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2018年2月14日

9602: 先天性上斜筋麻痺その診断と治療

先天性上斜筋麻痺その診断と治療:につき調べる機会がありましたので準備段階の原稿をここに提示します。滑車神経麻痺(注1、2)と上斜筋麻痺の関連なども含めて、ご参考になればと思います。(小町、清澤)

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先天性上斜筋麻痺その診断と治療

Examination and diagnosis of congenital palsy of superior oblique muscle.

<概論と診断>

先天性上斜筋麻痺は小児の上下斜視の原因としては最も多い。滑車神経麻痺に限っても小児では70%が、成人でも30%程度が先天性であるとされる。生後早期からの頭位異常を主訴とすることが多く、その診断にはParksの3ステップテストが有効である(Step 1: 正面での上斜は左右どちらか、Step2: 右方視と左方視のどちらで上斜視が強まるか、Step3: 頭部の右傾斜・左傾斜のどちらで上斜は強まるか)。また、早期からの斜頸に伴う顔面の左右非対称も多い。

先天性上斜筋麻痺における上斜筋には解剖学的異常を伴うことが多く、手術時に確認される付着部異常や筋の欠損も見られるし、画像診断でとらえられる上斜筋の萎縮頻度も高いという。Helveston1992)は上斜筋付着を正常から欠損までの5群に分類した。ClassⅠ:腱が緩く容易に持ち上がる、ClassⅡ:腱が通常より鼻側で付着、ClassⅢ:薄い腱がテノン嚢に迷入、ClassⅣ:腱の欠損である。上斜筋牽引試験は眼球を内上転させて、眼球後方の上斜筋の張りを見る主観的方法で、これにより上斜筋の形態を推測できるとされる1,2

上斜筋麻痺の診断は、臨床所見によって行う。上斜筋の作用は下転、内方回旋、外転である(注3)。したがって、患眼内転時の下転が不足し、眼球は外方回旋を示す。

先天性麻痺であっても、若年の間には融像できていたものが中高年になって融像を維持できなくなり、症状が顕かになるケースも多い。したがって、先天性の滑車神経麻痺は、小児と老人で診断される。

<治療>

先天性上斜筋麻痺の治療は手術である。下斜筋の減弱が第一選択とされる。上下偏位が大きい場合には患眼の上直筋の後転術を加える。術前の上下偏移が15△以下であれば、おおむね1度の手術で良好な結果が得られるとされる。上斜筋に解剖学的異常があり上下偏位が23△より大きい場合には複数回の手術を要することがある3)MRIまたはCTによって筋の形態の異常を見ることが有効とされる。筋の欠損や低形成等により上斜筋牽引試験において牽引への抵抗が緩く、上下の眼位ずれが15△以上ならば患側の上斜筋のタッキングを行う。上斜筋のタッキングは医原性のBrown症候群を発生するリスクがあるが、上斜筋腱が緩い症例に限っておこない、術中に牽引試験をおこなって上斜筋の張り具合を調整することで医原性Brown症候群を防ぐことができるとされている4)。初回手術で十分な結果が得られなかった場合は上直筋牽引試験をおこない、拘縮が感知されれば上直筋の後転が選択され、上直筋牽引試験が正常ならば僚眼の下直筋後転が選択される1

また、垂直偏位を矯正するプリズムを処方することも積極的に試みてもよい。矯正するプリズム量は全偏位量を矯正する必要はなく、楽に融像が可能な範囲まで矯正すれば頭位異常が改善され、肩こりなどの頭位異常に伴う不調が軽減し、喜ばれることも多い。

 

役に立つ豆知識:

神経眼科で診断される先天性上斜筋麻痺は、加齢に伴い代償不全を来すことに関連して5070歳代の老人にも先天性滑車神経麻痺がしばしば診断される。古い写真を見て以前から頭位傾斜が続いていたことがわかれば、先天性の特徴と考えることができる。また両眼性の場合も少なくないことも留意点である。大型弱視鏡で検出される10度以上の外方回旋偏位はその上斜筋麻痺が両眼性であることを示唆する。(Bajandas F JKline L B:神経眼科レビューマニュアル 第2版(渡邉郁緒 訳),45-70,メディカルブックサービス,1989.)

 

 

 参考文献:

  1. 佐藤美保: 上斜筋麻痺の診断と治療,日本視能訓練士会誌401-52011

  2. Helveston EM, et al. A new classification of superior oblique palsy based on congenital variation in the tendon, Ophthalmology, 99(10), 1609-1615, 1992.

  3. Aoba K, et al.Clinical factors underlying a single surgery or repetitive surgeries to treat superior oblique muscle palsy, Springer Plus, 3, 361;(doi:10.1186/s40064-015-0945-3), 2015.

  4. Plager DA.Tendon laxity in superior oblique palsy, Ophthalmology, 9 (7), 1032-1038, 1992.

注1:滑車神経麻痺か上斜筋麻痺か?

そもそも、第6脳神経である滑車神経は、外眼筋の内の上斜筋だけを1:1対応で支配しています。ですから、滑車神経麻痺は多くの場合に上斜筋麻痺と同じ症状を示すことになります。以前の記事⇒(https://www.kiyosawa.or.jp/archives/50688916.html

しかし、細かく分けて論ずるとなると、神経の障害が原因であれば滑車神経麻痺ですし、筋に原因があれば上斜筋麻痺ということになります。例えば、明らかな脳腫瘍があって、それが神経の経路に重なっていれば滑車神経麻痺であって上斜筋の麻痺ではありません。また、上斜筋そのものの発達が悪いことが画像診断で確認できるような状況なら、それは上斜筋の問題と考えることになります。

注2:滑車神経の走行図:中脳下部の断面図。 滑車神経は脳幹の中で左右交差して背側に出る。他の脳神経が腹側に出るのとは違う。また、右の滑車神経核は左の眼窩に向かうというのも特徴的である。外傷で、両側に障害を持つことが多いのも、その構造に関連したものと考えられる。 image098

注3:第一眼位において上斜筋の作用が外転であることを理解するための図。

無題
上斜筋は眼球を上下に貫く軸(下図のX軸)の後方に付着しているため、第一眼位では外転に働く。内転位ではこの付着部が、先の上下軸の前方に代わるため、逆に眼球の内転を助けることになる。また、その状態では眼球の下転が最大の働きとなります。ですから上斜筋の働きを見たいならば内転位での上下を見るとよく解ります。

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Categorised in: 神経眼科