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2020年9月18日

12271:AI超えを目指そう 若倉雅登 記事採録です

清澤のコメント:眼科コメディカル向けの雑誌の10月号から「AI超えを目指そう」 井上眼科病院名誉院長 若倉雅登先生の記事抄出で採録です。これからの医療は、医師だけでなく医療スタッフも参加しての「AI超え」こそ目指すべきであると、いつもの若倉節が今日も冴えています。『眼科ケア』は、眼科看護師や視能訓練士、眼科コメディカルなど、眼科に勤務するすべてのスタッフのための専門誌。眼科ならではの診療とケアの最新の知識が掲載されています。最先端の医療技術や明日からすぐ始められるケアのアイデアなど、患者さんのQOLを向上させるヒントも出ています。眼科職員は、院長先生に医院経費での購入をおねだりしてみてください。

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井上眼科病院名誉院長 若倉雅登

第173回 AI超えを目指そう

17歳(2020年7月当時)の藤井聡太新棋聖がこのタイトルを獲得した棋聖戦のネツト中継では、AIソフトによる優劣状況や最善手の表示などが行われた。AIが最善手としては示さなかつた藤井の一手が、後から「AI超えの手だった」などと評判になった。今は将棋も囲碁も、AIが人間に追いつき、追い越したといわれ、国産のスーパーコンピユータ「富岳」が演算能力、処理能力、探索能力など4部門で世界一となったというニユースが流れた2020年夏の出来事である。

医療もAIに任せたらよいところはある。しかし、これからの医療は、医師だけでなく医療スタッフも参加しての「AI超え」こそ目指すべきである。AI超えといっても、何も藤井棋聖(現二冠)のような天才を目指そうというのでも、「人間が計算機になれ」というのでもない。人間の医療のために、AIでなく人間しかできないことがあると、言いたいのである。

「人間しかできないこと」とは何か。端的にいえば、相手の身になって感じ、考える想像力を働かせることである。日常の眼科臨床で、「見えにくくなった」「視力が落ちた」という訴えはあふれるほどある。しかし、視力などの検査値をみれば、その訴えに見合うデータは出てこない。AIなら、そこでおしまいとなり、「患者の単なる勘違ぃ」という結論になるだろう。しかし、ことは人間の実感である。数字に出ていなくてもそう感じていることは確かだから、なぜそう感じているのか、もう一度考えてみることこそ、AIにはできなくて、人間だからこそできることなのだと思う。数字には表れないほどの些細な変化を感じているのかもしれない、じつはまぶたや眼表面や眼位に変化が出ているのかもしれない、今は検出できないが生活環境の中で何か変化が出ているのかもしれないと、想像力を膨らせることは人間ならできる。あるいはまた、心配事ができた、よい睡眠が取れていない、体調に変化が生じたなどといつた精神心理面の不調が表現されているのかもしれないと、発想を変えて考えることはできる。医師は忙しくてそんなことに時間を使っている暇はないというのが本音かもしれない。しかし、医療はチームでするものと考えれば、看護師や医療スタッフが患者とのコミュニケーションの中で、気付けたり、対応できることを見つけたりするかもしれない。採血やMRIなどの画像検査に何ら異常がなくても、我々人間は倦怠感や疲労感や疼痛に悩まされることがある。同じように、測定した視力が良好でも、診察上眼球に異常がなくても、さまざまな目や視覚の不調を感じることは少なからずある。

私の外来で最も多くみられるのが、耐え難いまぶしさ(羞明)によって生活に著しい不都合が出ているケースである。我慢して視力検査などをすれば良好な数値が出るだけでなく、実際に眼球に高度の差明を説明できるだけの病変はない。視力や視野検査で正常な所見が得られれば、それは日常生活でも使えているはずだと医療者は思い込むが、こうした患者たちは、視覚を使えば使うほど差明が高度になり、眼痛、頭痛、悪心、高度の疲労感など、さまざまな症状が随伴してくるから、とても健常な生活はできない。医療者がAIと同じ仕事をするだけなら、そこには想像力が動員されないから、前述したような患者の苦境はわからない。あり得ないとさえ思う。医学教育も数値や画像による診断法ばかり教える。つまり、人間とAIを競争させるような教育しかしないので、こうした想像力を働かせることは非科学的だ、経験主義的だと考える人もいるだろう。でも、AIと人間の土台の違いは、人間は人間だからこその理解力と想像力だと思う。

神経眼科やロービジョン専門家の有志九名で、差明等の感覚過敏で苦しんでいる三十三症例を解析した症例研究が神経眼科誌にこのたび受理された。一方、厚生労働省の障害者総合福祉推進事業の調査研究として「差明等の症状により日常生活に困難を来している方々に対する調査研究」が2020年度のテーマに取り上げられた。これらはいずれも国際的にも類例のない研究で、大きな第一歩だと思う。

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