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2019年3月25日

10578:視覚障害者の雇用率の水増しと中途採用国家公務員試験:眼科ケアから

第154回:視覚障害者の雇用率の水増しと中途採用国家公務員試験

私の提言、苦言、放言 井上眼科病院名誉院長 若倉雅登

眼科医清澤のコメント:眼科ケア2019年4号からの引用です。「行政が指導するから、その統計が正しいのだと信じて被雇用者の給与の引き上げに努力していたのに、実際にはそんなに国民の給与が上がっていなかった」、などと聞かされると、今までの無理した努力は一体何だったのか?と、思うこの頃です。若倉先生の公憤は今日もやむところを知りません。患者さんに対する共感を十分にお持ちなのだと感ずる一文です。

  ――記事の引用開始――

2018年の夏ごろに発覚した国の省庁や地方自治体の障害者雇用率水増し問題は、法定雇用率の改正で、障害者の雇用義務を民間企業は一雇用者全体の2.1%、官公庁は2.5%以上にするというより厳しいルールが、2018年4月に義務化されて間もなくだった。その前年の2017年、雇用率の達成は民間企業では50%であるのに対し、国の雇用率の達成は42機関中41機関であると、厚生労働省は堂々と発表していた。ということは、障害者雇用率に関する法律を運用している行政が労働現場を見ていなかったことを示しており、統計として発表された数字の意味が失われただけでなく、法律として規定される数字への根拠も崩れたと言えるが、厚生労働省のホームページはまだ訂正せずにそれを載せている。

厚生労働省は障害者雇用の再点検の結果を2018年8月に発表している。それによると、国の行政機関だけで、2018年8月以前に発表していた障害者の雇用者数の6867.0名は、じつは3407.5名だったとしている(平成29年12月12日付)。平成30年12月25日には、6月時点で国の行政機関の障害者雇用数は3620名、法定雇用率を達成するには3875名が不足していると厚生労働省は発表した。発表しないよりはるかにましだとはいえ、何の釈明や責任の所在も示さず、淡々と数字だけ訂正して見せているのは後で非難を受けないように手当てしたように見えてしまう。この姿勢は、国民感情としては納得がいかないし、監督官庁の厳しい指導を受けて努力している民間企業はあきれているに違いない。そして何より、障害者の中で最も雇用されにくい視覚障害者やその家族にしてみれば、怒り心頭に発するところだ。

2019年2月に水増し分を補給すべく、とりあえず676名を採用する障害者のための国家公務員試験が行われる。人事院発表の暫定値では十三倍の高い競争率だそうだ。「自分の能力を買ってほしい」「活躍したい」と考えている障害者がこれほど多いことは、嬉しいことだ。筆者の外来に通院している視覚障害者の中にも少なくとも2人が受験生に含まれているが、そこで懸念されるのはいったいどんな試験が行われるのかということである。

視覚障害者枠で雇用して、その障害者にどういう能力を発揮してもらおうとしているのかが重要である。そのためには、障害者の 実態やその個人の能力だけでなく、共に働く人たちと共にある職場環境、職場文化をしつかり見ておく必要がある。その青写真なしに試験をして障害者を雇用しても、雇用継続に無理が生じかねない。

筆者も就労継続を断念した患者に何人も遭遇している。初めからほとんど仕事が与えられず、「あなたは障害者枠だから、そこに座っていることが仕事なのよ」などという暴言を吐かれた例は極端だと思いたいが、最初のうちは障害者として採用されて本人も張り切り、周囲も理解して支援しても何年か過ぎると事情が変わってくる可能性がある。

一つは障害の程度が進行する場合である。障害者等級に変動はなくても、網膜色素変性や緑内障などでは、どうしても年々障害は進行する。一方、仕事に慣れてくると、周囲からの支援は当初ほど得られなくなったり、上司が変わり、職場の環境が一気に変わったりすることもあるらしい 。さらには部下を持つようになると新たな別の問題がある。「障害者を上司として認められない」「自分(健常者)よりも能率の悪い職務しかできないのに、仕事を命じられるとは不合理だ」などという不満が部下から出てくると、立つ瀬がなくなり結局辞めてしまったという例である。

障害者雇用促進法だの、障害者総合支援法だの、といっても実態を伴って運用されていなければまったく意味がない。雇用率などの数字を示すことで実態が把握されていると、もし行政が考えているとすれば、雇用率の達成だけが目的化されてしまい、これは明らかに間違いだ。しかもその数字にごまかしがあったのだから、法律はポーズだけで実態を伴っていないことになる。

日本の公的障害者救済率は欧米先進国の4分の1から、視覚障害者になると10分の1にしかならないと試算できる。眼科医や眼科コメディカルスタッフの人たちが問題意識をまず持ち、患者と共に声を発さなければ国は動かないと思う。――本文引用終了――

Categorised in: 社会・経済