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2019年5月20日

10735:遺伝子編集が、人間に「痛みからの解放」をもたらす日が見えてきた

遺伝子編集が、人間に「痛みからの解放」をもたらす日が見えてきた

 眼科医清澤のコメント:眼瞼けいれんその他で目や顔面の知覚過敏(痛み)に苦しむ人がいます。その様なケースに適応できるかもしれないという遺伝子組み換えと症例報告のニュースです。症例の元記事は:

British Journal of Anaesthesia Case report :Microdeletion in a FAAH pseudogene identified in a patient with high anandamide concentrations and pain insensitivity

――記事要旨――2019.05.20 MON 07:00(wired: https://wired.jp/2019/05/20/crispr-gene-editing-could-one-day-cut-away-human-pain/)

一部の人にごくまれにみられる無痛覚は、遺伝子の変異によるものだ。医学研究者のなかには遺伝子編集によって薬を使わず痛みに対処するまったく新しい治療法の可能性がひらかれるだろうと予測する人もいる。

患者は自分の体に出血を見つけるか、肌の肉が焼けるにおいを感じて初めて、何かまずいことが起きたことに気づくのだという。彼女は、自分が痛みや恐怖、不安とほぼ無縁の人生を送ってきたことを明かした。これはDNAの一部が欠けているからだ。

彼女が手術で入院したとき彼女は神経ブロック麻酔が切れたあとに、鎮痛剤の処方を断った。奇妙なことに彼女は、どんな傷を負っても他人より早く回復するうえ、不安や憂鬱、恐怖といった感情を、記憶にある限り一度も抱いたことがない。研究の結果、彼女の超人的な無痛覚の原因と考えられる前例のない変異が特定された。研究の結果は、今年3月26日付で掲載されている。

「無痛覚」の光と闇

痛みのような複雑な感覚が、たったひとつの遺伝子によって制御される事例はヒトにおいては珍しい。研究者たちは数十年前から、同じような無痛覚を示すまれな家系を調査してきた。そうした人々のDNA内には少なくともひとつ、苦痛の強さを調節する機能をもつ別の遺伝コードの配列があることが発見されている。製薬会社はこうした効果を模倣できる薬剤の臨床試験に力を入れているが、CRISPRの台頭によりさらに興味深い可能性も生まれた。

遺伝的な無痛覚は、いずれデザイナーベビーの人気オプションのひとつになるかもしれない。あるいは悪くすれば、21世紀の戦争において、スーパー兵士として悪用される可能性さえある。

遺伝子編集によるトレードオフは未知数

次世代の遺伝子を恒久的に操作しようという動きは、「わたしたちには種の進化の方向を決定づけるほどの知恵があるのか」という問いに関する激しい倫理的論争と、実践面での課題のふたつによって、いまところ抑制されている。課題というのは、DNAの働きがたいていひと筋縄ではいかないことだ。ひとつの遺伝子をノックアウトしたり、コードを書き加えたりすることで、予想外の問題が生じるかもしれない。

痛みの永続的な治療法になる?:キャメロンの遺伝子の変異を特定したのは、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの分子遺伝学者ジェームズ・コックスのチームだ。同チームは現在CRISPRをヒト細胞株に適用し、彼女のDNAにみられる微小欠失を模倣することで、その影響の全容解明を試みている。問題の変異は、「FAAH-OUT」と呼ばれる偽遺伝子(たんぱく質をコードしないが、ゲノムの他領域の制御因子となる長いRNA断片をつくる遺伝子)上にあるために治療法が複数考えられる。FAAH-OUTの産物を抑制する補完的RNA配列をつくり、体に注射することにより、一時的かつ局所的に痛みを取り除けるかもしれない。

彼らは永続的な治療法も視野に入れている。つまり、細胞内のDNAを直接編集して、キャメロンと同じような痛みをブロックする微小欠失を再現するのだ。「まだ初期段階ですから、考慮すべきことはたくさんあります」と、研究者は言う。

痛みの「スイッチ」をつくる研究も

痛みを感じる能力は、生きていくうえで不快な側面もあるが、それを止めるのは危険でもある。ピッツバーグ大学で遺伝子療法と疼痛管理を研究する微生物学者ジョゼフ・C・グロリオーソは、「CRISPRの課題は、標的の細胞だけを正確に操作できるかどうかです。この場合は、脊髄のあちこちにあり、軸索を体中に張り巡らせて痛覚をもたらしている神経節が標的です」と語る。

グロリオーソは14年、慢性痛の遺伝子治療の開発を目指すスタートアップ、Coda Biotherapeuticsを共同創業した。これまでに1,900万ドル(約21億円)の資金を調達した同社は、ヒトの感覚ニューロンの受容体を操作し、低分子医薬品でコントロールする方法の確立を目指している。

これは関節炎、背中のむち打ち、がん治療による神経損傷など、さまざまな神経因性疼痛の原因である過剰興奮状態の神経に、自然界にあるウイルス(ベクター)を侵入させる方法だ。一度の皮下注射でウイルスを標的の神経細胞に送り込み、オン・オフ操作のスイッチをつくる設計図を挿入する。

遺伝子編集で痛みを制御できる未来

この薬を患者が痛みを感じたときに服用すると、ニューロンの電気的活動が停止して痛みの感覚が遮断される。この方法は、全身性の副作用を最小限に抑えられるうえ、依存性になるリスクも低い。

グロリオーソいわく、この実験的な治療法は今後18~24カ月のうちに臨床試験開始の準備が整う見通しだという。Coda Biotherapeuticsは臨床試験を、まずは現状では治療不可能な激しい痛みをもつ患者を対象にスタートする。しかし、これと同じ原理は、その他の神経症状、例えば不安の治療にも応用可能だとグロリオーソは言う。

遺伝子編集で痛みを制御できる未来は、想像以上にすぐそこまで迫っている。

Categorised in: 神経眼科