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2018年2月23日

9630:出てしまった自殺者 ――ベンゾジアゼピンの乱用と離脱の影で:記事紹介

1281682142_p私の提言、苦言、放言  井上眼科病院名誉院長 若倉雅登

141回 出てしまった自殺者――ベンゾジアゼピンの乱用と離脱の影で

(今回も変わりなく元気な若倉先生の発言です。眼科ケア2018年3月号92-93ページからの引用です。眼瞼痙攣患者の皆様にも見て戴きたく、本文部分を引用させていただきます。優れた雑誌ですから、院長先生に頼んで医院で買っていただいてください。)

 

小田急小田原線とJR中央線の電車で通勤していると、人身事故による遅れのとばっちりをよく受ける。自殺は人身事故のおおむね60%を占めるらしい 。この二線は首都圏で鉄道自殺者数の多い10位と1位だそうで( 東洋経済、2016年調べ)、合わせると10日に一件程度の鉄道自殺が起こっている勘定になる。

 

自殺の原因、動機の約半数は健康問題という。警察庁などで発表されている自殺者数は、  1998(平成10)年以降、年間三万人を上回っていたが、2012(平成24年あたりから減少し、2016(平成28)年は二万一千人余り、2017(平成29)年も2万人余りにとどまる見込みだとされる。 ただ、数え方に問題があって、世界保健機関(WHO)では変死者の半数を自殺者と数えるが、日本では適用しておらず、実はもつとずっと多いのかもしれない。

私の患者でも、ときどき死亡による予約のキャンセルが入る。「心筋梗塞で」などと原因が示される場合があるが、死因を言わないことも多く、「ずいぶんと苦しんでいたから、もしかすると……」と思うようなこともある。そういう隠された自殺もあるので、発表される自殺統計数は実際よりも少ないだろう。

 

先日、薬物性眼瞼痙で9年間通院していた女性の娘さんから、母親が自殺した(鉄道自殺ではない)ことを報せる長い手紙を頂戴した。

 

周囲に尊敬されるほどの働き者だったこの女性は、仕事中に目が閉じてしまう症状で自動車事故を起こし、定年直前で退職せざるを得なかった。甲状腺機能充進症や化学物質過敏症の診断名も持っていた。まぶたの手術も受け、以後は症状が落ち着くからという理由で、複数のベンブジアゼピン(以下ベンゾ)系薬物(コンスタンR、エバミールR)を連用した。やがて、私の外来に来られたが、薬物性眼瞼痙攣の存在は明らかだった。ボツリヌス治療で小康を得ながら、ベンゾの減薬をした。

 

娘さんは手紙で、ベンゾを連用し始めるまでの苦痛、今度はベンゾの副作用つぃての眼瞼痙攣という難病との闘いの日々、そして、離脱中に生じたつらい離脱症状などを淡々と記述した後、

「母が亡くなり、5カ月が経ちました。涙が出ない日はありません。どうしてこんなに心優しく、才能溢れる人が医原病によって苦しめられ、自ら命を絶たねばならないのか。つらく苦しい思いをさせながら死なせてしまったという自責の念でいっぱいです」と吐露している。

 

患者は、自殺する7ヵ月前に私の外来を受診し、「コンスタンRはほぼ使用しなくなり、エバミールRも出掛ける前の日の睡眠導入剤として使うだけになり、体調も聴講です」と明るい表情で話していた。その日には都合25回目のボツリヌス治療を行ったが、その3ヵ月後の治療予約は変更され、さらに、その予約をキャンセルするという連絡があった。カルテの上に、その理由は書かれていない。

 

その間、何が起きていたのだろうか。

手紙には、「薬を飲まなくても眠れる日があるということで、危機感はありませんでした」と前置きし「しかし、年末にボツリヌスの効果が切れ始め、不眠、不安、筋肉の痛みなどの諸症状がこれまで以上に強く出て、注射(ボツリヌス治療)に行くことができませんでした」、そして「向精神薬の量が増え、どんどん悪化していきました。顎の痛み口の渇きが出て、食事がとれなくなり、やせました。毎日つけていた日記
も書けなくなりました」と綴っている。

 

ベンゾの副作用、また、その離脱中に離脱症候群の身体症状が出現したに違いない。

 

日本にはずっとベンゾの安全神話がある。そして、いったんそういう神話ができると、処方制限などの抜本的対策を取れない医療行政の体質がある。

 

GABA-A受容体作動薬はベンゾ以外にも多くあるが、この受容体に作用する薬物を何種類も処方されている患者をよく見かける。薬物は通常、単剤での治験が行われ、その評価をもって市場に出る。この場合、同じ受容体に作用する薬物が複数使われることは想定されていない。ここに大きな問題が隠されているのは自明であろう。

 

神話の犠牲になるのが患者だけというのは、同にも納得がいかない。

 

わかくら・まさと (経歴を引用から省略)


Categorised in: 社会・経済