白みのあるストーリーではありました。しかし、構成的にも前半部分に対して後半部分の流れが安易で走りすぎの印象を受けました。主人公は後半で誘拐にまで手を広げてしまうので、犯罪者になってしまいます。ぎりぎり犯罪ではないというラインは守れたほうが、主人公をより生かせたかもしれません。

 最後に、製薬会社では開発研究部門の人と、営業担当の人は組織上も実際も全く別です。その点からもこの物語のような事例は存在しにくいと思いました。

アマゾンの紹介:朝からゴルフ、夜まで豪遊。札束で膨らんだ“お車代”。製薬会社が医師に対し、製品を採用してもらうべく仕掛けていた過剰な接待・贈賄は、法律で禁止された。ところが皮肉にも、規制強化につけ込む裏ビジネスが生まれる。自ら“医療マフィア”と名乗る花島正輝は、製薬会社に代わって優秀な美人医療情報担当者を送り込み、医師を籠絡。巨額の報酬を懐に入れていたのだ。

新堂/冬樹

1998年『血塗られた神話』で第七回メフィスト賞を受賞しデビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

注1:ディオバン事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ディオバン事件とは、高血圧の治療薬であるディオバン(一般名:バルサルタン)の医師主導臨床研究にノバルティス日本法人のノバルティスファーマ社の社員が統計解析者として関与した利益相反問題(COI: Confilict of Interest)、および、臨床研究の結果を発表した論文のデータに問題があったとして一連の論文が撤回された事件を指す。

ディオバンの日本での臨床研究には、5つの大学(京都府立医科大学・東京慈恵会医科大学・滋賀医科大学・千葉大学・名古屋大学)が関わり、それぞれ論文を発表した。しかし2018年上記の5論文のすべてが撤回(retraction)される異常事態となった。

Categorised in: 社会・経済