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2017年2月17日

8595: 緑内障以外の視神経症の視野

特集、眼科 59号2巻 金原出版 
この視野結果は緑内障でしょうか?から、

『4、緑内障以外の視神経症の視野:清澤源弘、小町祐子、浅見裕太郎、江本博文』
の記事の採録です。わたくしたちの記事以外もさらに秀逸です。お買い求めの上ご覧ください。

雑誌「眼科」表紙

雑誌「眼科」:緑内障以外の視神経症以外の視野1

雑誌「眼科」:緑内障以外の視神経症以外の視野2

雑誌「眼科」:緑内障以外の視神経症以外の視野3

雑誌「眼科」:緑内障以外の視神経症以外の視野4

雑誌「眼科」:緑内障以外の視神経症以外の視野5

緑内障以外の視神経症の視野

清澤源弘1、2 小町祐子1、浅見裕太郎1,3、江本博文1,2
1清澤眼科医院、2東京医科歯科大学眼科、3東京医科歯科大学神経内科、

視神経障害ではしばしば緑内障であるかどうかの判断に迷う様なケースがみられ、古くから教科書では視神経疾患の視野変化に触れる記載がある1)。本稿では4つの代表的な視神経障害を挙げ、各々の概念と症状、視野の特徴、予後、その他の特徴を説明する。

1. 虚血性視神経症2)
虚血性視神経症は視神経を栄養する短後毛様動脈の循環障害で起こる。視野を水平に分ける上または下の暗点を生じるのが特徴である。その発症は緑内障に比べると明らかに急激である。前部虚血性視神経症であれば発症直後に視神経乳頭の上半分または下半分に蒼白な浮腫がみられ、その頻度は35%だが特異度は93%ともいわれる2)。しかし、後部虚血性視神経症では視神経乳頭の異常はみえない。また、陳旧化すれば視神経には陥凹も生じるし、原発開放隅角緑内障(POAG)との鑑別が難しい乳頭を示す場合もありうる。POAGも突然に視野欠損に気が付くということがあるから、発症の突然さをもって緑内障ではないと言うことはできない。この虚血性視神経症は非動脈炎性の虚血性視神経症と動脈炎性の虚血性視神経症に分けられる。此処では詳しくは述べないが、網膜静脈分枝閉塞症や網膜動脈分枝閉塞症でも緑内障に似た弓状の暗点を生ずるので、その視野に対応する網膜に古い静脈や動脈の閉塞が無いことの確認はぜひ必要である。
1-1:非動脈炎型の虚血性視神経症
非動脈炎性の虚血性視神経症では、その血管閉塞の原因に動脈炎の要素はなく、高血圧や動脈硬化の要素や基礎疾患としての糖尿病などが重視される。非動脈炎型虚血性視神経症を起こしやすい視神経乳頭の形というものがある。そのような視神経乳頭をBurdeは、危険性のある視神経乳頭(disc at risk)と呼んだ3)。それは正常な視神経乳頭に見られるはずの乳頭陥凹の直径が小さい、あるいは欠如していて「充填された視神経乳頭(filled optic disc)」とも表現される。また、直径の小さな視神経乳頭でも虚血性視神経症のリスクは高い。視神経乳頭の低形成を見るにはその直径を評価するのがよく、それにはDM/DD比を用いることが有効である4)。DM/DD比は視神経乳頭中心から黄斑まで(disc-macula間)の距離を視神経乳頭直径(disc diameter)で除したもので、およそ3.0 以上であれば小乳頭であると判断できる。虚血性視神経症などで乳頭が腫脹すると、発症前にその視神経がこれらの危険な条件を満たしているかどうか、わかりにくくなる。そのような場合には反対側の視神経乳頭の形や直径を観察することも有効である。虚血性視神経症の多くは乳頭異常のほか、全身の血圧低下、動脈硬化、貧血その他の病態などを基礎疾患とする危険因子を持つものである3)。その場合には抗血小板薬としてのバイアスピリンや循環改善剤などを使うことが多い。その他、上部視神経乳頭低形成(SSOH)については循環障害なしに出生時から視野欠損を示す疾患であり緑内障や視神経低形成との鑑別を要する疾患であるが、別稿に扱われるので此処では省略する。
1-2:動脈炎型の虚血性視神経症
動脈炎性の虚血性視神経症というものが、非動脈炎型虚血性視神経症と並立する概念として存在する。高齢者に多い巨細胞性の動脈炎は側頭動脈などに強い炎症が起き、巨細胞と呼ばれる炎症細胞を血管壁に浸潤させ眼動脈の分枝である短後毛様動脈にも急性の閉塞を起こす。その症状は、65歳以上の高齢者において全身の倦怠感とともに頭痛や顎のがくがくする感じ(jaw claudication)、一過性黒内障などを起こさせる。また、血液検査では赤沈亢進やCRP上昇を特徴とする。この疾患の場合、強い虚血性視神経症が進行性に進展し、反対眼にも虚血性視神経症が発症することがある。これを疑う場合には至急ステロイドパルス点滴を開始し反対眼への波及を抑える必要がある。診断時には皮膚の上から触れられる側頭動脈を探し、その生検を行うことも有効である。また、ステロイドパルス治療後のステロイド減量も再発を防ぐために慎重かつ緩徐に漸減を行う必要がある3)。

2. 特発性視神経症を含む典型的視神経炎(多発性硬化症関連、solitary isolated optic neuritis, recurrent isolated optic neuritisを含む)
2-1:特発性視神経炎:
特発性視神経炎の特徴は、ある日突然発症する視野欠損である。その多くは中心暗点ないしラケット状と表現される中心部とMariotte盲点の連結した暗点である。Beckらが行った多施設トライアル研究では、発症時の患眼の主な視野変化はびまん性ないし中心暗点であったが、15年後には初発眼でも反対眼でもその主な視野障害は神経走行に沿った視野変化、つまり部分的な弓状暗点や傍中心暗点といったきわめて緑内障に類似した視野変化に変わっていたと報告している5)。
2-2:多発性硬化症に伴う視神経症:
多発性硬化症multiple sclerosis(MS)は、突然発症する中心暗点をきたす視神経炎をその初発症状とすることが少なくない。MSにともなう視神経症は原発性視神経症と視神経の形や症状が類似しており視神経の観察のみによる鑑別は困難である。多発性硬化症は中枢神経系の慢性炎症性脱髄疾患であり、時間的・空間的に病変が多発するのが特徴である。MRIを撮像すると実際には症状を呈した病巣の何倍もの数の炎症性脱髄病巣が中枢神経組織に出現していることが知られている。

3. 抗アクアポリン4抗体関連視神経症と抗MOG抗体を伴う視神経症
これらを総称して視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とする6)。
3-1:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎(抗AQP4抗体陽性視神経炎):
抗AQP4抗体陽性視神経炎は水分子を運ぶチャネルであるアクアポリンのうちの4型に対する抗体ができて視神経炎をおこすものである。神経学的には横断性脊髄炎(Devic病)に関連するとされている。以前は多発性硬化症の亜型であると考えられていたが、最近は独立した疾患と考えられている7)。抗AQP4抗体陽性視神経炎は急激に発症し、ステロイド抵抗性で多彩な視野変化をきたす。この抗AQP4抗体陽性視神経炎ではグリア細胞の1種であるアストロサイトが標的細胞となり、男女比が1:9で女性に多い。治療にはステロイドのほか血液の透析なども有効とされている。白濱らが当医院の症例を含む63例をまとめた結果では、抗AQP4群は他群に比べ経過中最低視力、最終視力ともに低かったとしており、典型的難治性視神経症と言える8)。これを疑う場合、その治療は確定診断に先行して開始されるべきかもしれない。
3-2:抗ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質抗体を伴う視神経症: 
抗MOG抗体を伴う視神経症は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)に対する抗体をもつ視神経症である。抗AQP4抗体陽性視神経炎と同様、視神経から視交叉、視索にかけて障害が起きやすい。このため抗MOG抗体陽性視神経症は抗AQP4抗体陽性視神経炎とよく似た視野変化を示す。しかし、MOG抗体を持つ患者は明確な臨床的特徴の違いがあり、その発作回数は多く、血清反応陰性またはAQP4抗体陽性患者よりも優れた回復性を示すという。NMOSD 215例のうち64.7%がAQP4抗体陽性、7.6%がMOG抗体陽性であって、両者とも陽性のものはおらず、MOG抗体陽性者はAQP抗体陰性者の21.1% を占めていたという。これら視神経炎関連のものが疑われるならば、神経眼科医または神経内科医へのコンサルテーションが望ましいだろう。

4. ミトコンドリア視神経症
ミトコンドリア視神経症は一般に進行が緩徐でありコントラスト感度低下を示す。色覚障害、中心暗点、急性期の視神経乳頭腫脹を示すが、やがて乳頭は蒼白になり萎縮を示す。無痛性で対光反応を比較的保持する9)。
4-1:遺伝性:Leber(レーベル)病及び優性遺伝性視神経症
1)レーベル病(Leber’s hereditary optic neuropathy,:LHON):
若い男性において突然視力が低下し中心暗点を示す疾患にレーベル病がある。この疾患はミトコンドリアの遺伝子に変異を持っており、それを基盤として細胞内の呼吸系に問題があって発症する。青年期に突然、片眼あるいは両眼に視神経炎を発症する。ミトコンドリア遺伝子に原因があるために、その発症は女性よりも男性に多く見られる。遺伝子に異常があるからといって、そのすべてが発症するわけではなく、異常な遺伝子の比率の高い症例のみ、ストレスなどの外的な要因が強くかかった時に発症すると考えられている10 )。この疾患では、視力や視野の低下に比べて対光反応の減弱が乏しいとの指摘がある。また、視野を詳細に見ると両耳側が障害される例が多く、傍中心両耳側中心暗点を見ることがある。また、視神経における疼痛は見られない。発症直後の視神経では乳頭の発赤のほかに乳頭周囲の微細な血管の拡張と蛇行を指摘できることがある。視神経乳頭に発赤腫脹を示せば、緑内障との鑑別は比較的容易である。
2)優性遺伝性視神経萎縮(autosomal dominant optic atrophy:OPA-1)
対光反応の良い小児で視神経の萎縮が徐々に進行する。黄斑の厚みは薄い。このような症例に中にOPA-1遺伝子が原因である優性遺伝性視神経萎縮が混在している。確定診断には血液で遺伝子診断を行う必要がある。優性遺伝性視神経萎縮では乳頭耳側が菲薄化するがレーベル病ではそれに比べると全体が萎縮するともいう。
4-2: 後天性ミトコンドリア視神経症:
この概念には1)栄養障害性、2)薬剤性(エタンブトールによるもの、その他)、3)たばこ・アルコール弱視、4)メタノールによる視神経萎縮を含む視神経症が含まれる。

文献
1) David O Harrington.: Chapter 13, Optic nerve, In The Visual Fields. A textbook and atlas of clinical perimetry (Fourth Ed). 231-263, The C.V. Mosby Company, Saint Louis, 1976
2) 江本博文 他: 虚血性視神経症. 神経眼科臨床のために 第3版, 102-113, 医学書院, 東京, 2013
3) Burde RM.: Optic disk risk factors for nonarteritic anterior ischemic optic neuropathy. Am J Ophthalmol 116: 759-64, 1993
4) Wakakura M et al: A simple clinical method of assessing patients with optic nerve hypoplasia. The disc-macula distance to disc diameter ratio (DM/DD). Acta Ophthalmol (Copenh) 65: 612-7, 1987
5) Keltner JL et al. Optic Neuritis Study Group: Visual field profile of optic neuritis: a final follow-up report from the optic neuritis treatment trial from baseline through 15 years. Arch Ophthalmol 128: 330-337, 2010
6) Sato DK et al: Distinction between MOG antibody-positive and AQP4 antibody-positive NMO spectrum disorders. Neurology 82: 474-81, 2014
7) Jasiak-Zatonska M et al: The Immunology of Neuromyelitis Optica-Current Knowledge, Clinical Implications, Controversies and Future Perspectives. Int J Mol Sci. 17: 273, 2016
8) 白濱新多郎 他: 視神経炎の病型と臨床増の検討(抄録)日眼会誌119: 213, 2015
9) Sadun A A: Mitochondrial optic neuropathies. J Neurol Neurosurg Psychiatry 72: 423-426, 2002
10) Tanaka A en al: A family with Leber’s hereditary optic neuropathy with mitochondrial DNA heteroplasmy related to disease expression. J Neuroophthalmol 18: 81-83, 1998

Categorised in: 緑内障