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2019年8月30日

11034:眼科でも医師偏在は問題なのか、若倉雅登、:記事紹介

清澤のコメント:米国では、眼科への進学者は医学部卒業生のエリートである。しかし、最近は日本の眼科においても初期研修医数の制限が掛かっており、医師免許証取得者が東京都内の教育機関で眼科に入局しようとすれば、相当な生存競争を勝ち抜かねばならない状況であるらしい。思えば、我々昭和50年代医学部卒業生は恵まれていた。各地域の病院の各診療科は残らず我々新卒医師を歓迎してくれた。しかるに、最近の新入医局員は、眼科に入るために何年か地方の病院に勤務することもあるという。若倉先輩はこれを、個別の医師の問題としてではなく、受療者としての国民の立場で検討する必要性を述べている。もっともなご意見である

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私の提言、苦言、放言 井上眼科病院名誉院長 若倉雅登

159回 眼科でも医師偏在は問題なのか 眼科ケア9号、2019、75-76

医師偏在という言葉が近頃ごく当たり前のことのように使われ、それに異を唱える意見はほとんど見当たらない。日本の医学史上、全国に医師が足りている状況など、明治時代から今日まで一度もなかった。

「医師は足りている」という意見は国などから不意に出てくる。しかし、それは医療経済を最優先にした考え方から出てくるのであって、国民目線で考えたものではない。医師過剰なら、首都圏でも普通にみられる「三時間待ち三分診療」は解消されているはずだし、医師の働き方実態調査で明らかにされた異常な過剰労働などもないはずなのだ。この現実を見れば、医師過剰という判断は間違いだとわかる。医師過剰というと反発をされるから、「医師偏在」と問題をすり替えているのかもしれないと突っ込みたくもなる。

地域によらず医師数が全国均等であることを前提にする議論は、そもそもおかしいと思う。頻度が少ない疾患の専門家までことこどく日本全国に配置することは不可能であろう。そうだとすれば、交通網が東京、大阪など、中心都市に向かって整備されているのだから、専門性の高い領域の医師が、中心都市にいるべきである。もちろん、救急科、産科、小児科など、緊急性の高い病態や思者の移動に大きな負担がかかるケースが頻発する診療科は大都市だけにあればよいとは思わないが、医師の絶対数からいつて、津々浦々に配するべきだとも思わない。今の時代、遠隔医療システムなどもうまく応用しつつ、交通便のよい医療拠点を作っていけばよいのではないか。

ここで眼科についてはどうかを考えてみたい。目や視覚の不調は即刻日常生活の不都合につながるから、人々の生活環境の周囲に目や視覚の不調について相談できる専門家がいるとよい。これは賛成である。ただ、眼科では、救急科、産科、小児科のように緊急性が高く、即刻処置が必要というケースは比較的少ないのではないか。緊急性が高い疾患として、思い付くのは網膜動脈閉塞、急性緑内障、次いで裂孔原性網膜剥離があるだろう。このうち、網膜動脈閉塞についてはそもそもまれな疾患で、大都会でさえ大半の患者が手遅れになっている現実があるから、一応除外して考えたい.急性緑内障は地域の救急センターが遠隔医療システムなどを利用して、最寄りの眼科協力医と連携しておけば、かなりの対応はできる。´裂孔原性網膜剥離となると、地域の開業医や常勤の眼科医が一人しかいない施設では対応は困難だから、基幹病院へ送らねばならない。県庁所在地かそれに準じる大都市に対応できる病院が最低一つはあるから、何とかなるのではなかろうからつまり、眼科のように日常的な不調を主として扱うべき診療科は生活環境の近くにあれば便利ではあるが、その中の重大疾患に対応できる医療機関がどこにでもある必要性を絶対条件にする計画は不要なのではなかろうか。

どの診療科も十把ひとからげにして「医師偏在」を理由に、地域ごとに定員を設けるなど、医師資格を有した者の診療科や勤務地を選択する自由を奪うのは、働く人間の自由を奪うことであり、時代に逆行した考えだと思う。それでもなお、日本中どこも医師が充足している状態を作りたいのなら、医師数を増やす政策しかない、厚生労働省で検討中の医師偏在対策の資料を聞覧していたら、その構成員の発言として「現在の思者の受領行動、医師の専門性の分布を前提とするのでなく、将来の理想的な医療提供体制のグランドビジョンをまず作ってから議論すべき」というのがあった。将来の日本の医療を理想的な環境にするために、広い視野で問題に取り組まなければいけないというこの意見は大賛成である。

患者になる国民、地域の市民の声を開かずして、厚生労働省や一部の専門家と称する医師だけで、医師過剰だの、医師偏在などといつて、机上で対策を考えている実態には大きな違和感がある。患者となるべき国民がどういう医療を望んでいるのかを、厚生労働省にはこれをしつかり聴取することから始めてほしい。

Categorised in: 社会・経済