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2016年4月4日

7620:地下に潜るカネ 米政府の監視強化は逆効果:記事紹介

地下に潜るカネ 米政府の監視強化は逆効果:記事紹介
By ROB BARRY and RACHEL LOUISE ENSIGN
眼科医清澤野コメント:地下にお金が潜らぬように、マネーロンダリングを避けるためにと理由は分りますが、50万円以上の送金では免許証を提示せよなどと面倒なことが多いです。この記事には納得ですけれど。

[要点]

 米銀はこれまで、不審な口座や管理が困難とみなされた個人・組織の口座を大量に閉鎖してきた。その中には、送金業者や外国銀行、海外を拠点とする非営利団体の口座も含まれる。米政府が最も目を光らせておきたい個人や団体などと共に、罪のない人までも金融システムから追い出されている。これは米政府も予測しなかったことだ。

 米通貨監督庁(OCC)長官は「合法的かつ透明性をもって行われるはずだった資金移転が水面下で行われることになりかねない」と懸念を表明した。

 多くの銀行はリスクがあるように見える口座はことごとく閉鎖してきた。そうなれば多額の資金が世界の銀行システムを通らなくなる。世界銀行は、米国で暮らす移民の海外への送金は2014年に540億ドル(約6兆円)に達したと推計する。送金業者82の業者のうち半数超が2014年に銀行口座を失った。また、約4分の1が廃業したか、もしくは法人口座なしで事業を続けている。「カネが地下に潜ってしまったら、法執行機関はなす術(すべ)がない」

○膨大なデータ

 2001年、金融機関から大量のデータが当局に上がってくるようになった。1日当たり5万5000件のペースで報告される顧客データは主に銀行や金融サービス事業者のもの。金融機関も昨年、テロ関連の資金の流れと疑われる動きを約2200件報告した。

○監視強化は逆効果

 テロに関連する資金の動きを探知するのは難しい。テロリストは通常、金融システムを利用しないうえ、たとえ利用する場合でも、不審な動き方もしないものだ。送金業者ウエスタンユニオンは現在、顧客の疑わしい動きを監視することに年間で2億ドルを費やしている。JPモルガン・チェースは現在、マネーロンダリング対策として約9000人の担当者を置いている。

○閉ざされたドア

 米当局は2005年に、送金業者は「特にマネーロンダリングの手段として利用されやすい」との通告を出した。90年代初めにソマリア政府が崩壊し、米国へ移住するソマリア人が10倍以上に膨らみ、ソマリアへの送金需要が急増した。

 口座の閉鎖によってワーサミ氏の会社の事業は、高いリスクを伴う現金運び業になった。ワーサミ氏は「あとどれくらい続けられるか分からない」と話す。

○ドバイから流れる資金

 ドバイの空港に到着し、検査が済み、ワーサミ氏は迎えの多目的スポーツ車にバッグを積み込んだ。現金はオフィスビルに運ばれ人目もはばからず下ろされた。このカネの大半はドバイから地下経済のパイプを通って融資や外貨両替、交易に使われる。何世代にもわたってアフリカ東部や中東ではこうして現金が流れてきた。

 地元政府の職員は「テロリストや犯罪者の手に資金が渡ることを恐れてカネの流れを遮断すれば、正体不明の個人や組織の利用を余儀なくされる。ますます透明性は失われてしまう」という。

ーーー本文引用ーーー
 【大西洋上空】米国発ドバイ行きの機内の7Gと書かれたシート。その頭上の手荷物入れには大量のドル札が入ったバッグがあった。数千枚におよぶドル札は20ドル、50ドル、100ドルの額面ごとに輪ゴムとビニール袋で束ねられていた。

 この現金を機内に持ち込んだのはソマリア人の移民で、米中西部にある送金会社の従業員アブディ・ワーサミ氏だ。ワーサミ氏が働く会社は昨年、国際銀行システムから締め出されたため、人の手で現金を運ぶことを余儀なくされているのだ。

 それ以来、同社が扱う現金は米国の金融システム上には出てこなくなった。ドバイに到着した紙幣はその後、貿易や融資、さらにはアフリカ東部や中東へ広がる送金といった不透明な資金の流れの中に消えていった。
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 米銀はこれまで、不審な口座や管理が困難とみなされた個人・組織の口座を大量に閉鎖してきた。その中には、送金業者や外国銀行、海外を拠点とする非営利団体の口座も含まれる。何か良からぬことに使われるかもしれないとの恐れから口座を閉鎖しているのだが、そうすることで、米政府が最も目を光らせておきたい個人や団体などと共に、罪のない人までも金融システムから追い出されている。これは米政府も予測しなかったことだ。

 米通貨監督庁(OCC)のトーマス・カリー長官は3月、この潜在的な危険性を指摘。長官はワシントンで開催された銀行と規制当局の国際カンファレンスで、「合法的かつ透明性をもって行われるはずだった資金移転が水面下で行われることになりかねない」と懸念を表明した。

 通信各社が米国家安全保障局(NSA)に力を貸したのと同様に、銀行などの金融機関はテロ行為やマネーロンダリング(資金洗浄)に関連すると思われる兆候があれば、それを特定し、かつ報告するよう米当局から協力を求められている。

当局に報告された不審な送金の件数
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 不審な動きを見逃して巨額の罰金が科せられることを恐れ、多くの銀行はリスクがあるように見える口座はことごとく閉鎖してきた。こうして銀行から締め出された企業は、例えば、現金をバッグに詰めて運ぶというような他の選択肢を模索することになる。そう指摘するのは、米連邦議会の調査機関である政府説明責任局(GAO)による問題の検証を求めた超党派の議員グループだ。そうなれば多額の資金が世界の銀行システムを通らなくなる。

 世界銀行で送金の流れを調査する部門のヘッドエコノミスト、ディリップ・ラーサ氏は「全体的な資金の流れが水面下で行われるようになれば、追跡を可能にするという当初の目的にとっては逆効果になる」と話した。「これは少し矛盾している」

 米当局者は、銀行が顧客の口座を片っ端から閉鎖することを想定していたわけではなかったと話す。リスクのある口座は管理されるべきであり閉鎖されるべきではないと述べた。

 世界銀行は、米国で暮らす移民の海外への送金は2014年に540億ドル(約6兆円)に達したと推計する。送金業者にはウエスタンユニオンやマネーグラム・インターナショナルといった世界的大手から冒頭のワーサミ氏が働いているような小さな業者まである。

 世界銀行が最近、送金業者を対象に調査した結果によると、回答のあった82の業者のうち半数超が2014年に銀行口座を失ったと回答した。また、約4分の1が廃業したか、もしくは法人口座なしで事業を続けている。

 連邦捜査局(FBI)の金融犯罪部門で責任者を務めるパトリック・ファロン氏は「これは想像もつかないほど恐ろしい事態だ」と話す。「カネが地下に潜ってしまったら、法執行機関はなす術(すべ)がない」

膨大なデータ

 2001年に米愛国者法が通過して以降、報告義務が強化されたことで、銀行をはじめとする金融機関から尋常でない量のデータが当局に上がってくるようになった。

 1日当たり5万5000件のペースで報告される顧客データは主に銀行や金融サービス事業者のものだが、カジノや株のブローカー、保険会社などからも入ってくる。同法は顧客が1万ドルを超える送金を実施した場合に報告を義務づけている。2001年以降に累積した2億2000万件の報告のうち約2億件がこれに当てはまる。

マネーロンダリング対策などに関連する罰金額の推移(単位:10億ドル)

 米政府のコンピューターシステムがこの膨大なデータを精査し、過激派組織「イスラム国」(IS)など外国のテロ組織に関連する動きを、ひと月に最多で1000件ほど抽出する。当局によると、抽出されたデータは捜査当局に渡されるという。一方、金融機関も昨年、テロ関連の資金の流れと疑われる動きを約2200件報告した。

 不審な動きの中身は極秘扱いだ。その存在を明かすことさえ連邦法違反になる。当局の監視網にマークされている顧客は決して知らされない。自分たちの報告が逮捕につながったかどうかを銀行が知ることもほとんどない。当局も捜査過程のどこで、こうした報告が使われたかを明かすことはない。

監視強化は逆効果

 ただ、テロに関連する資金の動きを探知するのは難しい。元FBI捜査官でテロ関連の金融の動きを担当する部門で責任者を務めたこともあるデニス・ローメル氏によると、テロリストは通常、金融システムを利用しないうえ、たとえ利用する場合でも、やりとりされる金額が警戒感を招くほど大きくなかったり、不審な動き方もしないものだという。

 2001年9月11日の同時多発テロのときがまさにそうだった。当時の探知システムでは、ハイジャック犯とその銀行口座の動きを把握することができなかった
2015年に発覚したテロ関連の送金は当局に報告された不審な取引440万件余りのうち2188件だった。
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 オクラホマ州にあるグレートプレーンズ・ナショナル・バンクのコンプライアンス(法令順守)チーフ、モーリーン・キャローロ氏は、来店客をよく観察し血走った目や落ち着かない態度といった不審なことがあってもすぐには行動に出ないようスタッフを教育していると話す。キャローロ氏の仕事は、銀行と顧客の関係が根本的に変わったことを物語っている。「(顧客には)ただ笑顔で『よい一日を』と言う」だけにして、その後で政府に報告書を上げるよう従業員を訓練していると同氏は言う。

 ウエスタンユニオンは現在、中東のリスクの高い地域への送金など、顧客の疑わしい動きを監視することに年間で2億ドルを費やしている。同社は2010年にマネーロンダリングに関連した裁判で、アリゾナ州を含む4州に和解金9400万ドルを支払うことで合意した後、監視体制を強化した。

 2014年にはJPモルガン・チェースがナスダック・ストック・マーケット元会長のバーナード・マドフ受刑者による巨額詐欺事件にからみ、取引銀行として不正行為を察知できる立場にあったにもかかわらず、当局への報告が不十分だったなど、責任の一部を認め、17億ドルの罰金を支払った。同行は現在、マネーロンダリング対策として約9000人の担当者を置いているほか、リスクが高いとみなされた数千人におよぶ顧客との取引を停止した。

 ただ、当局による現行の監視システムの対象が広すぎるために、その効果が減殺されている可能性があると指摘するバンカーもいる。バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)のコンプライアンス・エグゼクティブで元連邦検察官のジャイクマール・ラマズワミ氏は「やましい人物に焦点を絞るのではなく、無実の人を追跡することに、自分がどれだけの時間を費やしているかに驚いた」と話す。

 現在の監視システムは、干し草のなかの針を探す代わりに、「すべての干し草を1本ずつ調べて、これは針ではなく干し草であることを示すよう」銀行に求めているようなものだとラマズワミ氏は指摘する。

閉ざされたドア

 1990年代に米当局はソマリア最大の送金業者アルバラカートが、国際テロ組織アルカイダおよびその指導者ウサマ・ビンラディン容疑者とつながりがあるとの情報を得た。2001年の9・11同時多発テロ後、当局はアルバラカートがビンラディン容疑者の金融ネットワークの一角を占めていると述べた。

 9・11テロの調査委員会の報告によると、捜査当局はアルバラカートの金融取引に関する数千枚におよぶ書類を精査した結果、テロ行為とのつながりはないと結論づけた。

 米規制当局はそれでも、送金業者は全般にリスクがあるとの考えを文字にし続けた。米当局は2005年に、送金業者は「特にマネーロンダリングの手段として利用されやすい」との通告を出した。

 2011年には銀行の規制当局が送金業者をエスコートサービス業者やオンライン賭博業者と同様に扱うよう通告した。

 ワーサミ氏の会社が事業を始めた1998年はソマリアへの送金事業が急速に伸びていた頃だった。90年代初めにソマリア政府が崩壊したことで、米国へ移住するソマリア人が10倍以上に膨らみ、ソマリアへの送金需要が急増した。

 米連邦法は送金業者にマネーロンダリングやテロ関連の動きを探知できるような業務手順を設けるよう義務づけている。ワーサミ氏の会社を例にとると、同社は顧客に身元確認のための書類を求め、政府の要注意人物リストと照合し、規制当局による調査も行われる。ワーサミ氏自身や会社が当局から告発されたことは一度もない。

 だが2008年から、銀行が次から次へと同社の口座を閉鎖し始めた。2010年に同社はカリフォルニア州のマーチャンツ・バンクを主要取引銀行にしたが、2014年半ばに通貨監督庁(OCC)は、ソマリアで事業を展開する複数の送金業者と取引しているマーチャンツ・バンクに圧力を加え始めた。

 OCCは送金業者を酒屋や質屋、宝石ディーラ-、洗車業者、医療用のマリフアナ薬局などと同じカテゴリーに分類したうえで、マーチャンツ・バンクに対して「資金の出所や使途の合法性が担保されない限り」これらの業者との取引を中止するよう命じた。

 マーチャンツ・バンクはワーサミ氏の会社に、アフリカ以外の55カ国に送金先を制限しない限り、同社の口座を閉鎖すると通知した。OCCの報道官はワーサミ氏の会社のケースについてはコメントできないとしながらも、「OCCが銀行に対し、特定口座の閉鎖を命じるために公権力を行使することはありうる」と述べた。マーチャンツ・バンクはコメントを避けた。

 口座の閉鎖によってワーサミ氏の会社の事業は、高いリスクを伴う現金運び業になった。ワーサミ氏は「あとどれくらい続けられるか分からない」と話す。

ハルゲイサの市場の両替商 Photo: Rob Barry/The Wall Street Journal
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ドバイから流れる資金

 ドバイの空港に到着すると、ワーサミ氏が神経質になった。空港職員の一人がエックス線検査装置を通るワーサミ氏の手荷物を見ている。そして職員はバッグをつかむと尋ねた。「出発地はどこですか?」

 ワーサミ氏は米国のパスポートを職員に渡した。バッグとパスポートを持った職員が裏の部屋に入っていき、ワーサミ氏も職員の後に続いた。その部屋で複数の職員はワーサミ氏が所持していた米財務省宛ての書類の写しを確認、記載されている金額とバッグの中身を照合した。この書類は出発空港で作成したものだ。 

 検査が済み、ワーサミ氏は迎えのSUV(多目的スポーツ車)にバッグを積み込んだ。現金はオフィスビルに運ばれ人目もはばからず下ろされた。誰も心配していないようだった。ドライバーはこうジョークを飛ばした。ドバイでは盗みをはたらくと手を切り落とされてしまうからね、と。

 このカネの大半はドバイから地下経済のパイプを通って融資や外貨両替、交易に使われる。何世代にもわたってアフリカ東部や中東ではこうして現金が流れてきた。

ハルゲイザの市場に積まれたソマリランド・シリングの札束 Photo: Rob Barry/The Wall Street Journal
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 ソマリアの首都ハルゲイサにある送金業者の事務所。ひっきりなしに人が出入りしている。カウンターの後ろにある扉のない金庫はドルの札束でいっぱいだ。パソコンの前に座っている従業員たちが、顧客の身元を確認する書類――有権者登録証、運転免許証、学校発行の書類――を調べたうえで、現金を渡していた。

 ハルゲイサはソマリアからの分離独立を宣言した同国北西部の「ソマリランド」の首都だ。ソマリランドは国際社会からは独立国家としては認められていない。ここは世界経済からはるかに隔離されているが、必死につながろうとしている。

 米国に住む多くのソマリア移民と同様に、ワーサミ氏も祖国に送金している。97歳の父親に毎月300ドル程度を送っているのだ。ワーサミ氏はいつ送金できなくなるかと心配していると話す。戦争で荒廃したソマリアの経済は、その4分の1程度が外国からの送金で成り立っている。

 地元政府の職員、サード・アリシャイア氏は「テロリストや犯罪者の手に資金が渡ることを恐れてカネの流れを遮断すれば、正体不明の個人や組織の利用を余儀なくされる。ますます透明性は失われてしまう」

Categorised in: 社会・経済