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2016年8月4日

8015:「糖尿病合併症」看護師の荒川さんが書いた論文が出版されました

昨年の糖尿病眼学会で当医院の看護師荒川和子さんが講演したシンポジウム演題(糖尿病と糖尿病性眼筋麻痺 第21回日本糖尿病眼学会総会 シンポジウム4 糖尿病合併症の療養指導 2015.11.28)を基にした日本語の論文が出版されました。テキストは後から記事に取り上げますが、まずはJPEGを採録いたします。

「糖尿病合併症」表紙

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糖尿病と糖尿病性眼筋麻痺

荒川和子1)2) 江本博文1)3)、清澤源弘1)
1)深志清流会 清澤眼科医院、2)NPO法人目と心の健康相談室、3)秀和総合病院

はじめに
糖尿病合併症予防は眼科的には網膜症の予防治療が大切であるが、なかには糖尿病性眼筋麻痺を合併する患者も来院する。一方で、眼筋麻痺発症から糖尿病が発見される場合もあり、眼科外来で多彩な糖尿病の症状に関する知識やケアの必要性も生じる。
そこで今回、清澤眼科医院の神経眼科専門外来において、糖尿病患者および糖尿病性眼筋麻痺患者の実態を調査し、神経眼科を専門とする眼科クリニックにおける看護師の役割について考察した。

1 対象及び方法
対象期間:2009年8月~2014年8月までの5年間
方法   :糖尿病、ないし糖尿病網膜症の病名のついているカルテから、年齢、性別、HbA1c、網膜症の有無、程度を調査した。また、眼筋麻痺の主訴で受診した患者で「糖尿病」と診断された患者のカルテから、年齢、性別、HbA1c,MRI所見を調査し糖尿病性眼筋麻痺患者の受診経過を調査した。
糖尿病性眼筋麻痺の患者は当院神経眼科専門外来で、血液検査、頭部MRI/MRAなど精査を行い、他の原因疾患を除外して糖尿病性眼筋麻痺と診断した。

2 結果
当院眼科外来での糖尿病患者
2014年4月から8月までの4カ月間に当院を受診した延患者総数は10074名だった。そのうち糖尿病罹患患者は、男性72名、女性44名の計116名で受診患者の約1割で、患者の平均年齢は64.8才だった。網膜に関しては、網膜症なしが64名、単純網膜症15名、前増殖性は15名、増殖性は9名であった(図1)。受診患者のHbA1cは、7%未満が52名、7%以上10%未満が41名、10%以上が5名だった(図2)。

糖尿病性眼筋麻痺
当院神経眼科専門外来に眼筋麻痺で受診した患者の中で、原因が糖尿病と診断されたのは5年間で18名、年齢は52歳~79歳(平均 68歳)だった。男性は16名、 女性は2名で、HbA1c: 5.2~11.1%、平均は8.1 %だった。
MRIでは、正常2名(11%)、多発性脳梗塞16名(89%)、脳幹梗塞は1名(6%)で、多発性脳梗塞が多く見られた。うち、高血圧と多発性脳梗塞を合併している例が多く見られ、14名(78%)だった。
眼筋麻痺の回復は、発症後1か月以内からが11名(61%)で、2か月目1名(6%)、3か月目1名(6%)だった。4か月目以降は4名(21%)で、改善が見られなかった症例は1名(6%)だった。麻痺を支配神経別にみると、外転神経麻痺が78%、動眼神経麻痺が11%、滑車神経麻痺が11%であった。

症例
72歳男性。糖尿病罹患歴10年。HbA1c 7.8%。
2日前に突然、ものがダブってみえるようになった。頭痛や目の痛みはない。かかりつけのA糖尿病内科受診し、内斜視を認め、頭部CTを撮影。脳出血など認めず、また片麻痺など、他の神経症状がないため、B眼科へ御紹介となった。
B眼科では、さらなる精査を勧められ、他のC総合病院眼科を紹介された。
C総合病院眼科では、外転神経麻痺と診断されたが、糖尿病による外転神経麻痺かどうか精査が必要なため、D神経内科紹介となった。
D神経内科では頭部MRI、髄液検査など精査を行ったが、特に異常なく、糖尿病性と考えられた。しかし、神経内科ではヘスチャートでの眼球運動の評価ができないため、
E神経眼科へ紹介となった。ヘスチャート上、右外転障害を認め(図3)、精査で他の原因疾患が除外され、糖尿病性外転神経麻痺と診断された。3カ月後、眼球運動は徐々に改善が見られたが6カ月後に内斜視が残存した。12カ月後、残余内斜視に対し、斜視手術が施行され、正面での複視は消失した。

3.考察
糖尿病性眼筋麻痺は一般的には糖尿病眼合併症全体の2%程度で、50歳以上の高齢者に多く、急性発症、一側の外転神経麻痺や動眼神経麻痺が多く、しばしば、再発が見られるとされている。動眼神経麻痺でも瞳孔機能は保たれ、約半数例で発症前から眼窩内や眼周囲に痛みを伴う。糖尿病の罹病期間・コントロール状態・眼底所見には関連がみられないとされる。
外眼筋麻痺疾患の中では、糖尿病性のものは珍しくないとされているが、当院神経眼科専門外来での糖尿病性眼筋麻痺は新規眼筋麻痺患者全体の5%で、頻度はあまり高くなかった。麻痺神経は、外転神経(78%)が多く、動眼神経(11%)はむしろ少ない結果であった。 他の合併症としての糖尿病網膜症、糖尿病性末梢神経障害の合併は全例で認められなかった。腎障害は1例(6%)のみにあった。麻痺の完全回復例は94%で、長期にわたって麻痺が残存した患者は6%だった。麻痺の回復が始まる時期は1か月以内が最も多く61%で、発症後4~6か月に回復が始まる例もあり21%であった。完全回復例の平均HbA1cは8.1%で、麻痺残存例のHbA1c: 6.3%よりむしろ高値だった。網膜症、腎症、神経症の三大合併症を認めることは少なかった。糖尿病性腎症(6%)、高血圧(89%)、多発性脳梗塞(89%)、および高血圧と多発性脳梗塞の合併(78%)が多くみられた。

患者は、突然ダブってみえる、歩くのが怖い、目が疲れる、脳の障害が心配などの訴えで来院していた。このように、糖尿病性眼筋麻痺は、複数の診療科にまたがる病態であることから、診療科や病院を転々とし、不安が募る場合が多い。また、複視があるため、インスリン自己注射に影響が出たり、歩行時に転倒したりするなどの危険がある。さらに交通の便が悪い地域、車を運転しないと生活に困るところでは、無理に運転して事故をおこす可能性もある一方、運転できず買い物にも行けないと訴える患者もいる。これらの問題を速やかに解決するには、

① 眼科は各診療科と緊密に連携がとれる状態で診療をすすめる。難しい症例は神経眼科への紹介を考慮する。

② 不安や不自由、転倒の危険、生活困難もあるため医療スタッフが話を聞き、ケアやサポートを行う。
斜視は整容的にも問題となるが、糖尿病性眼筋麻痺では1~6カ月かけて徐々に改善することが多いことを明確に伝えることで不安を和らげることができる。

まとめ
糖尿病眼合併症に対応するには、糖尿病の合併症全体像を理解し、幅広い知識をもって眼科看護の専門性を発揮し、患者の些細な疑問や不安にも応える体制を整えることが重要である。そのためにも糖尿病患者の受診状況を把握し、患者が糖尿内科と眼科の受診を継続できるように関わることが必要となる。

参考文献
鈴木利根:糖尿病に合併する眼筋麻痺の疫学と診断 日本糖尿病学会誌 19: 52-54(2014)
清澤源弘:眼科領域に見られる糖尿病性ニウロパチー.Diabetes Frontier 1:252-256(1990)

図1 糖尿病性網膜症

図2 糖尿病性網膜症患者のHbA1c

図3 ヘスチャート(右外転神経麻痺)

Categorised in: 糖尿病網膜症・加齢黄斑変性 (網膜疾患)