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2020年2月25日

11550:アイトラッキングシステムを用いた認知症スクリーニングの可能性:記事紹介

清澤のコメント:アルツハイマー病の臨床評価に眼球運動を使おうという考えは古くからあり、短時間で迅速に行う眼球運動の分析をその早期診断に使おうというアイデアはありうるものと思われます。今後そのアイデアがどこまで広がるかに注目してゆきましょう。

武田 朱公 (大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座准教授)「週刊 医学界新聞」2020年2月17日 https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03359_02 から1200文字で抄出します

日本の認知症患者数は2025年に700万人に達し,認知症の前段階とされる軽度認知障害(Mild Cognitive lmparmcnt:MCI)も認知症と同程度の有病率と推定される。世界の認知症患者数は4000万人以上で,2050年には1億人を超え、開発途上国における認知症患者の増加が著しい。1)

認知症早期診断の難しさ

Livingstonらの報告によれば,認知症の危険因子のうち約35%は現実的に回避可能であり,生活習慣病の改善などの適切な介入によって認知症の発症予防や進行抑制が可能である。1)。認知症の早期発見・早期介入の重要性は大きいが、認知機能障害を早期に見つけることは難しく,多くの患者は進行してから受診する。原因は,簡便な認知機能評価法が存在しない点にある。検査の最初は, MMSE(Mini Mental State Examination)などの簡易認知機能検査で行われる。しかし時間がかかる上,被検者の心理的負担が大きく,スクリーニング法として問題点が多い。

アイトラッキングを利用した新しい認知機能評価法

筆者らは,視線計測装置を用いたアイトラッキング技術による簡便かつ客観的な認知機能評価法の開発を進めた2〉。本評価法は,認知機能評価タスク映像とアイトラッキングを組み合わせることで,注視点データから被検者の認知機能を定量的に評価する。記憶,注意,判断,視空間認知などの認知機能ドメインを評価するタスク映像を提示し,被検者の視線動向を連続的に定量記録する〈図1〉。視線データを基に各タスクの正答率が算出され,定量的スコアとして提示される。タスク映像を眺める検査時間はわずか3分弱である。また.被検者は間違えた場合も周囲に知られることはない。医療者側の労力の軽減にもつながる。

算出される認知機能スコアは,従来の標準的認知機能評価尺度のスコアと高い相関を示す。(図2)。特にMCIの診断精度に優れ,短時間の検査であるがその感度・特異度はMMSEとほぼ同等であった。アイトラッキング式認知機能評価法では視線の動きを連続記録しているため,検査時間中で膨大な視線データを得ることができる。精度の高い診断アルゴリズムでは認知症のタイプの鑑別診断にも応用が期待できる。

社会実装と実用化への可能性

アイトラッキング式認知機能評価法は,その簡便性ゆえ非常に応用範囲が広く, さまざまな形での社会実装が期待できる。また現在筆者らは,このアイトラッキング式認知機能評価法をスマート端末で実装するためのシステム開発を進めている。さらに本評価法は,言語の介在が相対的に少ない認知機能検査であるために,言語の壁を超えたグローバル展開も視野に入る。認知機能の簡便なスクリーニング検査法の普及と機能回復・維持の方法を提供することで認知症に関連する種々の社会問題の解決をめざしている。

参考文献

  • Lancet 2017 [PMID: 28735855]
  • Sci Rep 2019 [PMID: 31506486] 左の文献の抄録を下に訳出しました。

Sci Rep. 2019 Sep 10;9(1):12932. doi: 10.1038/s41598-019-49275-x.
Novel Method for Rapid Assessment of Cognitive Impairment Using High-Performance Eye-Tracking Technology.
高性能アイトラッキング技術を使用した認知障害の迅速評価のための新しい方法。
大山A、竹田S、伊藤Y、ほか
概要
認知症患者の急増が世界的な健康問題として浮上しています。証拠の蓄積は、早期診断とタイムリーな介入が認知機能低下を遅らせる可能性があることを示唆しています。認知症の診断は一般に、訓練を受けた試験官によって行われるミニ精神状態検査(MMSE)などの神経心理学的検査を使用して行われます。これらの伝統的な神経心理学的検査は有効で信頼できるが、認知症の日常的なスクリーニングツールとして単純でも十分に短いものでもない。ここでは、視線追跡技術を利用した簡単な認知評価を開発しました。被験者は、視線が視線追跡装置によって記録されている間にモニターに表示される一連の短い(178秒)タスクムービーと写真を見て、認知スコアは視線プロットデータから決定されます。認知スコアは、27人の認知健康コントロール(HC)、26人の軽度認知障害(MCI)患者、27人の認知症患者を含む80人の参加者で、アイトラッキングベースの評価と神経心理学的テストの両方で測定されました。視線追跡ベースの認知スコアは、神経心理学的検査のスコアとよく相関し、MCIと認知症の患者の検出において優れた診断性能を示しました。アイトラッキング技術を使用した迅速な認知評価により、定量的スコアリングと認知機能障害の高感度検出が可能になります。

Categorised in: 全身病と眼