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2020年2月21日

11537:目と心の健康相談室を利用した患者の実態報告:荒川和子ほか

目と心の健康相談室を利用した患者の実態報告

荒川和子, 小町祐子, 大音清香, 若倉雅登, 清澤源弘

(日本視機能看護学会誌4号21-24)

清澤のコメント:荒川和子さんが理事長を務め、私も理事として参加させていただいている「目と心の健康相談室」の患者実態をまとめた論文が印刷できました。大慶至極に存じます。会の活動報告としてご笑覧いただければ幸いです。

要 旨

目的:眼科不定愁訴に対応する相談室の利用者記録の分析から相談や対応の状況を把握し,成果や今後の課題を検討するこ

方法:対象者34名の基本情報,相談内容および相談室の対応について分類し,傾向を調べた。

結果:利用者の約8割は女性だった。眼瞼痙攣や術後不適応などの患者が多くを占めた。「診断・治療Jと「受けとめの心理」に関わる相談が多く,「不安傾聴と助言」「疾患の説明」といつた形で対応していた

考察:利用者は疾患とその付き合い方についての十分な説明と,周囲から理解されることを求めていた。患者の病の語りに対応できる眼科専門職による相談室は一定の効果を上げていると考えられた。より多くの患者に対応できる体制づくりを進める必要があると思われた。

キーワード: 相談室, 不定愁訴, 病の語り, 傾聴と助言, 社会的受容

はじめに

 眼科受診患者の中には眼瞼痙攣や術後不適応など不定愁訴を持つ難治性眼疾患の例が少なからず存在する。このような患者は視覚活用が困難でロービジョンに相当する程度の重い自覚症状を持つが,疾患の原因が不明確である率が高い。そのため,診断に至るまでに時間がかかることや患者本人が疾患を理解,納得し受け入れることが困難なケースとなる。そうした患者が現状に納得し社会復帰していくためには,当該疾患の知識を備えた眼科専門職が時間をかけて患者と向き合い,説明や心理支援を含めた十分な対応をすることが必要になる。しかし,日々の診療時間には時間的制約があり,望まれるような対応は物理的に困難である。

 そこで,眼科医と看護師が主体となり,眼科不定愁訴に悩む患者に対応するための「目と心の健康相談室」(以下,相談室)を医療の外部機関として立ち上げた。今回,2015年の立ち上げから数年を経て相談室の利用状況を検証し,その役割や効果,今後の改善課題について検討することとした。

I, 方法

1、相談室の概要

 相談の流れを相談室の概要とともに図1に示す。相談室は半年間の有料会員制で、継続利用が可能である。医師と看護師が主体となって相互に連携を取りながら対応しているが,事例によっては関係機関と連携を取りながら利用者の自立に向けた支援体制を取っている。利用者の基本情報と相談内容および相談室の対応状況は,利用者ごとにすべての相談記録を残している。

2、対象

 対象は,2015年4月から2016年12月までに相談室に入会した125名のうち,A眼科医院に受診歴のある相談室利用者(以下,利用者)34名(22~ 83歳:平均53.2±17.5歳)とした。

対象者34名の相談記録から情報を集計,分析した。

3、分析方法

 相談記録から,利用者の年齢,性別,診断名(以下,疾患)を集計した。利用者からの訴えや相談内容(以下,相談内容)とそれに対する相談室の対応(以下,対応状況)は,相談記録の記述内容を抽出,コード化した上でラベリングをおこなってカテゴリー分類し,相談内容と疾患,および相談内容と対応状況について分布をもとに検討した。また,相談回数と転帰についても検討をおこなった。

4 、各カテゴリー分類

1)相談内容は5項目のカテゴリーに分類された。A医院にて得られた診断(疾患)と,その原因および治療方法に関わる内容を「診断・治療」,現症に罹患したことや周囲との関係の中で生じている怒りや不満の訴えを「受けとめの心理」,診断や治療に対する不信感の訴えを「医療不信」現症の進行やそれに関わる生活変容についての不安などを「予後と生活への不安」,診断に対し公的制度の申請希望があり,その手段の問合せを「公的制度申請方法」とラベリングし分類をおこなった。

2) 相談室からの対応状況については以下の8項目のカテゴリーに分類された。「傾聴と助言」利用者の訴えを傾聴し,それに対する助言をおこなったケース,「疾患の説明」得られた診断について,疾患の原因や治療の不明点,思い込みや誤解がないように丁寧に説明したケース,「セカンド・オピニオン」:実際の症状に対して得られている診断が相談室での相談時点でも不安が残るような場合に他院や神経内科等他科への受診を勧めたケース,「受診法助言」受診時に医師とのコミュニケーションが適切に成立していないことが窺われ,アドバイスをおこなったケース,「補助具の紹介」遮光眼鏡等の補助具の使用をアドバイスしたケース,その他いわゆる「社会資源の紹介」,「患者会等の紹介」と在籍校などへの働きかけといった社会参加支援をおこなったケースを「社会参加支援」とラベリングした。

Ⅱ. 倫理的配慮

相談室利用者には入会時に回頭および書面にて,データとして学会発表や論文に使用することがあることを説明している。本研究対象者についても個人が特定されないことや個人情報保護を遵守することを説明し同意を得た上でA医院院長に倫理的配慮の承認を得た。

Ⅲ. 結果

 対象者の年齢と性別の分布を表1に示す。年齢分布では30~ 40代が全体の45%を占めた。対象者全体の性別割合は,男性7名,女性27名で女性が79%を占めた。60代以上の14名中,男性は1名であった。

 対象者の主な疾患は眼瞼痙攣が18名(53%)で最も多く,自内障および眼瞼の術後不適応と,糖尿病網膜症など網膜系疾患が各4名(12%),レーベル病,強度近視,各2名(6%),その他,屈折矯正に満足が得られないなど診断名が不明なもの4名(12%)であった。いずれも完全回復の見込めない慢性症状を伴う疾患であった。

 相談内容は,症状の辛さの訴えを含め「診断・治療」のカテゴリーに分類されるものが17名(50%),「受けとめの心理」16名(47%),「医療不信」19名(26%),「予後と生活への不安」11名(32%),「公的制度申請方法」2名(6%)で,各利用者の訴えは複数のカテゴリーに亘っていた。疾患別の相談内容の分布は「診断・治療」と「受けとめの心理」項目には眼瞼痙攣が多く,「医療不信」は術後不適応の利用者からの相談が多かった。また,網膜系疾患とレーベル病,強度近視の全8名が「予後。生活不安」を訴えていた。いずれの疾患も,複数のカテゴリーに亘る相談内容であった。(表2)

 対応状況として,「傾聴と助言」を31名(91%),「疾患の説明」を26名(76%),「補助具の紹介」を17名(50%)におこなっていた。さらに,「患者会等紹介」12名(35%),「セカンド・オピニオン」9名(26%),「受診法助言」と「社会参加支援」各8名(24%),「社会資源紹介」が4名(12%)という結果であった。表3に各相談内容に対する対応状況を示す.「傾聴と助言」,「疾患の説明」は相談内容に依らず実施されていた。「予後・生活不安」には相談数に対し「疾患の説明」の割合が高かった。相談内容に合わせ,多岐に亘る支援をおこなっていた。

 対象期間における対象者の利用回数は図2の通りである。17名(50%)が5回以内の利用であつたが,20回以上の利用者が4名(12%)みられた。5回以内の利用者は相談室からの助言で目標が達成できたり,病気と付き合いながら仕事を継続できていたりしていた。一方,20回以上の利用者は,「毎週,話し相手をしてもらえる」,「助言に助けられている」,など継続的な支援に対する感想を述べていた。

Ⅳ. 考察

 眼科分野に限らず進行性あるいは慢性疾患に罹患した者は,その後の人生を疾患の症状とともに歩んでいかなければならない。人生を有意義に過ごすためには自分の身体症状と心の折合いをつける必要があると思われる。眼科疾患に限らず不定愁訴を訴え続ける患者は自分の状況に驚き戸惑い,足踏みを続けている状態と考える。

 本研究の対象者34名の性別は,約8割を女性が占めた。眼瞼痙攣が女性に多いということもあり,相談室利用者全体にもみられる傾向である。また,女性は男性よりも援助を求める行動に抵抗感が少ない一方,男性にとって他者に援助を要請することは抵抗感を感じるものである3とされ,行動特性の性差が表れていると考えられる。また,年代では,45%を30~ 40代が占めた。壮年期(中年期への移行期)の援助要請行動に関する先行研究は筆者の知る限り見受けられないが,家庭を含めて社会活動の前線で中核を担うこの時期に慢性症状を伴う疾患に罹患することは自己の活発な社会活動に大きな影を落とす状況であり,予後や今後の生活不安を含め,援助要請行動に傾いた結果と考えられる。

 相談室の利用者にはレーベル病や網膜症など「視覚障害」に認定される疾患の患者もいるが,多くは眼瞼痙攣や術後不適応など,開瞼困難や差明により日常生活での視覚活用が困難なケースであった。これらはさほど稀な疾患ではないが,社会的認知度が低いことに加え,外見上その見えづらさを周囲から理解され難い。さらに,一般的な視機能検査では正常な結果がでることから,専門職にも理解されないケースすらみられる。他施設での,総合診療科における不定愁訴患者の実態調査で安森らは,「検査結果には反映しにくい,診断のつきにくい症状にかなりの患者が悩まされている状況が伺えた」と報告している。このことからも,今回の眼科不定愁訴に関する実態調査結果において,相談内容に「診断・治療」が50%を占めることは,この意味で,医療機関での説明では納得できず,疾患の原因から治療までの十分な説明を求めて相談室を利用していることの表れであると推察される。

 また,レーベル病など社会資源を利用できる患者の場合は,社会福祉施設等に結婚や遺伝の悩みを相談することは難しく,相談室を利用したと思われる。

 さらに,「受けとめの心理」項目が47%を占めることは,自分に起こった状況を,周囲の無理解に対する怒りや悲しみも含めて理解し受け止めてくれる存在を求めていることの現れと考えられる。この点についても先に述べた安森らの研究報告において,「受診動機は身体症状であるが,面接すると人間関係がうまくいかず,傷つき,よりストレスを生む結果となっていることが伺えた」と述べており今回の調査結果と同様の傾向があると考えられた。この事からも,身体症状の違いはあっても,不定愁訴に悩む患者の多くは同じような心理状況にあると推察される。

 Kleinmanは「病の語りは,どのように人生の問題が作り出され,制御され,意味のあるものにされてゆくのかを教える」と述べている。また,南雲は受傷後の苦しみを「社会的受容論」として,「自分の中から生じる苦しみ:自己受容」と「他者から負わせられる苦しみ:社会受容」と区別した上で,自己受容を促進するのは社会受容であるとしている。自己の病を自覚していても社会受容が欠落していれば,真の受容には至らないことも事実であると考える。病を語ることのできる場は社会的な受容を具現化している場であり,そこで利用者が相談室という自己の病を語る場を得,諦めていた自己目標を達成し,再生に向かうことができたとすれば,身体状況と心の折合いが付けられた結果と思われる。

 飯田はカウンセリング方式の健康相談について「医療によって解消しない部分を引き受けることである」と述べている。しかし,病を語り始める発端には身体症状への深い理解と共感が必要であり,相談技術のみならず,眼科不定愁訴を訴える疾患についての十分な理解を備えた相談者が対応していくことが重要になってくる。その点で眼科専門職による相談室は,専門知識を活かしつつも外部機関として不定愁訴に悩む患者の思いを受け止める役割を担い,一定の効果を上げていると考えられる。しかし,より多くの患者が社会的受容を得るためには,不定愁訴を訴える患者の疾患や心理状況の知識を備えた専門職の養成が急務である。本研究の結果を踏まえ,相談室における対応事項のさらなる整備も含めた活動を広めていく必要があると考えられた。

 本論文は第33回日本視機能看護学会で発表した内容を改変したものである。

利益相反に該当なし

(清澤注:収載時に図表及び文献は省略した)

Categorised in: 全身病と眼