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2018年4月22日

9795:糖尿病網膜症の治療戦略:現状と未来(山下英俊先生);聴講印象記

糖尿病網膜症の治療戦略:現状と未来(山下英俊先生);聴講印象記
特別講演 1 2018年4月21日(土) 13:45-14:45 第1会場

特別講演1
糖尿病網膜症の治療戦略:現状と未来
山下 英俊 :山形大

厚生労働省の糖尿病実態調査によると糖尿病患者数は急激に増加している。最新の平成28 年度調査では糖尿病が強く疑われる患者数は約1000 万人となっており、平成19 年度の約890 万人からわずか9年間で110万人増加 したと推計される。
糖尿病網膜症患者数は約 300万人、増殖糖尿病網膜症患者数は約70万人、糖尿病黄斑浮腫約 65万人と推計される。厚生労働省班研究によると、平成27年度-28年度調査での日本における視力障害の原因として、糖尿病網膜症は緑内障、網膜色素変性についで3位(12.8%)となっており、平成19年~平成22年度の調査によると視力障害者のピークは60歳代であっ た。
 このような疫学的はデータは糖尿病網膜症は、眼科医療の中で大きな問題となるだけでなく、働き盛り世代に視力障害を 引き起こす社会的負荷となっていることを示している。厚生労働省の推進する健康日本21の目標達成、すなわち「平均寿命延伸のみでなく健康寿命延伸」を達成するためには視力障害者数を減らす必要がある。このためには糖尿病網膜症による視力低下、視力障害増加 を抑制する戦略が必要である。
 本講演では、生涯にわたり糖尿病患者の視力を保持する治療戦略について考察する。

 1.糖尿病網膜症の分子病態と目指すべき治療戦略:
糖尿病患者における高血糖、高血圧等の全身状態により網膜のとくに毛細血管の血管内皮細胞障害が引き起こされ、続いて起こる網膜の循環障害、網膜虚血が網膜組織を障害する。この病態は炎症の分子メカニズムと同様と考えられ、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor(VEGF)、インターロイキンなど多くのサイトカイン、生理活性物質が関与する。その結果網膜症、黄斑浮腫を引き起こされる。
眼科医が目指すべき網膜症・黄斑浮腫の治療戦略は、上記の分子メカニズムに基づいて個々の患者の網膜症・黄斑浮腫の病態を把握し、治療薬の眼局所投与、網膜光凝固、硝子体手術など適切な眼科治療を適切な時期に選択し実行するテーラーメイド医療の確立である。

2.眼科医による治療の実際:糖尿病患者で網膜症・黄斑浮腫による視力障害を阻止する戦略(二次予防の戦略)としては、まず網膜血管障害を引き起す高血糖、高血圧など全身因子の管理が重要である。さらに、網膜症進展を抑制する治療法としては、網膜光凝固による増殖網膜症(新生血管をともなう重症網膜症)への進展の阻止、high risk増殖網膜症への進展の阻止、そして、増殖網膜症により低下した視力回復を目的とした硝子体手術がある。また、糖尿病黄斑浮腫治療法には、黄斑浮腫の分子メカニズムが炎症と同様のメカニ ズムであることを基ととした抗炎症薬としてステロイド薬の眼局所投与、黄斑凝固、近年発展した抗VEGF薬治療(眼内注射)、小切 開硝子体手術などがある。糖尿病網膜症・黄斑浮腫による失明の抑制のみでなく生涯にわたる視力の保持、回復を目指すためには、これら先端的治療法を適切な時期にバランスよく組み合わせる集学的な治療により視力の保持・回復めざす治療戦略の確立が重要である。

3.今後の課題:テイラーメイド医療による治療法を選択を実効あるものにするためには;
①個々の患者の適切な治療法選択のために有用な病態把握マーカー・セットを構築し、それぞれのマーカーの評価方法を確立する。
②新しい分子ターゲットに対する新しい発想での治療薬の開発、薬物の投与法の開発をする。 これらが必要である。

眼科医清澤のコメント:この抄録では具体的なオリジナル数値が多くは含まれていませんが、講演ではそれが述べられており、納得して拝聴できるご講演でした。この講演は日眼会誌に間もなく原著が出るはずです。山下英俊先生は先年仙台での日本眼科学会を主宰され、山形大学の医学部長を務めた嘉山先生と山形大学医学部の運営にも力を尽くされたと伺っています。

Categorised in: 糖尿病網膜症・加齢黄斑変性 (網膜疾患)