清澤のコメント:(ANN) 世界で新型コロナウイルスのワクチン開発が進むなか、イギリスの製薬大手『アストラゼネカ』が、深刻な副反応が出た疑いで、ワクチンの治験を中断すると発表しました。ニューヨークタイムズは、イギリスでの治験の参加者に、脊髄に炎症が起きる『横断性脊髄炎』が確認されたと報じています。
現段階では横断性脊髄炎はニューヨークタイムズの記事の中で言及されただけで、本当にそれであったかどうかも判然としません。しかし、本当に横断性脊髄炎であるとすれば、眼科でも視神経炎の原因の中で、多発性硬化症との鑑別が必要なものとして横断性脊髄炎を伴う視神経炎が重視されています。それであれば、抗AQP4抗体測定が既に行われたことでしょう。
---記事を抄出し一部を引用-----
多発性硬化症と視神経脊髄炎:その鑑別診断をどう行うべきか~重要度を増す抗AQP4抗体測定 http://www.qlifepro.com/special/2017/05/12/multiple-sclerosis-and-optic-neuromyelitis/
多発性硬化症と視神経脊髄炎 その鑑別診断をどう行うべきか~重要度を増す抗AQP4抗体測定
NMO患者に一般的なMS治療を行うと症状悪化につながる可能性
視神経炎による視力障害と急性脊髄炎による脊髄障害を主症状とする神経難病の視神経脊髄炎(NMO)は、神経線維を覆う髄鞘の破壊により視力低下や四肢の感覚障害を起こし、神経難病の多発性硬化症(MS)と症状が類似している。
国立病院機構医王病院 統括診療部長の高橋和也氏は、MSとNMOの診断・治療・鑑別について講演した。「近年、自己抗体の抗アクアポリン4(AQP4)抗体の発見により、NMOはMSと異なりAQP4抗体陽性の症例が多いこと、そしてMSと分類されていた患者の中にはNMO患者が多く含まれていることが分かってきた」。両疾患の鑑別なしにNMOに対して一般的なMS治療を行うと、症状悪化につながるので、抗AQP4抗体測定による診断がより重要度を増している。
NMOは、従来から海外では視神経炎と脊髄炎が数週間以内の間隔で連続して起こるデービック病という単相性の疾患としてMSとは異なる疾患として分類されていたが、国内ではMSの一種である視神経脊髄型MSと分類されていた。ところが2004年にNMO症例の半数以上が抗AQP4抗体陽性だったことが分かった。日本国内の視神経脊髄炎型MSの血清でも半数以上が抗AQP4抗体陽性だった。
MSは高緯度地域に患者が多いのに対し、NMOでは患者分布や有病率に偏りが少ない。日本での有病率はMSが人口10万人当たり5~15人であるのに対し、NMOの有病率はMS患者の4分の1程度で、女性が圧倒的に多い。
NMOの臨床症状は、MSに比べ、両側性の視神経炎により失明に至りやすく、脊髄障害では同時に両足に症状が出現する横断性症状を呈することが多い。NMOではMSに比べ意識障害、延髄の病変も多く、突然死をきたすこともある。
MS | NMO | |
---|---|---|
男女比 | 1:3 | 1:10 |
発症年齢 | 25歳前後にピーク、50歳以上はまれ | 35歳前後にピーク、高齢発症あり |
視力障害 | 中心暗点 | 失明、両側性障害 |
脊髄障害の特徴 | 片側症状 | 両側症状、強い痺れ痛み |
脳病変の症状の特徴 | 眼振、MLF | 意識障害、吃逆、嘔吐、SIADHなど |
合併症 | 甲状腺 | シェーグレン症候群、SLEなど |
人種差 | 白人に多い | なし |
アクアポリン4抗体 | 陰性 | 陽性 |
オリゴクローナルバンド | 90% | 10~15% |
造影病変 | オープンリング | 雲状 |
治療 | インターフェロン、FTY20 | ステロイド、血液浄化 |
M23抗原を用いたELISA法は、CBA法により近い感度・特異度を提供
NMO治療はステロイド内服をベースに、アザチオプリンやタクロリムスといった免疫抑制薬の併用も行われることが少なくない。一方で、MSではインターフェロンやフィンゴリモド、生物学的製剤などによる薬物治療が行われる。(NMOをMSと誤診して)MSの治療を行った場合は逆に症状が悪化するから、両者の鑑別診断が重要。現在のNMOの診断基準では、視神経炎と急性脊髄炎があることを前提に、以下の3項目のうち2項目以上を満たすことと規定されている。
- 3椎体以上の連続性の脊髄病変
- MSの診断基準であるPatyの脳MRI基準を満たさない
- NMO‐IgG(AQP4抗体)陽性
とりわけ抗AQP4抗体陽性が大きなカギを握る。(中略)M23抗原を使用した間接蛍光抗体(CBA)法とM1抗原を用いた酵素免疫測定(ELISA)法の2種類だったが、2017年春から新たにM23抗原を用いたELISA法による検査に変更されたことで、感度・特異度が期待できるようになった。
CBA | ELISA | ||
---|---|---|---|
抗原 | M23抗原 | M1抗原 | M23抗原 |
感度 | 高 | 中 | 高 |
特異度 | 高 | 中 | 高 |
保険収載 | なし | あり | あり |
MSとNMOとの鑑別が付きにくい患者にはNMOの治療を優先すべき
また、NMOの初期では該当する臨床症状を呈しながら、抗AQP4抗体は陰性という症例が存在し、経過観察中に陽性に転じることがあるため、注意深い経過観察に応じた抗AQP4抗体検査が必要。
さらにMSとNMOとの鑑別が付きにくい症例が一定割合存在する上に、MSに対するNMOの割合は、アメリカでは100人に1人に対し、日本では10人に2~3人と非常に高い。MSとの誤診による治療で症状が悪化する危険性が日本では高いことから、抗AQP4抗体検査に重要性がある。両者の鑑別が付きにくい場合はNMO治療でMSが悪化することは少ないので、NMOの治療を優先した方が望ましい。
(村上和巳)提供:株式会社コスミックコーポレーションを短縮改変
Categorised in: 全身病と眼