お問い合わせ

03-5677-3930WEB

ブログ

2017年4月9日

8749:ベーチェット病の新規の疾患感受性遺伝子および発症メカニズムを解明:記事紹介

8749:ベーチェット病の新規の疾患感受性遺伝子および発症メカニズムを解明:論文紹介

清澤のコメント:今回の学会では全ゲノム解析の話を多数聞くことが出来ました。本日紹介された竹内正樹先生の留学中のお仕事が出版されていると伺いましたので、横浜市立大学のページからプレスリリースを読んでみました。その概要を採録します。
 手法としては東京大学の蕪城先生が責任者として進め、私の診療所と井上眼科病院でサンプルを集めている眼瞼痙攣の全ゲノム解析と同じ手法です。

 --記事の概要採録--
2017.02.07
ベーチェット病の新規の疾患感受性遺伝子および発症メカニズムを解明

横浜市立大学学術院医学群 眼科学の竹内正樹博士と水木信久主任教授、目黒明特任講師らは、厚生労働省の特定疾患(難病)の一つであるベーチェット病を対象とした過去最大規模の遺伝子解析研究をアメリカ国立衛生研究所、トルコ・イスタンブール大学などと共同で行い、ベーチェット病の遺伝要因(疾患感受性遺伝子)および発症メカニズムを詳細に解明した。

ベーチェット病は原因不明の全身性炎症性疾患で、長期間にわたり再発と寛解を繰り返し、重症例では眼病変によって失明に至ることもある。本研究により、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子として新たに「IL1A-IL1B」、「RIPK2」、「ADO-EGR2」、「LACC1」、「IRF8」、「CEBPB-PTPN1」領域が同定された。

また、同定した遺伝子の機能解析により、IL1A-IL1BのSNP*1のリスクアリルを2個保有する人においてIL-1βが増加し、またIL-1αが低下していることが明らかになった。このことから、IL-1αの皮膚バリア機能の低下によって、侵入した病原体への過剰なIL-1βを介した免疫反応がベーチェット病の発症メカニズムに関与することが示唆された。

さらに、本研究において同定された疾患感受性遺伝子の多くが、炎症性腸疾患であるクローン病や、感染症であるハンセン病と共通することが分かった。これらの成果により、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子や発症メカニズムが解明されただけでなく、将来的には個人の遺伝情報に基づいた、効果的で副作用の少ない新たな治療薬の開発が期待される。

zu1_mizuki
(図1)本研究により見出されたヒトゲノム全域におけるSNPとベーチェット病の関連性 グラフ内に約13万個のSNPをプロットした。横軸が染色体ごとのSNPの位置を示し、縦軸がベーチェット病との関連性の強さを示す。上に位置するSNPほど、ベーチェット病との関連性が強くなる。本研究によって新規に同定された疾患感受性遺伝子領域を赤字で記した。

mp-01-0000(清澤注:Manhattan plot:ゲノムワイド関連解析で得られた各SNPのP値(-log10)を縦軸に、染色体上の位置を横軸にとった上のような図をManhattan plotと呼ぶそうです。この図のイメージなのでしょう。)

◎ヒトの遺伝情報はほとんどが共通しているが、0.1%程度の個人差(多型性)があることが知られている。その個人差の一つである一塩基の変異による多型は一塩基多型(SNP)と呼ばれ、疾患との関連について今日まで多くの研究が行われてきた。

特に、2000年代後半からはマイクロアレイを用いてゲノム全体を網羅するSNP解析(GWAS*5)が可能となった。ベーチェット病では、2010年に水木信久主任教授らのグループが行ったGWASにより、新規の疾患感受性遺伝子としてIL10およびIL23R-IL12RB2の2遺伝子領域が世界で初めて報告された。

その後、他の報告によって、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子が複数同定されてきましたが、ベーチェット病の遺伝要因および発症メカニズムの全容は依然として解明されていなかった。

◎研究の内容
Immunochipを用いたベーチェット病の遺伝子解析を行うため、日本・アメリカ・トルコ・ポルトガル・イランの5カ国に及ぶ国際共同研究を遂行した。本研究では、日本人・トルコ人・イラン人集団の患者計3,477例および健常者計3,342例を用いて遺伝子解析を実行した。

次に、疾患と強い相関を示したIL1A-IL1B領域のSNP(rs4402765)を対象に、IL1A遺伝子およびIL1B遺伝子の機能解析を行った結果、rs4402765のリスクアリルを2個保有する人において、IL1B遺伝子からコードされるIL-1βが有意に上昇することが分かった。

IL-1βは炎症性サイトカインの一つであり、病原体に対する生体の免疫反応において重要な役割を担っている。ベーチェット病患者ではIL-1βが上昇していることや、治療にIL-1β阻害薬が有効であることが報告されており、本研究の発見はこれらの知見に沿ったものと言える。

一方、IL1A遺伝子からコードされるIL-1αはrs4402765のリスクアリルを2個保有する人において有意に低下していた。IL-1αは表皮に多く発現する炎症性サイトカインであり、皮膚での生態防御に関与しているため、リスクアリルを2個保有する人では病原体に対しての皮膚のバリア機能が弱くなっていることが示唆される。

本研究の結果から、rs4402765のリスクアリルを2個保有する人では、バリア機能の低下によって体内に侵入した病原体に過剰な免疫応答が起き、ベーチェット病の発症につながっている可能性が示唆された。

本研究で同定された遺伝子の多くは炎症性腸疾患の一つであるクローン病と共通していました。クローン病とベーチェット病は臨床像に多くの共通点があり、本研究の結果から両疾患の遺伝的背景も近いことが分かりました。さらに興味深い事に、ベーチェット病の疾患感受性遺伝子はハンセン病とも多く共通していました。ハンセン病はらい菌による感染症であることからも、ベーチェット病の発症に病原体が関与していることが強く示唆される。

用語解説(主要なもの)

*1 SNP
single nucleotide polymorphism(一塩基多型)の略。ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなるとされているが、個々人を比較するとそのうちの 0.1%の塩基配列に違いがあると見られており、これを遺伝子多型と呼ぶ。遺伝子多型のうち、1つの塩基が他の塩基に置き変わるものをSNPと呼ぶ。SNPは最も多く存在する遺伝子多型である。遺伝子多型のタイプにより遺伝子をもとに体内で作られるタンパク質の働きが微妙に変化し、疾患の罹り易さや医薬品への反応に変化が生じる。

*5 GWAS
genome-wide association study(ゲノムワイド関連解析)の略。ゲノム全域を網羅する遺伝子多型(主にSNP)を対象に、ある疾患を持つ群と持たない群との間で統計学的に有意な頻度差を示す遺伝子多型を検索する手法。
  -----

掲載論文
Takeuchi M, Mizuki N, Meguro A,et al Dense genotyping of immune-related loci implicates host responses to microbial exposure in Behcet’s disease susceptibility. Nat Genet. 2017 Mar;49(3):438-443 (確定しています)

Categorised in: 糖尿病網膜症・加齢黄斑変性 (網膜疾患)