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2020年7月9日

12069:緑内障手術にマイトマイシンC使用する事に関する話題:

某大学で 線維柱帯切除術を予定されていた患者さんが、マイトマイシンの使用に関して特別な同意を求められたことが不安だとして来院されました。調査してみましたら、いくつかの点が確認できました。

1)まず緑内障診療ガイドライン(第 4 版) 日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会の32ページを見ますと:下記のような記述となっており、マイトマイシンを線維柱帯切除術に併用するのは標準的な治療法です。

Ⅴ 観血的手術 .

適 応:一般に,観血的手術は,薬物治療やレーザー治療など他の治療法によっても十分な眼圧下降が得られない症例,副作用やアドヒアランス不良などによって他の治療 法が適切に行えない症例,他の治療では十分な眼圧下降 が得られないと考えられる症例が適応となる.手術の適応は,それぞれの患者について,病型,病期,病識,アドヒアランス,年齢,全身状態,患者の社会的背景など から総合的に判断し決定されなければならない. また,手術に限らずすべての治療は,患者にその治療法や治療に伴う偶発症・合併症について十分説明し,患者の同意のもとに行うべきものである.

術式: 現在,原発開放隅角緑内障(広義)をはじめ大部分の緑内障病型に対して最も広く行われている術式は線維柱帯切除術である.しかし,術式の選択は,それぞれの術式の奏効機序,長期成績,合併症やそれぞれの患者の病型,病期,手術既往歴などを検討したうえで決定する必 要がある.近年,海外では minimally invasive glaucoma surgery(MIGS)と呼ばれる低侵襲な緑内障手術が臨床応用されつつある.

濾過手術: 強角膜輪部などに小孔を形成し,前房と結膜下組織の 間に新たな房水流出路を作製する手術である.最も重篤 な合併症として濾過胞からの晩期感染がある.線維柱帯切除術をはじめ濾過手術を施行された患者には,晩期感染のリスクについて十分説明しておかなければならな い.日本人におけるマイトマイシンC 併用線維柱帯切 除術後の晩期感染症の発症確率は 5 年で 2.2% であった.

(1) 線維柱帯切除術:強膜弁を作製し,強膜弁下に輪部組織の切除を行い, 強膜弁を縫合して濾過量を調整する術式である.現在, 原発開放隅角緑内障(広義)を含めた大部分の緑内障病型に対して最も一般的な緑内障手術である.濾過部位の瘢痕化抑制を目的に代謝拮抗薬であるマイトマイシン C または 5-フルオロウラシルが術中,術後に使用されて いる.

線維柱帯切除術の手技で必要な周辺虹彩切除術を 行う前に,オビソート®が使用されることもある.レー ザー切糸や強膜マッサージなどにより術後眼圧の調整を 行う.

2)もう少し詳しく調べてみますと:

① マイトマイシン C 併用線維柱帯切除術について:

緑内障において、薬物やレーザー治療によっても十分な眼圧下降が得られない症例は手術 の適応となります。緑内障に対して最も広く行われている術式は線維柱帯切除術です。

濾過手術である線維柱帯切除術は、線維柱帯を切除し小孔を作成して、前房と結膜下組織 の間に新たな房水流出路である濾過胞を作成し、眼圧下降をはかる手術です。濾過胞の瘢痕化 による閉塞を抑える目的で、代謝拮抗薬であるマイトマイシンC を使用します。0.01%に希釈したマイトマイシ ンC を結膜、強膜に一定時間塗布します。マイトマイシンC を使用する事で、濾過胞が癒着しにくくなり、濾過胞残存の成功率が高くなります。

以下のような合併症が紹介されています。

(早期合併症)

○前房形成不全:過剰濾過によって浅前房、低眼圧になり、脈絡膜 まく剥離が生じます。脈絡膜剥離が生じる と房水産生は低下し、水晶体は前方に圧迫され、さらに前房は浅くなり、ついには消失し ます。長期化すると低眼圧黄斑症が出現することもあります。処置は、結膜からの濾出が 原因の場合は結膜縫合を行います。結膜からの漏出がなく過剰濾過によって浅前房 、低眼圧を生じている場合は、まず保存的に圧迫眼帯をして炭酸脱水素酵素阻害薬を投与し比較安静を行います。それでも前房再生傾向のない場合及び前房が消失した場合は強膜弁縫合 を行います。

○脈絡膜剥離: 濾過過剰の場合に生じ、高度の場合は炭酸脱水素阻害薬およびステロイド薬の内服を行 います。改善傾向がみられない大きなものは脈絡膜下液の排液を行います。

○低眼圧黄斑症 眼圧が術後5mmHg 以下になると発症率が上昇します。黄斑症が消失した後にも視力低下が残存 することがあります。

(晩期合併症)

○濾過胞からの漏出 : マイトマイシンC を使用すると濾過胞 ろかほう が癒着せず、眼圧下降効果が長期にわたって維持 されやすい一方、濾過胞が菲薄化し漏出が生じる危険があります。感染の危険がある場合 は、下方結膜の遊離弁移植もしくは濾過胞内自家血注入を行います。

感染症 マイトマイシンC を併用した場合の最も重篤な合併症は、濾過胞からの晩期感染です。 2%に生じます。感染症が濾過胞内に限局する場合は抗生物質の投与を行います。硝子体腔内に及んだ場合は、硝子体手術を行います。

○濾過胞再癒着:濾過胞再癒着が生じると、眼圧が上昇してきます。薬物治療にて十分な眼圧下降が得ら れない場合は、再手術となります。

3)ここからが今回の騒動の理由となった事態を説明する文書は以下の通り。

協和発酵キリン会社からの通告: 2019 年 10 月作成 KK-19-10-26990

マイトマイシン注用 2mg および 10mg の自主回収について

このたび、マイトマイシン注用 2mg および 10mg(以下、「本製品」)の原薬(本製品の有効成分: マイトマイシン C)の製造過程において無菌性の確保に影響しうる事実が判明したため、この原薬を 使用して製造された本製品を下記のとおり自主回収することにいたした。

各医療機関 におかれましては、下記の回収対象品の在庫をお持ちの場合には、使用を中止し、お取引特約店に返 品いただきたくお願い申し上げる。 なお、誠に申し訳ございませんが現時点では本製品の交換品はない。今後の供給については、原薬の製造過程における無菌性を保証したのちに再開する予定。

健康被害の可能性: 国内で流通している本製品は、国内製造所で最終の出荷試験を実施し、無菌試験を含む承認規格 に適合した製品を出荷しており、品質に問題ないことを確認している。このことより重篤な 健康被害のおそれはないと考えている。

結論:線維柱帯切除術にマイトマイシンCを併用することは不思議なことではない。現在製造会社の都合で、一時出荷が停止されているので、この薬を使用するには特殊な許可と患者さんからの個別の同意が必要なわけである。

Categorised in: 緑内障