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2018年10月2日

10156:アルツハイマー病変の早期検出はどんな可能性をひらくのか

清澤のコメント:東北大工学部出身の田中耕一博士が優れた医学に関する研究をさらに進めているという噂を伺いました。今回の医学界新聞にその研究の解説が出ていました柳澤 勝彦氏(国立長寿医療研究センター研究所長)のインタビュー抜粋

◎国立長寿医療研究センターと島津製作所は,アルツハイマー病変(脳へのアミロイドβ蓄積)をわずか0.5 mLの血液から検出する手法を確立し,2018年2月のNature誌に発表した。

根本的治療薬開発の道筋をつける

◎根本的治療をめざし,アミロイドβ(Aβ)の産生を抑制するBACE阻害薬などの開発が進められてきたが,臨床試験中止が相次いでいる。 アルツハイマー病の薬はいずれも対症療法的な薬で,神経細胞死を止められない。 

◎臨床試験に二つの問題があった。①介入のタイミングが遅すぎた。患者の脳では認知機能低下が始まる20~30年も前からAβ蓄積が起きている。②被験者にアルツハイマー病以外の認知症患者が含まれていた可能性。

図1 アルツハイマー病の時間軸

◎血液を用いたAβ蓄積の検出法を開発した。:用いるのは血液0.5 mLで,安全簡便な方法として大規模検査が可能。検査精度も高い。

◎血液検査の原理: 脳から血液に漏れ出てくるわずかなAβを,免疫沈降法と質量分析法を組み合わせて検出する。Aβはアミロイド前駆体タンパク質(APP)が2か所の切断を受けてできるペプチドだが,老人斑の主要成分となるAβ1-42の他にも切断箇所のわずかに異なる断片がある。脳で重合するのはAβ1-42であり,Aβ1-40やAPP669-711といった他の断片は重合能を持たない。

図2:Aβ関連ペプチドの構造

アミロイド前駆体タンパク質(APP)が2か所の切断を受け,AβやAβ関連ペプチドとなる。脳内で重合し老人斑を形成するのはAβ1-42。切断箇所の異なるAβ1-40やAPP699-711は重合能を持たない。

◎血液から,Aβ関連ペプチドのみを免疫沈降法によって抽出し,質量分析で各ペプチドの量を測定する。Aβ1-42と,Aβ1-40やAPP669-711の存在比が重要。脳へのAβ蓄積が陽性の場合はAβ1-42が低い。

――老人斑を構成するAβ1-42のAPP669-711との「比」が重要。

◎Aβ1-42とAPP669-711は脳から同じように漏れ,同じように分解される。しかし,Aβ1-42が脳で重合すると,血液中に漏れ出てくる量が少なくなり,血液のAPP669-711/Aβ1-42比が増加。

◎この方法を開発したのは,質量分析法専門家の島津製作所・田中耕一グループ。質量分析の世界では「比で測る」という方法がよくとられる。

――田中耕一さんは2002年のノーベル化学賞受賞以降,質量分析法の医療への応用に熱心に取り組む。

早期治療と一体となって初めて早期診断は意味を持つ

◎朗報:米国FDAは,PET検査などのバイオマーカーの変化が認められれば,症状の有無によらず薬を承認する。 

◎新しい時代:アルツハイマー病は予防する時代。アルツハイマー病患者の脳では,認知機能低下が起こる20~30年前から変化が始まっている。その変化をとらえて進行を止めることが,治療薬や予防薬開発の世界的潮流。

――次の目標は何?。

◎Aβ重合を止める薬の開発を進める。Aβは秩序立って重合する。重合開始に当たり,まず神経細胞膜上の糖脂質の一つGM1ガングリオシドとAβが結合してGAβ(ganglioside-bound Aβ)ができる。GAβを標的にすればアルツハイマー病の予防や根本的治療ができるのではないか。

◎アルツハイマー病を「早く見つけて止められる」疾患に変えたい。最後まで自分の意思をはっきり持って,生きがいを持って暮らせる社会をつくりたい。

やなぎさわ・かつひこ氏

1980年新潟大医学部卒。11年「アミロイド蓄積開始機構の解明と治療薬開発への展開」にて第48回ベルツ賞受賞。アルツハイマー病の病態研究を行ってきた。

Categorised in: 神経眼科